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御本人様とは一切の関係はございません。
先日白尾市で___
今日もまた物騒なニュースが流れている。
しかも俺が住んでいる市。
その中でも意外と近いところ。
まぁ俺はあまり外に出ないから関係ないんだけれど。
コポコポと音を立てて温めた牛乳をお気に入りのマグカップに入れる。
すると、甘ったるい香りを放つココアが出来上がる。
一緒に焼き上がったトーストと、それにかける用の蜂蜜などを持ってテーブルに行く。
あぁ、電気つけてなかったな。
気にせずにニュースを小耳に挟みながらココアを啜る。
「…さむ」
冬の朝はなぜこんなにも寒いのだろうか。
暗い部屋でカーテンも開けずに寒さに震える。
明かりは冷たいテレビの光だけ。
ストーブもつけずに朝食を食い終わる。
ブブッ
無機質なバイブレーションが静かな部屋に鳴り響く。
ガタッガタン
椅子が倒れる音がする。
スマホを開くとそこには、
【桐谷部長】
の文字。
「はぁ〜…」
椅子を立て直して体を預ける。
そして、大方察しはつくが、確認する。
本当に面倒だ。
〈ちょっと今日出勤してもらえるかな?〉
〈人手が足りないんだ〉
こんなにのんびりとしているのは、今日は有給をとっているから。
さもなければ、今じゃ電車の中だろう。
現在時刻午前4時。
なぜこんな時間に起きている事を前提としているんだ?
ニュースも普通7時だろう。
行けないの旨を伝えるため返事を返すと、案の定怒ったような文面。
〈クビにするぞ?〉
〈大人しく来い〉
〈お前は俺に従っていればいいんだよ〉
「…うざ」
ダルくなって俺は「やめます」とだけ伝えて、連絡先を消した。
これで、思い出す必要も無くなった。
俺は【桐谷】が嫌いだ。
だって俺を苦しめるから。
無駄に錘だけ渡して離れやがって。
束縛だけしてどっか行きやがって。
ふざけんな。
目の前がボヤけてうざったらしい。
さっさと振り切ってしまいたい。
また連絡が来ないかな、なんて淡い希望を抱いてトークの友達一覧を見る。
俺のこの端末の連絡先は数少ない。
紅葉瑠樹(こうようるき)
鮫川翠(さめかわすい) +2
歌時蒼(うたときあおい) +3
村上紫笑(むらかみしえ)
母親 +13
父親 +7
田中先輩 +68
黒川課長 +29
桐谷弥絃(きりたにやいと)
もうこのトークには呼び慣れた名前はない。
聞き慣れた名前もない。
自分の名前だって【中村】だ。
また呼んで欲しいなんて思わなくなった。
__本日、午前5時16分に白尾市で20代男性2人が大型トラックに轢かれる事件が起きました。加害者は飲酒運転をしており、被害者2人は病院に搬送されましたが、未だ安否が確認できていません。
「…ははっ」
「また、離れていくんだね」
近所すぎる場所に動揺しつつも、被害者の姿を見て笑ってしまった。
紫笑も翠も、そっちに行っちゃうんだ。
せいぜい桐谷と仲良くしやがれ。
あーあ、既読つければよかった。
村上なんて送ってきてすらないけど。
ピンポーン
「こんな朝っぱらから誰だよ…」
鍵を開けてリビングに戻る。
どうせアイツかアイツだろ。
ガチャッ
「お邪魔します」
「って、暗ぁw」
無駄に爽やかな蒼い声と、眠たげな朱い声。
「なんで来たの、瑠樹も、蒼も」
「一緒にシクテルズでもどう?」
「テレビなんて見てないでさ?」
ピッとテレビを消して電気をつける彼ら。
眩しい光につい目を細める。
「「Nakamu」」
「っ!」
「やめて、その名前で、呼ばないで」
「大丈夫、Nakamuは悪くない」
「僕らがいるよ、独りじゃない」
「やめてよ…俺が悪いんだよ…」
「俺が、前を見てなかったから…!」
「Nakamu」
「Na〜kamuっ!」
「うぁっ、グスッ、ヒグッ」
「あぁああああぁぁぁあ」
彼らは、俺が落ち着くまでずっと傍にいてくれた。
また呼んで欲しい。
だから、俺も名前を呼ぶ。
「Broooock、きんとき」
彼らは驚いたような、泣きそうな複雑な表情をした。
その後、嬉しそうに思いっきり破顔した。
「「なぁに?Nakamu!」」
庭で俺に足りない3色の花が揺れた気がした。