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ある日、庭で洗濯物を干していると、エプロンのポケットに入れてある呼び出しベルが震え出す。
「あ、巴様からの呼び出しだ。すみません門真さん、巴様から呼び出しがあったので行ってきます」
「あらそうなの? 分かったわ。侑那ちゃんも本当に大変ねぇ」
「あははは、まあ、巴様は気まぐれで呼び出すことも多いのでそこはちょっと困るかも。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
門真さんは六十代半ばの女の人で、気さくで話しやすい。
旦那さんとは早くに離婚し、一人で娘さんを育て、その娘さんも成人して今では地方で暮らしていることから、一人で暮らすよりも住み込みの仕事のほうが楽しいからと、もう十年近く上澤家で働いているという。
メイドの中で一番歴が長いのはメイド長を務めている羽川さんで、運転手をしている旦那さん共々もう二十年近く上澤家に仕えているとか。
他の方も数年は働いているようで、長続きしないのは巴さん専属メイドとして雇われた人だけだったらしい。
だからこそ、巴さんと話をしたり、言い返したり出来る私のような存在は貴重みたいで期待されていた。
ただ、ここ最近、何故か呼び出し頻度が増えていて、しかも、用件も大したことはなくて、その間家事を中断させなければいけないので共に作業をしているメイドさんには申し訳なくなるものの、巴さんからの呼び出しは何よりも最優先なので、私は急いで彼の部屋へ向かっていく。
「お待たせ致しました、巴様。ご用件は?」
呼び出されてすぐに部屋を訪れたものの、
「遅い。もっと早く来れないのか?」
顔を見せて早々に怒られるけれど、これはいつものことで想定内。
「申し訳ございません、お庭で洗濯物を干していたものですから」
「洗濯? そんなもの、他のメイドにやらせれば済むことだろう?」
「そういう訳にはいきませんよ。いくらベテランさんばかりと言っても、人手は多いほうが良いに決まっていますし、私もメイドの一人ですから」
「お前は俺の専属メイドなんだろ? それなら家のことをするよりも常に俺の側に居るのが当然だろ? いちいち呼び出すのも面倒だ、如月に言ってお前は他のことをやらなくていいようにしてやる」
「そんなっ! それは困ります」
「何故だ?」
「確かに私は巴様専属メイドとして雇われている身ではありますけど、このお屋敷で働いている以上、他の皆さんのお役にも立ちたいからです」
「…………そんなことを思うなんて、意味が分からないな。仕事をせずに金が貰えるならそれが一番いいだろう?」
「そうでしょうか? 寝起きを共にしている仲間のような存在なので、その方たちの役に立ちたいと思うのは自然なことかと。それに私は、ただお金が貰えればいいと思って仕事をしている訳でもありません。やるからには責任感を持って与えられたことをやっていますし、どんなことにでも一生懸命打ち込むと、いつかその経験がどこかで役に立つものです。だからーー……」
「…………もういい、好きにしろ」
「ありがとうございます。それで、巴様のご要件は?」
「喉が渇いたから飲み物を用意しろ」
「かしこまりました。コーヒーと紅茶、どちらがよろしいでしょうか?」
「お前に任せる」
「それでは、只今用意して参りますので、少々お待ちください」
「すぐに持って来い」
用件を聞いた私は巴さんの部屋を出て厨房へと向かって行く。