テラーノベル
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――夢から目覚めた朝、梓はいつものように目覚まし時計の音で起きた。
夢の中で出会った少女のことが頭から離れない。
あの異質な空間、迷い家(マヨイガ)と呼ばれる場所。
しかし、いくら願っても再びあの夢を見ることはなかった。
梓は、東京都内の雑居ビルの三階にある
オカルト雑誌編集社でライターとして働いている。
ビルは新宿区の一角にあり、周囲には様々なテナントが入っている。
編集社のオフィスは中途半端な広さで、
広々としているわけでもなく狭いわけでもない。
出社した梓は、自分のデスクに座り、編集作業を始めようとした。
ふと周りを見渡すと、いつもよりも人が少ないことに気づく。
何か大当たりの取材ネタでも掴んだのかと悔しがる梓。
奥のデスクに座っている編集長に声をかけようと近づく。
編集長は、50代後半の男性で、名前は佐伯。
万年うだつの上がらなそうな雰囲気だが、実は頭の切れる優秀な人物。
大手編集社から、左遷という形で今のデスクに編集長としている。
愚痴は一切こぼさないが、時々、そのイラつきが雰囲気の中に現れたりもする。
そのせいで奥さんと離婚するはめになり、奥さんと子供は家を出た。
梓が声をかけようと近づくと、佐伯は仕事そっちのけで
昼間からビール片手にホラーゲームに興じていた。
気だるそうな感じでゲームをプレイしている佐伯を見ながら
梓はたしなめながらため息をつく。
飲んでいる理由について編集長は、
「オカルト雑誌っていう得体のしれない記事を扱っているんだ。
頭がおかしくならないように飲まなきゃやってられん」と
主人公と視線を交わしながら言葉を吐く。
ほかのライターが少ないことに言及しようと佐伯に声をかけ、理由を尋ねる。
すると、佐伯はにやりと笑みを浮かべながら「ネタ探し」とぼやく。
再び呆れたため息を吐く梓。
何気にマヨイガの話を佐伯に振ってみる。
佐伯は、「あの伝承だか言い伝えのやつか?」と答える。
梓が前に記事として執筆していたのを佐伯はもちろん知っているので
「ただの都市伝説だよ、そんなの」と、返事を返す。
梓が、マヨイガかもしれない場所に夢とはいえ
最近訪れたことを試しに話してみると佐伯の雰囲気が少し変わる。
「マヨイガねぇ……。心当たりは何かあったりするのか?」
と、意味ありげな視線と問いかけをする佐伯。
梓は黒い手帳のこと、夢で会った少女のこと、巫女などの事実は伏せて
「理由は分からないが夢で訪れたかも…」とつぶやく。
「そうか……」と言う佐伯であったが、
梓が、最近追っている都市伝説のことを思い出す。
「そういえばお前“黒い手帳”の都市伝説をネタに追っかけてたよな?」
と、静かな声で梓に問いかける。
動揺を悟られないよう答えを返す梓。
「今夜予定空いてるか? それに関しての話がある」と佐伯に飲みに誘われる。
ここでは聞かせられない内容だと悟った梓は、その夜
佐伯の行きつけである個室が備えてある居酒屋で落ち合うのであった。
(→ 後編へ続く)
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