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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第51話 〚静かな居場所〛(りあ視点)
放課後の図書館は、昼間よりずっと静かだった。
ページをめくる音と、遠くの足音だけが響いている。
「ここ、使おっか」
澪がそう言って、奥の長机を指した。
えま、しおり、みさと、そしてりあ。
五人で並んで座るのは、りあにとって初めてだった。
(……変な感じ)
でも、嫌じゃない。
ノートを開いて、宿題を始める。
最初は誰も多くを話さなかったけれど、
しおりが小さく声を上げた。
「この問題、意味わかんなくない?」
「わかる」
みさとが即答する。
「日本語なのに日本語じゃない」
えまが笑って、
「先生に翻訳してほしいわ」と肩をすくめた。
そのやり取りを聞いて、
りあは少しだけ、口元が緩む。
(……こういうの、知らなかった)
その時。
「……あれ?」
聞き覚えのある声がした。
顔を上げると、
本棚の向こうから海翔と玲央が出てくる。
「偶然だな」
玲央が目を瞬かせる。
「宿題?」
「うん」
澪が頷く。
「ちょっと詰まってて」
「どこ?」
海翔が自然に机の端に立った。
ノートを覗き込んで、
「あー、ここはさ」と、分かりやすく説明し始める。
「そういうことか……!」
えまが声を上げる。
玲央も、別の問題を見て、
「これは公式より考え方だな」と補足した。
りあは、少し迷ってから、
自分のノートを差し出した。
「……ここ、分からなくて」
声が、思ったより震えなかった。
海翔は一瞬だけ驚いた顔をして、
すぐに笑った。
「いいよ。ここはな——」
丁寧に、当たり前みたいに教えてくれる。
見下しも、特別扱いもない。
その瞬間。
(……あ)
胸の奥が、じんわり温かくなる。
誰かの輪に入るために、
無理に可愛く振る舞わなくていい。
誰かを傷つけなくても、
ここにいていい。
「……ありがとう」
りあがそう言うと、
澪が隣で小さく頷いた。
「どういたしまして」
その一言が、
りあの中で、深く残った。
——初めて、思った。
(私、救われてる)
特別な言葉も、劇的な出来事もない。
ただ、一緒に宿題をして、
分からないところを教えてもらって、
笑って。
それだけなのに。
図書館の窓の外は、
夕焼けに染まっていた。
りあは、その光を見ながら、
静かに思った。
(……ここから、やり直せるかもしれない)