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朝、目を覚ますと、人形にキスをする。


あんなに朝が弱かった翔太は、夜中じゅう眠らないようで、俺が目を覚ますと、必ず挨拶をしてくれた。


『おはよ』


今日は少し、声に柔らかさがある。

毎日、声の調子は違った。

姿が見えないから、そのトーンで、翔太を感じるしかない。


💚「おはよう翔太。愛してるよ」


一緒にいるとき、 愛してるなんて数えるほどしか言わなかったはずだ。

それでも、姿が無いと、言わずにはいられない。強い言葉で、どうしても翔太を繋ぎ止めたくなった。


『阿部ちゃん、仕事順調?』


💚「うん、順調だよ。すごく寂しいけど」


食卓の向かいに、翔太を座らせる。


朝食は簡単に。シリアルにミルクをかけた。翔太を失ってから、めっきり食欲がなくなっていた。痩せるとふっかあたりがうるさいので頑張って食べているが、これくらいが限界だ。忙しいと飲み物だけで済ませてしまうこともあった。


『ごめんね……』


翔太は、こうなった事情を一切明かさなかった。というか、本人も、わからないようだった。


さくさくとシリアルを噛みながら、笑顔で首を振る。

ごめんね、なんて言うなよ。


『阿部ちゃんに、触れたい』


💚「んっ」


スプーンを持ったまま、帽子を被った頭を撫でた。翔太は悲しそうに言う。


『………感じない』


ゆっくりと手を引っ込めた。


人形には触覚が無かった。


あるのは、視覚と聴覚のみ。ビロードの目から映像が届いてるのだという。真っ暗な映画館でひとりだけ取り残されて、干渉できない世界を延々と見せられてるみたいだと翔太は言った。


そんなの俺も同じだった。


翔太を欠いた世界は、ちゃんとそこに存在するはずなのに、非現実的で、俺とは無関係で、次々に俺に何かを要求して来るけれど、どれにも心が動かされることはなかった。


ただ、翔太がいない、それだけで、俺の世界は死んでしまったのだ。


💚「ごちそうさま」


『まだ残ってるよ?』


💚「ン。もう要らない。昨日の夜たくさん食べたから」


『そっか』


翔太の声が暗く沈んだものになるのを防いで、俺はシャワーを浴びに浴室へ向かった。

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