もしかして、私の見た目が地味すぎて、それで逆に覚えてたとか?
「穂乃果。携帯の番号、後で教えて」
私達の前を去り際に、先輩が耳元でそう囁いた。
え、今、何て言ったの? 聞き間違い?
思わず体が固まる。
「穂乃果! 今、先輩に何か言われた?」
「えと……」
「うん、うん」
美咲が、私の顔を興味津々で覗き込む。
「携帯の番号後で教えてって……」
「えー!!!」
「ちょっ、ちょっと、声が大きいよ」
私は、慌てて口元に人差し指を立てた。
「それって、これから穂乃果と連絡取り合いたいってことだよ」
美咲が興奮気味に言った。
月城先輩が私の番号を聞いて、いったいどうするっていうの? あんなイケメンが、私みたいな女を相手にするわけないし……
お金持ち過ぎて、私からお金を引き出すのも絶対違うし。じゃあ、何目的?
今、向こうで他の男子達と話してる先輩は、周りの人と比べ物にならないくらい輝いてる。美容系の男子はみんなそれなりにオシャレでイケメンだけど、その中でも先輩は群を抜いてる。
上品で綺麗な顔、それぞれのパーツもバランス良くて、目鼻立ちがハッキリしてる。肌もきめ細かくて女性の私も完全に負けてる。
「先輩が私と連絡取る理由がなんて、何一つ見つからない」
「穂乃果。考え方、マイナス過ぎない?」
美咲が笑った。
私も、思わず苦笑い。
「とにかくちゃんと番号教えなよ。何かのチャンスかも知れないんだから」
ちょっと考えてから、とりあえずうなづいた。
それからしばらくの間、私は美咲と話したり、別の友達とも雑談した。
それでも、なんだか……気持ちが全然落ち着かなくて、ずっとソワソワしてる。
時間が経つにつれて、みんなお酒が回ってきたみたいだった。酔ってはしゃいだり、踊り出したり、歌い出す人も出てきた。
こういうの、本当に苦手。
早く帰りたい。
「穂乃果。じゃあ、私、そろそろ帰るね」
「あ、待って、私も帰る!」
良かった、助かったよ、美咲と一緒に帰ろう。
「何言ってるの! 穂乃果は月城先輩と話さなきゃダメだよ。私は先に帰るから。ちょっと待ってて」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。わざわざ呼びにいかなくていいからね!」
もし先輩が来たら恥ずかしい。
だって、私はからかわれてるだけで、「嘘だろ? まさか本気にしてたのか?」なんて言われたら……
そっか……やっぱりあれは本当に冗談だったのかも。私をからかってただけなんだよ、きっと。
ドギマギしてたら、向こうから美咲が先輩を連れて戻ってきた。
うわ、どうしよう……
本当にきちゃったよ、いったい何て言ったらいいんだろう。