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本気にさせたい恋

153 - 第153話  叶えられた願い①

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2024年10月09日

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朝起きるとベッドの隣で寝ている透子の姿が見当たらない。

いつも手を伸ばせばすぐ傍にいて。

毎朝寝ぼけながらも隣で寝ている透子を抱き締めて、傍にいる幸せを噛みしめるのが毎朝の日課なのに。

いつもよりも広いベッドに一人でいることに不安を感じて部屋を出る。

家のどこかにいるとはわかっていても、当たり前にいてくれるその姿が見当たらないだけで不安になる。



どこかにいるはずの透子を探しながらリビングへ向かうと。

キッチンで料理を作っている透子を見つけた。

キッチンにいたのか・・。

透子の姿を見つけてホッとする。


「おはよう樹」

「おはよう透子」


そしてオレに気付いた透子がキッチンから笑顔で声をかける。


そっか。

これからはこんな風な当たり前の幸せも増えていくのか。

朝起きてベッドの中で隣で”おはよう”と言ってくれるのも嬉しいけど。

こうやってキッチンで料理を作りながら”おはよう”と言ってくれるのも、婚約したことが実感出来て、また新しい幸せを知る。


「樹。今日こっちの会社来るんだよね?」

「あぁ。うん。今週はこっちで普通に仕事出来るかな」

「そっか。じゃあ、今日は会社一緒に行ける?」

「うん。一緒に行こっ」


そういえば、ここ最近はもう一つの会社の方が忙しくて、元々の会社に行くことも少なくて。

この新しい家で一緒に住みだしたとはいえ、仕事がある日はオレが先に家出ることが多くて。

そんな日は透子を朝早く起こすのも悪くて、起きた時に隣で眠る透子をそっと抱き締めてから、オレはそのまま忙しなく先に仕事場へ向かう。

たまに透子も早い時もあったし、思い返せば朝は案外すれ違っていたことに気付く。

平日にこんな風なゆっくりした朝も実は初めてかもしれない。


「樹の準備出来たら朝食にしよ」

「了解」


きっとこれから当たり前に毎日繰り返す朝。

一緒の初めてを少しずつ重ねて、その都度感じる最初の新鮮な幸せ。

まだ自分が知らない時間がこれから待っているのだとまた嬉しくなる。

それが繰り返すたびに、その初めても新鮮さも無くなってしまうだろうけど。

でもきっと。

それからはそのいつも通り一緒に過ごす当たり前を幸せに感じるはず。


そして準備をして一緒に朝食を食べていると。


「ハイ。樹これっ」


透子があるモノを渡してくれた。


「えっ!弁当!? ホントに作ってくれたの?」


これを用意してくれる為に、透子早くから起きてたのか・・・。

やば。嬉しすぎんだけど。


「こっちで仕事する時は、一緒にお弁当食べようって約束してたから」

「ホントにあれ、ちゃんと覚えてくれてたんだ」


実際あの弁当のやり取りはあの時の雰囲気だけの会話だと思ってた。


「当たり前でしょ? 私も樹と一緒にお昼食べたいし」

「ってか覚えててもホントに作ってくれるなんて思ってなかった」

「ちゃんと約束したでしょ? 必要ないならいいよ? 誰か他の人にあげるし」

「いやいやいや!いる!いります!! ってか、なんで他のヤツに弁当やらなきゃいけないの」

「だって樹いらなそうだし?」

「はっ?なんで!? この弁当作ってもらえるのどんだけ夢だったか」

「へっ?  嘘ばっか(笑)」


いやいや、男が好きな女性に弁当作ってもらうシチュエーション憧れないヤツいないでしょ。


「いや、ホンットに。密かに夢だったんだよね。好きな人に弁当作ってもらえるの」

「今までの女の子の誰かには作ってもらったことはあったでしょ?」

「ない」

「えっ?ないの? 夢だったんでしょ?」

「夢だった。だから作ってもらってない。てか、作って来たヤツもいるけど受け取ってない」


正直オレに気がある女性が弁当作ってきたこともあった。

本気の恋愛を知らなかったその当時のオレでも、その作ってきた弁当はオレを想って作ってくれたことくらいわかっていて。

家で手作りの料理を作ってもらわないのも弁当を受け取らないのも、なぜかなんとなくオレの中で素直にそれが嬉しいと思えなくて。

明らかにその頃一緒にいた女性たちとオレと気持ちの温度差があって。

軽く遊んだりカラダの関係だったりは平気なのに、それ以上の彼女としての特別な行動や気持ちを見せられてしまうと、それが重く感じて気持ちが離れてしまう。

オレはそういうことを今までの女性にしてほしいと望んだことがなかったから、相手が真剣だとわかっていても、その気持ちに応えられなくて自然とそれを避けるようになっていた。


「えっ、酷~い。なんで? きっとその人、樹の為に頑張って作ってきたんだと思うよ。それ結構傷つくと思うな」

「それもわかってる。今はね」

「確かに今の樹ならそんな酷いことはきっとしないよね。でもなんで受け取ってあげなかったの?」

「透子。オレの言葉聞いてた?」

「え?何が?聞いてるじゃん」

「好きな人にって言った」

「ん?」

「弁当。好きな人に作ってもらえるから嬉しい。それ以外の人のは気持ちがあるからこそ受け取れない」


受け取れなかったのはオレがもしそれを食べたとしても、その込めてくれた気持ちを受け取れないとわかっていたから。

相手にとっては想いを込めた弁当でも、オレにとっては腹を満たすだけの弁当。


「あっ、そっか。そういうとこはちゃんとしてたんだ」

「オレなんでもかんでもいいワケじゃないから」


きっとあの時のオレは自分が本気になれなかった分、相手にも必要以上に期待されたりそれ以上を望まれるのが苦痛だった。

同じように軽く付き合える関係があの時のオレにとっては一番気楽だったから。


「そっか。じゃあ、好きな人には作ってもらえなかったのか」


だけど透子を好きになって、初めてオレの為に料理を作ってくれることが嬉しかったし、いつか弁当も作ってほしいと思うようになった。

あんなにも嫌だと思っていたのに、好きな相手には自然と自分から望むくらいになるのだと知った。


「だからお願いした」

「えっ?」

「オレが作ってほしいって思ったのは透子だけ。それ以外のヤツには作ってほしいって言ったこともないし、誰一人受け取ることもしなかった」

「あっ、そういうことか・・・」


料理を普段から作り慣れてる透子にとっては、弁当を作ることはきっと特別なことではないのだろうけど。

オレを想って作ってくれたその手間も時間も嬉しいから。

だから、オレにとってはそれは特別。

ずっと願っていた特別なこと。



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