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お股ポテト
29
はるにし
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人型生活六日目。
僕は反省していた。
(昨日の夜空観賞会、何もできなかった)
三人で手を繋いで星空を眺めていた。
とっても楽しかった。
(僕が楽しんじゃ、ダメじゃん!)
このままじゃ、シュメバルが進展しない。
僕は次の作戦を考えることにした。
(小説の次の展開は……買い物イベントだ)
魔術師団への入団が決まり、バルトが必要なものを買いに町へ行く。
一人にして逃げられては困ると、シュメリが付いていく。
そこでシュメリが、バルトに似合うとアクセサリーをプレゼントする。
(あのイベントは、晩酌回の後だった)
僕は決めた。
二人を買い物に行かせよう。
「今日はシュメリがお仕事だから、帰ってきたら明日の予定を聞いてみて」
バルトにも、明日忙しくないか、聞いてみよう。
そう思って、庭に行った。
バルトは、道具の手入れをしていた。
「バルト、お疲れ様」
ちょっと離れたところから、声を掛ける。
刃物を手入れしている時は、近付いちゃダメって言われてるから。
「おぅ、リンネ。どうした」
「あのね、明日って忙しい?」
「明日は、今日と変わらねぇな」
「そっか」
それなら、お出掛けはアリかもしれない。
「じゃぁ、じゃぁ……」
「リンネ!」
後ろから声が掛かって振り返った。
シュメリが走ってくる。
その後ろにはムスクがいた。
「姿が見えなかいから、また猫魔に戻ったのかと」
シュメリに抱きしめられた。
もうすぐ一週間だから、シュメリは心配していたんだ。
「まだ、人の姿でいてくれましたね、リンネ」
ムスクが僕の姿を見て、安心した顔をした。
「ムスクさん、こんにちは」
「猫魔に戻りそうな予兆などは、ないですか?」
「何も、感じません」
「人の姿に違和感は?」
「そういえば、ないかも」
猫の姿も、人の姿も、あんまり違和感がなかった。
「本来であれば、自在に猫と人の姿を切り替えられるのが獣人の猫魔です。違和感がないなら何よりです」
「昔のリンネは、できていたぞ」
バルトと一緒に暮らしていた頃は、確かにできていた。
(どうやっていたんだっけ。覚えていないや)
「今は、やり方がわかりません」
僕はシュンと肩を落とした。
「やはり、記憶を取り戻す必要がありそうですね」
ムスクが神妙な面持ちをした。
シュメリとバルトの表情が曇った。
(二人は、僕に無理に思い出させたくないんだ)
昨日の夜も、星を見ながらそんな話をしていた。
(でも、僕は思い出したい)
僕はムスクに向き合った。
「思い出す方法、ありますか?」
「リンネ、無理しなくても」
「そうだ。過去よりこれからだと、シュメリも言っただろ」
シュメリとバルトが慌てだした。
「僕は思い出したいよ。二人はどうして止めるの?」
シュメリとバルトが、息を飲んだ。
「無理に思い出せば、総てを失う危険も、あるからです」
代わりにムスクが答えてくれた。
「総てを、失う?」
思いもよらない言葉だ。
「リンネの記憶は、魂を包んでいる殻のようなものに隠されている。それは恐らく、自分で隠したのです」
「僕が、自分で?」
そんな覚えはないけど。
その記憶すらも、僕が自分で隠したんだろうか。
『こっちに来て、消えてしまわないように。もし、消えてしまったら——』
僕の声が頭の中で響いた。
(僕は、消えることを恐れていたの? 誰にその話をしたの?)
自分の声を追いかけるけど、何もわからない。
「他者の魔法で引き出してあげられる状態ではない、ということです。あとは、自分で思い出す他にありません」
「何を、すれば……」
「忘れる前の行動をなぞるなどすると、刺激になると思います」
ムスクが指先に紫の魔力を灯した。
その指が僕の額に触れる。
温かな魔力が流れ込んできた。
「先週と同じ、状態固定の魔法をかけておきます。人の姿のほうが、便利でしょうから」
「ありがとうございます、ムスクさん」
ムスクが僕の額から指を話した。
「記憶を戻すには、リスクを伴うのも事実です。シュメリやバルトと相談して、無理のない範囲で試してください」
「わかりました」
「記憶を取り戻すのがリンネのためだと、私は思います。ですが、決めるのはリンネです」
「はい……」
返事はしたけれど。
どうすればいいか、わからなくなった。
全部を失ったら、また初めましてから始めることになる。
今日まで過ごした思い出が、僕の中から消える。
そんなの、絶対に嫌だ。
(でも、だからって、忘れていること、忘れたままでいいの?)
昔だって、忘れたくないって思った。
だから僕は——。
(だから僕は、どうしたんだっけ)
忘れないように、忘れた時のために、何か、したんだっけ。
思い出せないけど、僕ならきっと、そうする。
(探してみよう。昔の僕が残したヒント)
やっぱり、小説を辿るのが良い。
僕の決意は、以前より硬くなった。
コメント
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第22話、読ませていただきました……! リンネが「僕が楽しんじゃダメ」と自分を律するところに、すごく胸が締め付けられました。シュメリやバルトに心配をかけまいとしながらも、それでも「思い出したい」と一歩踏み出す強さ。ムスクの「総てを失う危険」という言葉の重みが、ものすごく刺さります。読んでいるこちらも一緒に息を止めてしまうような、繊細な空気感でした。霞花怜さんの心理描写、やっぱり大好きです。続き、楽しみにしています🌷