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ビートが落ち着いた後の静寂。
バーの空気に、ほんのわずかな緊張が漂う。
「……あの頃のこと、まだ思い出す?」
左馬刻の声はいつもより柔らかく、でも鋭い。
私は一瞬目をそらす。
あの日の裏切り、あの敗北……
胸の奥でまだ痛みが疼く。
「……思い出すけど、もう終わったことだし」
笑顔でそう言うけど、声が少し震えていた。
本当は、まだ怖くて、音楽に戻る勇気が持てなかった。
左馬刻はゆっくり近づき、私の肩を軽く叩いた。
「お前、強がってるだけだろ」
その言葉に、心の奥の緊張が一気に溶ける。
そう、私自身も認めたくなかった――まだ怖い自分を。
「……怖かったんだ、正直」
つい本音が零れる。
左馬刻は無言で頷き、そっと私の手を握った。
「怖くてもいい。音は、逃げても逃げ切れない」
その言葉に、胸の奥で何かが鳴る。
痛みも、過去も、全部抱えたまま、音楽と向き合っていいんだ――
そう思えた瞬間、ビートが自然に体に流れ込む。
そして、ふたりの間の距離も少しずつ縮まっていく。
言葉にしなくても、音楽が二人の心をつなぐ――
そんな予感が、この港町の夜に満ちていた。