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週末の夜、バーはいつもより人で賑わっていた。
スポットライトがブースに照らされ、緊張と期待の空気が交差する。
「……行くぞ」
左馬刻が低く囁く。
その声に、心の奥が小さく震える。
怖さもあったけど、同時に胸が高鳴っていた。
ターンテーブルに手を置く。
かつての敗北の記憶が胸をよぎる。
でも今は、彼と一緒に音を作る――
それだけで、何も怖くない気がした。
ビートが流れ始める。
左馬刻のラップと、私のトラックがぶつかり合い、
バー中の空気を揺らす。
「……面倒くさいな、あんたの音」
つい笑いながら言うと、左馬刻が微かに眉を上げた。
でも、言葉の裏には、真剣な眼差しがある。
私も全力で応える。
ビートに乗せて、心の中の迷いも、怖さも、全部吐き出す。
曲がクライマックスに差し掛かると、左馬刻がふっと手を伸ばした。
その手が私の手と重なり、ぴったりとシンクロする。
鼓動とビートが一体になる瞬間――
二人の距離も、自然に縮まっていた。
曲が終わり、拍手が湧き上がる。
息を切らしながら、私は笑った。
「……やっぱり、音って怖くない」
左馬刻は少しだけ笑みを見せて言う。
「お前の音、悪くないな。……面倒くさいけど」
その瞬間、過去の傷も、裏切りも、全部が音楽の中で消えていくような気がした。
そして、二人の心も――確かに近づいた。