私の名前は「アンク=ユーフォニアム」
かつては、「アンジュ・ユーフォニウム」と呼ばれていたけれどね。
今はもう、その名前では呼ばれなくなってしまったから、この名前を使うことにしたよ。
さぁ、そろそろ始めようか! キミたちはどんな物語を見せてくれるのかな!? ************ ************―――ピシリッ……
(……あ)
ガラス細工が崩れるような音とともに、 彼の足元から黒い砂のようなものがこぼれ落ちていった。
それはさらさらとした質感でありながらも、どこか無機質的な感触であった。
―――パキッパキッ……バリンッ!!
(えっ?)
突然のことだった。
目の前にあったはずの巨大な水晶柱が砕け散ったのだ。
破片となったクリスタルの破片がキラキラと光を放ちながら宙を舞う。それは雪のようでもあり、星々の煌きにも見えた。
『……あぁ』
声にならない声で彼女は嘆く。彼女の眼前には無数の瓦礫の山が広がっていた。
それは彼女の愛した故郷であり、彼女が守るべき国だった場所。
しかし今はもう見る影もなく崩壊していた。
『なんでこうなった?』
『どうしてこんなことになった?』
『誰がやった?』
様々な疑問符が彼女の脳内を埋め尽くす中、不意に背後から聞き慣れぬ男の笑い声が聞こえてきた。
『アハハッ! 素晴らしい!! 実に素晴らしかったよ!』
振り返るとそこにいたのは見知らぬ青年。全身黒ずくめの服装をしており、右手には大きな鎌を携えていた。
『誰だお前は!?』
『僕かい? 僕は死神だよ。君を迎えに来たのさ』
青年はニヤリと笑った。
『迎えだと?』
『そうさ。君はやり過ぎたんだよ。だから神様に怒られた』
『……お前たちは、いったい何者なのだ?』
『ボクらはね。君たちにとっての神だよ』
『神だと!?』
『うん。キミたちに分かりやすく言うならば、天使かな。あぁ安心してよ。別にキミたちを裁こうとか、そういうつもりはないから。ただ少しだけ忠告に来ただけだからさ』
『忠告だと? それは一体どんなものだ?』
『そうだねぇ~。例えば、キミがこれから行くところについて、もう少し具体的に教えてあげようかなぁ』
「えっ?」
『うん、実はね。ボクがさっき言った通り、ここは異世界への入り口なんだよね。それで、この場所から行くことができる場所っていうのが、いわゆる【はじまりの街】みたいな感じの場所になるんだよ。だから、まず最初にキミが行かないとダメなのは……やっぱりあそこしかねーよなって思うわけだよ』
「あそこですか……?」
『そっ! あの街以外にはないと思うんだけど?』
「うぅん……」
『あれぇ~? ひょっとしたら行きたくないとか思ってたりする?あはぁ♪』……うぜえ。
『キミが望むならボクたちはいつだってウェルカムさ! お兄さんのお望みのままに!』
『マスターの御心のままに……』
『…………(コクリ)』
『ウフフッ、アナタ次第よ?』…………。
『あー、もうっ!! じれったいわね! アンタなんか行っちゃえばいいじゃない!!』
『アハハッ☆ そうだねぇ、行けばいいと思うよぉ~?』
『……ふぅん。ま、せいぜい頑張ってくればいいんじゃないの』
『……(コクリッ)』
『行ってらっしゃい』
僕は笑顔で彼女を送り出す。
彼女は僕を見て微笑んでくれるけど……もう二度と会うことはできない。
だって――
――僕の時間は止まってしまったから。
*****
「ねえ! 早く起きてよ!」
「んあ?」
聞き慣れた声が聞こえてきて目が覚める。ぼーっとしながら目を擦ると目の前にいた幼馴染みの女の子が頬っぺたを引っ張ってきた。
「いたひ、痛いっへば!」
「うっさいわね!