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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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「同行しようか?母親に会いに実家戻るなら」
「——!?」
離婚届に必要な
二名分の証人の署名
その証人となってくれる人の選定に
友人のいない私は苦慮していた
居座っていた早朝のファミレスに突如現れ
当たり前のように相席してきたリュカ
相談した先で
突如浮上した
母親に署名を貰う案
離婚の意志を伝え
離婚の了承を得る
それは
確かにリュカの言う通り
純也との離婚協議にも前向きに働くかもしれない
リュカの案は
一見すると良案のように思える
いずれ母親に報告することを考えると
一石二鳥でもあり
事前に伝えた方が拗れない
だが
それは
通常の母親で
通常の親子関係であった場合の話
癖が強く
精神的に病みがちで
さして私に関心も無く
自身の境遇を優先する母親ならどうだろう
しかも……
リュカ自身が同行する案?
当然リュカは初対面
母親と会ってどう思うだろう
母親は会ってどう思うだろう
二人の出会いが
どんな化学反応を起こすのだろう
正直不安しかない
リュカには母親のことは話したことがある
おおよその人物像は描けているだろう
それにしてもだ……
何を思って
何のために
どんな意図があって同行案を口にしたのか
皆目見当もつかない
「ねえ……あのさ、聞いてもいい?」
「どうぞ」
「母親に会いに行くとき同行するのって理由があるから言ってるんだよね?」
「リュカはそれが前向きに働くと思うの?」
「それとも私が言いづらそうで精神的負担になるから言ってるだけ?」
私は
疑問の丈をそのままぶつけた
「それもある、が……」
「母親を悪く言うわけじゃないけど、これまで聞き及んだ限りでは、お母さんは瑠奈の離婚にはさほど興味を示さないんじゃないかな」
「どちらかというと、それによりどう自分に影響があるかを考える気がする」
「つまり、拗れるとしても条件次第で片が付く」
「それに……俺も瑠奈との未来を見据えてのことだよ」
「見てるのは二人の未来だろ?邁進してるのは瑠奈だけじゃないよ」
「言っただろ?二人で二人の未来を見ようって」
リュカの言い放った
突拍子もない些細な言葉には
理由と
意図と
想いが込められていた
「……ありがとう」
リュカの描く母親の人物像は
おおよそ正解に近い
何か拗れても
自分なら解決に寄与できるとの見立て
おおよそ理解はできたが
私が
それを飲み込み
答えを出すには
しばし咀嚼が必要だった
「今すぐに回答を求めてないよ」
「あくまで提案ね、そんなのも一案あるって」
「まあそれも含めて考えてみたら?」
「結局のところ最適解を導けるのは人物も盤上も全て見えている瑠奈だから」
「後は話しておきたいことある?」
親身になって考えてくれる優しさと
決断を私自身に委ねる厳しさ
優柔不断な自分は
いつだって決断を他人に委ねたい
それが
信頼できる相手になら猶更
しかし
今直面しているのは
紛れも無く自分自身のこと
優柔不断な自分を変えなければ
未来へは進めない
「ううん、今のところ大丈夫……かな」
「何かあったらいつでもラインして」
「直接話すなら朝が会い易いかもね、今日みたいに」
「一緒に出社ってわけにもいかないから先に行くね」
「わかった、ありがとう」
「どうせ寝てないんだろ?ゆっくりしてから出社しな」
そう言うと
受付で会計を済まし
リュカは先に出て行った
リュカには
寝れていないことまでお見通しだった
***
出社時間に合わせてファミレスを後にする
デカフェのコーヒーでは
やはりいまいち目が覚めない
されど
妊娠中は良くないと聞けば
どうしても避けてしまう
それだけお腹の子は
現状の最優先
眠気のとれない目で
パソコンのスクリーンを見つめる
蛇腹のように
幾重にも折り重なったまぶたが
眼の開錠を拒む
斜め後ろの席では
何事もなく伊藤さんが業務に勤しむ
離婚届に必要な
二名分の証人の署名
一名分はリュカとして
もう一名の選定に思い悩む
伊藤さんか
お母さんか
時間の猶予もあるわけではない
早いに越したことはない
ボーっと横目で伊藤さんを眺めながら
悶々と思い悩む
と、その時
突然伊藤さんの着座する椅子が回り
伊藤さんがこちらを向いた
目が合ってしまった
「え?」
「え?」
「……」
「……」
「もしかして水川さんにもメール届きました?」
コメント
1件
うわ、リュカの「二人の未来を見ようよ」って台詞、心に刺さりました……。ああいう当たり前みたいに言ってくれるの、めちゃくちゃ効きますよね。同行の申し出も、ちゃんと理由と覚悟があってのことだと伝わってきて、リュカの誠実さがじんわり。それにしても、伊藤さんが突然振り返って「メール届きました?」って……ここでどう展開するんだろう!?気になって仕方ないです……!