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六、ドラゴン
二人は数分も歩くと、道が岩肌に変わった。
これでは、どちらにしても馬車では進めなくなっていただろう。
「ねぇねぇリィナぁ。あの村じゃ、コン活できなかったねぇ」
「そういえば、そんなの目標にしてたっけ」
ミィアは、意外と真面目に考えていたらしい。
リィナはすっかり忘れていたし、言われてもすぐにはピンと来なかった。
「そうだよぉ」
「まぁでも、あんなクズしか居ない村はダメ。もっといい男を探さないとさ」
「それもそっかぁ」
今からドラゴンと戦うかもしれないというのに、呑気なものだとリィナは思った。
ロビッツが言っていたように、大やけどを負うかもしれないと考えて手が震えている。
「ミィアは、ドラゴンとか大やけどとか聞いて、怖くないの?」
「ん~。でも、女神せんせぇがチートくれたし、大丈夫かなぁ? って」
「そんなこと言ってもさ、使えるようになったスキル、私はまだ三つよ? ほんとに大丈夫?」
「どうだろ~? だけど……もう、こっち見てると思うんだぁ」
山の頂だと思っていた尖った形は、本当にドラゴンの頭だったらしい。
ミィアに言われて見上げたそれには、僅かに目らしき光沢がある。
「あれって……目かな」
「うんうん。おめめだと思う~」
「ヤバくね?」
「だけど、襲ってこないし。大丈夫な気がしてる~」
その言葉を聞いて、この呑気な子を守るのは自分しかいないんだと、リィナは覚悟を決めた。
この世界に飛ばされた責任を、どういう形であれ取らなければと考えての事だった。
「もしもさ、アレが襲ってきたら……私が時間稼ぐから、ミィアは逃げて。わかった?」
「え? なんで? なんでそんなこと言うの?」
素になったミィアはすぐに分かる。
間延びした話し方をやめるからだ。
「なんでって。なんでもよ」
「やだ。ゲームオーバーするなら、二人一緒がいい。絶対に嫌!」
「わがまま言わないでよ」
「わがままじゃないもん!」
「こんな事でケンカしたくない。いう事聞きなさい」
「ぜっっったいに、嫌!」
「はぁ……」
リィナはため息をついた。
時間が無いのに、言い方を間違えたかもしれないと。
「ため息つきたいのは私だよ。リィナと一緒に居る。絶対に離れない。死ぬのも一緒。あの時死んだのも、リィナと一緒だから怖くなかったもん」
「ちょっ……」
泣き出したミィアにつられて、リィナも涙がこぼれた。
「私のせいで死んだみたいなもんなのに……。そんな風に思ってくれてたの?」
「なんで? リィナは悪くない。あんなの、煽って来たあのおっさんが悪いんだもん。リィナと私は、つーりんぐ楽しんでただけなのに」
「ミィア……」
結局は、ミィアも死ぬ覚悟をしていたらしかった。
二人一緒なら、怖くないと言い聞かせていたのか、本当に怖くなかったのかは定かではないが。
《……おい。俺を前にして勝手に泣くな。よそでやってくれ》
「わぁっ!」
「えっ?」
腹の底に響く様な、頭の中に直接聞こえるような、不思議な男の声に二人は飛び跳ねるほど驚いた。
二十メートルはありそうな、尖った巨大な岩。
そう思っていたものが、急に動いて話しかけてきたのだから。
《貴様ら、村の人間ではないな。つまらん事をせんのならに逃してやるから、とっとと失せろ》
「わわわわわ、ドラゴン! ドラゴン! 本物だぁ!」
「うあ…………まじか。死んだこれ」
真っ黒な竜。
尖ったフォルムは、二人が思う幻想生物のイメージとは格が違った。
その凄みも、神聖な雰囲気も、気高く鋭い眼光も。
「かっこよ~! 首なが~! ちゃんと手もある! ワイバーンじゃなくて、ドラゴンだぁ!」
「みみみみみぃあ。はよにげ、逃げよ。こわいこわいこわいまじこわい」
《ハハハハハ! 腰を抜かしたのか。それでは逃げられんだろう。ほら、気を付けろ》
ドラゴンはその爪をカチンと鳴らすと、火打石のように火花が散った。
その火の粉を受けると、リィナは何かに手を貸してもらったかのように、スッと立ち上がれた。
「え~、すごいすごい! 他には何ができるのぉ?」
《お前はやかましい女だな。……二人とも女神の素体、か。転生者とはな》
「えー! 分かるのぉ? なんでなんで? ドラゴンさんはなにもの~?」
「み、みぃあさん? 失礼があったらアレだから、速攻にげよ? ね?」
ついさっき泣いていたミィアは、テンション爆上がりでドラゴンに夢中だった。
「リィナ、ライトでもっとちゃんと照らしてよぅ。ドラゴンさんがよく見えなーい」
《お前達は、どの神から加護を貰った。ギレイドラルガではなさそうだが》
「えーっと……フェ……なんとかってエロい女神せんせぇ」
「いや……セリスリスみたいな感じだったでしょ」
《……セリフィスリスェか?》
「……たぶん?」
《この絶望から生まれた世界に、昇華システムを造った最高神だな。ラッキーじゃないか》
「むつかしいこと禁止ぃ~」
「あ、この子ちょっと、理解力にムラがあるっていうか。アハハ……」
《……ここに来てどのくらいだ》
いつの間にか、威嚇する勢いだったドラゴンは、優しい目をしている。
それをいち早く察したミィアは、嬉々として話を始めた――。