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「ゲキウ…..」
泥酔したイライは泣きながらそんな言っている、酒を飲まずご飯を美味しく食べていたが、だんだんそれが疎ましくなってきてしまったピアソンが一言イライへつぶやいた
「せっかく美味しいご飯が不味くなるぞ…あんまり泣くんじゃない」
「いらない…彼女に会いたい…」
イライのふてくさくされた様な姿は孤児院にいたクソガキにそっくりだった、会いたい人に会えない辛さは分からなくもないだが、そこまで泣くものなのだろうか…俯き長々と泣き続ける、3年も会えないとなるときっとこうなるのだろう試合中にホセの時計を持ったままだった気が…胸ポケットを探ると古臭い時計カチャリと音を立てた、催眠は試合中に練習したが、違う人に見せることもできるのだろうか?まぁいい、物は試しだほんの少しだけだイタズラしてやろう
「なぁイライ…ゲキウ?って言ったか、」
「なんですか…」
目が赤く腫れ潤んだ瞳が私を睨む、そんな目で見ないで頂きたい、これも1種の慈善活動なのだから
「会えたら嬉しいか?」
「…当たり前ですが?」
酔いが回っている彼には冷やかしにでも聞こえたのだろう、睨んでいた目が冷たくなっていく、善意でやっているんだ別に遊び半分でも善意は善意だろう?
時計をイライの目の前で揺らす、こんな感じでいいのだろうか?思い通りの催眠になればいいのだが
「げ、…ゲキウ?!」
イライの涙が思わず溢れ出すと思ったが、嬉しさよりも驚きが勝ってしまったみたいだ
「仲間に使うのは初めてだけど上手く行ったな」
そう言ったがイライは急にしゅんと切ない顔に戻ってしまった、なんだ、中身もゲキウになりきれとでも言うのか?
「もどってしまった…」
「もどった…?」
もう一度時計を使う、初心者の催眠では声が聞いてしまったら解けて元に戻ってしまう、そんな所だろうか
「ゲ、ゲキウ…」
嬉しいのか虚しいのかよく分からない顔をしてそう言った、マスク越しでいつもよく分からない顔が今はよく見える何も動かない為イライに向けて手を広げる、自分で抱きしめた方が良かったのだろうが、抱きしめ方が分からなかったんだ、生憎私にはそんな機会がなかった見えない物に触るような手が体に覆い被さる、生暖かいハグは自分にはくすぐったく感じた、ハグより抱かれた回数の方が圧倒的に多い、でもこんなに熱が伴うのは初めてで少し戸惑ってしまった、イライの酔いがこっちにまで移ってしまったようだ抱き寄せながら夜泣きをするイライをあやす、身内にこんな事で悩んでる奴が居るなんて、なんと馬鹿らしいしりポケットにメモ帳がある事を思い出す、ハンターの事やチェイスのルートが書き溜めてあるところから遠く離れた所に書き見せる、
「…すみません、ピアソンさん…私、男を抱いた事がないんです…だから、」
そんなの分かりきっている、体だけゲキウの変わりになってやる、なぜこんな事を書いてしまったのだろうか、書いてる途中、内容の恥ずかしさで思わず手が止まる
「…よろしくお願いいたします…」
「え…だ、大丈夫なのか…?」
思わず口を開けてしゃべった、まてまてまて、てっきり断ると思っていたんだが…愛を信じている訳ではないが、真っ当な人間として上っ面だけでも断るべきじゃないのか…???
「少しぎこちなくなるかも知れませんが…」「待てお前、婚約者がいるんじゃないのか?」「いえ、破棄されたので…実際、もう私の片思いかもですね」
そういう事だったのか、遊び半分でこんな事言うんじゃなかった…だか意外だな愛がない性行為は嫌うタイプかとてっきり思い込んでいた「お誘いありがとうございます、もう真夜中ですそろそろ寝ませんか?」
そう言われ時計に目をやると深夜2時をとっくに過ぎていた、そろそろ部屋に戻らなくては「そうだな…明日の夜はちゃんと準備してくる…」
そういい食堂から自分の部屋へ向かう、部屋に戻っても眠れないんだがな、そんな事を思いながら廊下を歩いていたが、なんだか落ち着かない…本当は1人が苦手なんだ、自分が真面に働けなくて人目のつかない所で身を潜めている時、路地裏なんかで暴行やレイプなんかが多発している時だったんだ、まだその頃は自分が的になるなんて思っていなかった、それ以来孤児院を持っても長い時間眠ることが出来なくなってしまった、暴行は辛かったが犯される事は自分から交渉する事で事態を最小限に抑える事に徹底した、まぁそれでも交渉が上手くいかなくてめちゃくちゃにされる時もあったがな荘園内でこれ程まで惨めな生い立ちの人は私以外誰一人としていないだろう、自分の様な古びたドアに手をかけると誰かに後ろから右腕を掴まれた
「ひゃッ……」
すぐに掴まれていない左腕で顔を覆い、丸腰になり、体が小刻みに震え、足がすくんだなんとも馬鹿らしい姿の出来上がり
「ピアソンさん…?」
「…はッ…は……はぁ……あっ、い、イライか、びっ、びっくりさせるな…」
「すみません…そんなに驚くとは…」
マヌケな姿を見せてしまった、こんな姿はライリーとエミリーくらいしか知らないんだ、こんな自分の辛さを理解できなさそうな奴に見られたくなかった
「なっ、なんのようだ…」
「あの、一緒に寝たいです」
何言ってるんだこいつは、1人で寝れるだろう、20歳に過ぎても甘えてるのかこのガキは「1人で寝れるだろう…」
「1人は寂しいです、少しの間だけ、一緒に居たい…」
見かけによらず我儘な事を言うこいつはまっすぐ私の目を見てそういった、子供のみたいなその目は苦手だ、何もかも知らない様な目で話すその顔も、
「はは、まるで赤ん坊だな」
嫌味ったらしくそう言ったがイライは気にもしてないような顔でじっと目を見続ける、私にとっては威圧にしかなっていなかった
「…な…なんでわた、私に頼むんだよ…」
「ゲキウの変わりになってくれるんじゃないんですか…?」
あー、そういえばそんな事言っちまったな、今日は寝れないまま試合に行くことになるな…、最悪だ、後先考えないのは私の悪い所だな
「…今じゃなきゃダメなのか?」
「…今がいいです」
大きくため息を深く吐きピアソンはドアを開け、イライの腕を引っ張り中へ入る、疲れた私はベットになだれ込んだ、立ちすくしたままの彼の手を掴みベットへ引き寄せる私に背を向けたまま彼は小さく呟いた
「……私のわがままですみません…」
「謝るなら最初から遠慮しろ…余計にイラつくだろう?…」
1人でさえ小さいベットに男二人で寝ているわけだが自分とイライの間に隙間が出来ていた…「そんな端っこだと落ちるぞ」
「いえ大丈夫です、ピアソンさんのベットですし」
縦向きになっている肩を無理やりひっくり返し横向きにしてイライのデコを人差し指でこずきそのまま続けて言った
「中途半端が1番嫌いだ、遠慮するなら最初からして甘えたいなら存分に甘えろ…さっきから私の地雷ばっかり踏みやがって…」
「あ、あぁ…すみません…」
「もういい、謝るな…うざったい…私と同じで疲れてるだろ?…早く寝ていい夢見ろよ」
いつもより面積が短く居心地の悪い枕を使わず自分の手首を枕替わりにして目を瞑る
「…おやすみなさい…」
「…おやすみ」
いつもより暖かいベットは2人にとっても心地よく、安心感を与えるものだったそう…