テラーノベル
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目を開けると、白い天井が視界に広がっていた。
機械の電子音だけが静かに病室へ響いている。
腕には点滴。
体は鉛のように重かった。
「……。」
ゆっくり昨日の記憶が戻ってくる。
中庭。
ひで。
腹部を襲った激しい痛み。
そして——。
勢いよく起き上がろうとした瞬間だった。
「っ……。」
腹部がズキッと痛む。
思わず息を飲む。
その音で、ベッドの横にいたひでが目を覚ました。
『……愁斗!』
安心したように立ち上がる。
『よかった……。』
その声を聞いた瞬間。
愁斗の表情が曇る。
「……ごめん。」
『え?』
「ごめん……。」
それだけだった。
でも、その一言が止まらない。
「ごめん。」
「また。」
「迷惑かけた。」
呼吸が少しずつ速くなる。
「約束も。」
「守れなかった。」
「ごめん……。」
布団をぎゅっと握り締める。
胸が苦しい。
苦しいのは体じゃない。
心だった。
『愁斗。』
ひでは静かにベッドのそばへ腰を下ろした。
『こっち見て。』
ゆっくり顔を上げる愁斗。
目は少し潤んでいた。
でも、涙は流さない。
『謝らなくていい。』
「……でも。」
『迷惑なんて思ってない。』
「……。」
『心配はした。』
『すごく怖かった。』
『でも、それは愁斗が大事だから。』
愁斗は何も言えなかった。
そんな言葉を向けられたことが、今まで一度もなかった。
病室に静かな時間が流れる。
すると、医師が病室へ入ってきた。
「目が覚めましたか。」
カルテを確認しながら続ける。
「貧血の数値は少しずつ戻っています。」
「ただ、昨日は意識を失っていますから、しばらくは絶対安静です。」
愁斗は小さく頷いた。
「……はい。」
「念のため、安静管理のできる病室へ移ります。」
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『病室を移るんですか?』
ひでが尋ねる。
「ええ。」
「しばらくは刺激を減らして、体力の回復を優先します。」
「面会も、少し制限させていただきます。」
その言葉に、ひでは少し驚いた。
『会えなくなるの?』
「数日だけです。」
「回復すれば、すぐ一般病室へ戻れますよ。」
医師は優しく微笑んだ。
午後。
愁斗は静かな個室へ移った。
窓から青空が見える。
聞こえるのは、点滴の落ちる音だけ。
ひではドアの前まで見送りに来ていた。
『じゃあ、少しだけ我慢だな。』
「……うん。」
『一般病室に戻ったら、またくだらない話しよう。』
「……くだらないって。」
少しだけ笑う。
ほんの一瞬だった。
でも、その笑顔を見てひでも笑った。
『その顔、やっぱり笑った方がいい。』
「……変なの。」
看護師が車椅子を押し始める。
部屋へ入る直前。
愁斗は振り返った。
「……また来る?」
その一言に、ひでは迷わず頷く。
『当たり前。』
『何回でも来る。』
『会えなくても、ちゃんと待ってる。』
愁斗は小さく息をつく。
「……ありがとう。」
ドアが静かに閉まる。
数日間だけの別れ。
それなのに、ひでは病室の前でしばらく立ち尽くしていた。
会えない時間があるだけで、こんなにも寂しいなんて思わなかった。
そして、この時の二人はまだ知らない。
この数日後。
もっと長い「会えない時間」が訪れることを。
コメント
1件
え〜〜😭💦 第10話読んだよ…!病室のシーン、愁斗が「ごめん」連呼するところがもう胸に刺さりすぎてやばいよ…。謝ることしかできない自分も、ひでに「大事だから」って言われて戸惑う感じも、全部リアルで切なかった…。最後の「会えない時間」の伏線も気になるし、続きが待ちきれないよ〜!にこにこさん、尊い話をありがとう…!🌸✨