ぐち逸からメールが来て返事として電話かけて以降、どんなに小さなものでも怪我すれば連絡して何とか頻繁に会っていた。本当にこまめすぎてうんざりしていたかもしれないが、患者ではある以上文句を言わないあたり一流の医者だ。
しかし愛おしいにもほどがある電話切り方をした割に、何度会ってもぐち逸は平然とした様子だった。
……いや、俺にはわかる。
ぐち逸は、平静を”装っている”だけだ。確実いつもとは様子が違う。
俺は868ボスの中でも他ギャングボスとビジネストークすることが多い。加えてホットドッグを売る際も相手がどんな立場の人間か見定めることがよくある。だから話す時に相手をよく観察するのは俺にとってある種の職業病だ。
ぐち逸は声のトーンこそいつもと変わらないが、ふとぐち逸が視界に入るとよく目が合う。そしてあっちがすぐに目を逸らす。
治療してもらった後に雑談ようとしてもずっと俯きがちで目が泳ぐ。話終わると緩く下唇を噛む。
相槌は打つがそれだけで、会話を広げようとしない。
何より、会話の中でいつものような小言を言ってこない。
それが、すこぶる気に食わなかった。
「……可愛くねえ~」
イライラしてその辺にいた心無き市民の車を殴る、蹴る。子供じゃないんだから物にあたるな?当たって来たのはあっちの車だし。当て逃げ犯逮捕逮捕。
「いった!轢きやがったなオイ!」
フラフラしてたら気の荒い心無き市民に轢かれてしまった。……あぁ、ギャングになって良かった。前の街みたいにずっと警察やってたら、こんなときに無礼者を撃てないからな。
「Oh my god!」
こんな風に。
でもあいつのお陰で怪我をした。これでぐち逸を呼べる。
「もしもし?ねーえ、ぐち逸」
「……また怪我ですか?」
「せーかい、ゲーセンまで来てよ」
「わかりました」
プツッと電話が切れる。
もういい加減ぐち逸を詰めてみよう。ぐち逸を悩ませるのもまた一興だったけど、それ以上に俺がストレスに耐えられない。早く気持ちよくなんないとね。
近くいたのか、バイクに乗ったぐち逸は「お待たせしました」とはいいつつすぐに到着した。
「出血に挫傷……レダーさん、最近怪我が多いですよ」
「あはは、ぐち逸 がいて助かったよ」
「そうですか」
……会話を切られる。もっとこう、せいぜい怪我しないようにとか、いつもなら言う。
「ねぇ、ぐち逸?」
「……何でしょう」
「お前のこと好きなんだけど、付き合ってよ」
前にも言った同じ言葉。
ねえ、どう?ぐち逸は今、俺のことが好き?
「それ、前にももう聞きましたよ」
「改めてね。何かそっちも考えててくれたらしーじゃん」
「……なんのことやら」
俯いて眉間に皺を寄せ て照れる。とぼけたって無駄だ。絶対に逃さない。
「ねぇ、で?返事」
そう圧をかけると、ぐち逸は決まりが悪そうに治療器具を出した後口を開く。
「貴方は信用できない……というか、多分今正気じゃないです。」
「……ほー」
「私のことがその、好き……ですとか、その理由も。とても自分がそういった存在であるとは思えないので。
本当に私が好きなら考えますが、正直そうとは考えられない、と、いうか……」
ぐち逸にしては珍しく歯切れ悪く話す。
……なるほど、ぐち逸俺が信用できないというより、自分が信用できていない。メールで聞いてきたように、なぜ自分が好かれたのかわからない。だから俺のこと正気じゃないと思ってるし、正気じゃない人間とは付き合えない、か。
「なら、俺がどれだけぐち逸のこと好きか証明出来ればいい?」
「そ、そうなんですかね?」
ぐち逸の片手を両手で握って、ありのまま微笑む。
「……ぐち逸、俺はお前のことが大好きだよ。こんなに可愛いって、好きだって思ったのはお前だけ。
俺にとってぐち逸は特別だし、ぐち逸にとって特別は俺であってほしい。俺はぐち逸にたくさん幸せなコト教えたいな?
ぐち逸は自分を好きになるなんてって思ってるみたいだったけど、俺はぐち逸にならされたいことたくさん__」
「~~~ッ!?」
連ねられた甘い言葉に慣れずパニックなったのか、ぐち逸は持っていた包帯でそのまま俺の頭にぐるぐる巻いてきた。
「わ!おい目見えないって!」
突然暗くなる視界に慌てる。照れ隠しか何かだろうかと思って本気で抵抗はしなかった。
名前を呼ぼうとして息を吸ったところで、先に声を出したのはぐち逸だった。
「……レダーさん」
「えっ何__」
__瞬間、唇に柔らかい感触。
メガネのフレームが頬に触れて、カチャと音が鳴る。
これ、って
予想もしていなかったぐち逸の行動に目を丸くする。雑に巻かれた頭の包帯がはらりと解けて、視界が明るくなった。
「……これでも、嫌になりませんか?」
「…………ぐち、逸」
目の前には、耳まで真っ赤にして俯くぐち逸がいた。
自分からやったくせにこの上なく照れていて、少し不安そうで、だからか目が潤んでいて、
可愛い。
「……嫌かもなぁ、ぐち逸のかわいー顔見れなかったから」
さっきのキスに答えるように、もう一度口付けした。
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