南アファーデ湖村から流れ着いたというより、巻き込まれて流されて来たと見るべきだろうか。
それにしたって釣り針に引っかかるか?
「アック! 随分騒いでどれだけの大物を釣り上げ……おいおい、これは!?」
「ニャニャニャ!? 仲間の尻尾ニャ!! 早く引き上げてニャ!」
シーニャの尻尾を見たシャトンは大慌てで指示を出している。その声に応じて、おれは急いで二人を引き上げて足下に降ろした。彼女たちの介抱は任せて欲しいが、ここは様子を見ることにする。
「イスティさま。シーニャと小娘は時動きの渦で流されてきたに決まっているなの。ぐったりしているのは、きっとそういうことだと思うなの」
「フィーサもそう思うか?」
「はいなの。でもでもここは見守ってみるなの」
「……だな」
ルティとシーニャは宿っぽい小屋に残し休ませていた。その後に別行動をしていたが、もしかすれば彼女たちは先に異変に気付いていた可能性がある。その時点で先に脱出していたかもしれないが、渦に流されてしまったかもしれない。
そうなるとやはりおれに責任がありそうだが。
「ぬぅ? 死んでるわけではないみたいだし、水を飲んでいる訳でもない。この症状は一体……」
「アック、アック!! 何か方法は無いかニャ?」
シャトンたちはルティとシーニャに声をかけているようだが、どうすればいいのか戸惑っているようだ。ギルドメンバーを見る限り、釣りスキルはあっても魔法スキルは無いらしい。
全てを信用していない状況で魔法で何とかしていいものかどうか迷う。せめてルティたちが仲間だということだけでも教えておくとする。おれはルティたちが倒れている所に近づき、シャトンとセゴンに声をかけた。
「すみません、彼女たちはおれの仲間なんです。行方が分からなくなっていたんですが、まさかこんな所で……」
「ニャニャ? お仲間~!? 尻尾のこのコも仲間ニャ?」
「そうです」
「何だ、そうなのか。そうなるとお前に任せたいところだが、分かるか?」
「……う~ん」
旧湖村から流れて来たとなれば、おれと同じように目覚めるまで時間が必要そうだ。渦に巻き込まれたか、あるいは逃げる途中で結局流されたか。どちらにしても体にかかる疲労は相当だろう。
光魔法は使えても回復に勝る治癒系では無いだろうし、どうすればいいものか。
「アック! 尻尾のコ、お魚ダイスキニャ?」
「え? いや、どうだろう……もう一人の子は料理が好きですが」
そういえばシーニャが魚を求めたことはあまりない気がする。ワータイガーでもあるし、どちらかというと肉が多いような……。
「シャトン、どうするつもりだ? オレには分からないぞ?」
「お魚を釣って、モクモクモクモク~! 近くでお魚焼くニャ! セゴン、アックはすぐにお魚釣るニャ!」
「よく分からないが魚を釣ればいいんだな? ほら、アック! お前も魚を釣って!」
「え? は、はぁ」
ネコ族のシャトンの指示に従い、おれとセゴンは糸を垂らして魚を狙うことにした。どうやら焼き魚のニオイで起こす作戦のようだ。
釣りスキルが全然なのか、おれの竿は全く動く気配が無い。あまり時間をかけていられない焦りもあったが、少し離れた所にいるセゴンは数匹釣り上げたらしい。
「アック~! セゴンがお魚釣ったニャ。こっちに戻って来てニャ!」
「あ、はい!」
数分で釣れる程、甘くは無かった。とにかく今はシャトンの作戦に任せるしか無い。
「この魚をどうするんです?」
「もちろん焼くニャ! 炎ニャッ!」
「――おぉっ? 魔法が使えたんですか?」
「もちろんニャ! セゴンも使えるニャ」
大柄なセゴンは得意げに頷いている。シャトンは小さな炎を串刺しにした魚と木材に放ち、パタパタと風を扇ぎ始めた。
「これで大丈夫ニャ」
シャトンの言葉を信じて、おれたちは焼き魚の煙とニオイが影響するのを黙って見守ることにした。
そして、
「はへぇぇぇぇ……香ばしいニオイが~」
「ウウニャ……熱い、熱いのだ……ウゥ」
どうやら二人とも意識が戻りつつあるようで寝言を言い放ち始めた。しかしニオイに反応しているのはルティの方で、シーニャはそんなでも無かったりする。
「アック、アック! お魚をこのコたちに近づけてニャ」
「……え、おれがですか?」
魚を近づけて何か変わるだろうか。
「アックの仲間ニャ! 早くっ早く!」
「そ、そうですね。それなら――」
「ああっ!? アック、危ないニャ!!」
「――へ?」
煙と焼き魚のニオイを全身につけたままで立ち上がったその時――煙に紛れ込んで、何かがおれに襲い掛かって来た。胸元には強烈な衝撃、下半身の特に足首辺りには激しい痛みが感じられる。
首からアゴにかけてはモフっとした感触があった。
「フニャウ~フニャ~……、アック、アックなのだ~」
まさかとは思ったが、
「シ、シーニャ! 気付いたのか!」
「ウニャ。アックがいるのだ~」
「――!? ってことは、まさか足首に感じる痛みは……」
「噛んでも噛んでも味がしませぇん~……」
「いっ……痛ぇぇぇぇぇぇ!! や、やめろ、ルティシア!!」
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