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その後の日曜日、予想取り大野は病院へ行くこととなった。紙を見て心配そうにする母を横目に、なんだか申し訳なく思う。
「けんちゃん、具合は大丈夫?」
「母さんそれ何回目だよ、俺は平気だぜ?」
精一杯元気だとアピールするも、自分を見つめる目から心配の色は無くならなかった。
「ほら、けんちゃん滅多に風邪もひかないでしょう?それが、こんな形で…」
病院の予約は取ってあるからと言い、保険証を手に準備の確認を始めるが、あまり進んでいないようにみえる。後十分程で、家を出る時間だった。
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(虫歯は無かったけど、やっぱ今のうちに歯医者に行っておこう………。水もしみたし…。)
その頃。藤木は歯医者に向かっていた。
歩きながらふと、大野のことを思い出す。
(大野くん…肺に何かあったみたいなの、心配だなぁ。)
人は見かけによらないというけれど、杉山は元気そうであった。大野に対しても、紙さえ見なければいつも通り、 なんの違いも無いだろう。
数十分もすると、見えてきたそこで受付けを済ませ、待ち合いスペースへと腰を下ろす。扉越しの個室からは、痛そうな悲鳴が響き渡っていた。
「うわぁぁぁぁああ!!!」
(うわぁ、痛そうだな。僕、やっぱり来なければよかったよ。虫歯も無かったし……。)
いや、でもー。考え始めてから三十分くらいだろか。藤木の不安を煽っていた悲鳴は止み、治療が終わったことが分かった。
(今更だけど、予約しておけばよかったな…。)
ただただ黙って座りっぱなしの三十分は、藤木にとって案外キツいものだった。
ありがとうございましたと言う声が聞こえ扉が開くと、見知った顔に藤木は驚いた。
「な、長沢くん?!」
「げっ…」
どうしてここにと思うも、学校での会話を思い出しそれどころではなくなった。
「長沢くん、虫歯無いって………!!」
間の悪そうな顔をした長沢に混乱するも、名前が呼ばれ藤木は部屋に入っていった。
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受付けを済ませると、悔しいような、恥ずかしいような。なんとも言い表しの出来ない気持ちのまま外へと出る。わざわざ知り合いに遭遇するのを避ける為、家から遠い歯医者を選んだというのに。そのまま家へ帰ろうと歩き左折すると、長沢は足を止めた。
「ん、あれは…」
自分の位置から数十メートル離れた所に見えた二つの人影。大野といるのは彼の母親だろうか。なにやら深刻そうな面持ちのまま、病院へと入っていった。
「凄く大きいな、あの病院…。」
きっと誰かのお見舞いなんだろうと、対して気にも止めないまま長沢は再び歩きだした。