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誓い
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その翌月、茉鈴は鬼殺隊の最終選別に参加し、俺は無一郎の傍にいながら茉鈴のほうにも意識を飛ばし、彼女を見守っていた。でも見守ることしかできなくてとても歯痒かった。
本部から借りた薙刀仕様の日輪刀で数体の鬼を倒した茉鈴。彼女が薙刀を振るう姿は初めて見たけれど、こんなに強かったのかと驚いた。…優しく笑いかけてくれる一面しか知らなかったから。
7日間俺は気が気じゃなかったけれど、茉鈴が生き延びてくれて、無傷なんてことは無理だったものの見事選別を突破して帰ってきてくれて本当に嬉しかった。
こうして無一郎より少し早く正式に鬼殺隊に入隊した茉鈴。制服も縫製してもらい、日輪刀も選別の時に借りたような薙刀仕様のものを打ってもらった。
無一郎はと言うと、産屋敷家、胡蝶さん、そして茉鈴の懸命な看病で、ようやく意識を取り戻した。
けれど、悲しいことに無一郎は自分が何者で、どうしてここにいるのか、何があってこんなに大怪我を負っているのか、何もかも忘れてしまっていた。
突然鬼に襲われ、目の前で家族が息絶え、腐っていく様を目の当たりにしたんだ。まだほんの子どもの無一郎には耐え難い経験だ。自分で自分の記憶に蓋をしてしまったって無理もない。
でも、目を覚ました無一郎に自分のことを覚えていないと言われた茉鈴が、一瞬だけ見せた悲しそうな顔を、俺はこの先ずっと忘れないと思う。
身体を動かせるようになった途端、無一郎は狂ったように鍛錬に明け暮れた。
記憶が失くなっても鬼への強い憎しみと怒りは身体が覚えているのだろう。
誰が止めても聞く耳も持たず、ただただひたすらに木剣を握って鍛錬し続けた。血を吐いて倒れるまで。
無一郎が倒れて寝込む度に、茉鈴が看病する。ボロボロの無一郎に、時には誰もいないところで声を殺して泣いてることもあった。
俺は無一郎と茉鈴に何もしてやれない。寝込む弟の頭を撫でて励ますことも、弟の傍についてくれている大好きな幼馴染みを抱き締めることも。
もどかしい。歯痒い。
そして、無一郎が最終選別に向かった。
その間、茉鈴は自分の鎹鴉と一緒に、産屋敷家に仕える鴉の案内で、俺と無一郎が住んでいた山奥の家を訪れた。
隠の人たちが家の中を綺麗にしてくれたみたいで、蛆の湧いた俺の遺体も弔われ、それが横たわっていた布団も片付けられ、壁や床や天井に飛び散った血も全て拭き取られていた。
『……有一郎くん…』
両親が眠るその隣に埋葬された俺の墓の前に、茉鈴がそっと跪く。
大事に抱えてきた花を3人の墓に供え、丁寧に線香を上げて手を合わせてくれる茉鈴。
『…無一郎くんが最終選別に行っちゃった。…お願い。7日間生き延びて帰ってきてくれるよう、どうか無一郎くんを守って。……彼が帰ってきてくれたら、あとは私が絶対に無一郎くんを守るから』
言葉を紡ぎながら、茉鈴は目から大粒の涙を流した。
『…有一郎くん……。どうして死んじゃったの…。会いに来てくれるって言ったじゃない。……私がもっとしつこく引き留めていれば…!あなたも死なずに、無一郎くんも深く傷付くこともなかったかもしれないのに…っ…。ごめんね、ごめんね……』
肩を震わせて泣く茉鈴。
違うんだよ。茉鈴は何も悪くないんだよ。俺たちが素直に君の言葉に甘えていれば。言うことを聞いていればよかったんだ。
俺がつまらない意地を張ったせいで、会話をすることも、目を見て話すことさえ、もう二度とできなくなってしまった。
『痛かったよね。怖かったよね…っ…。……無一郎くんのことを命懸けで守ったんだよね。……ほんとに…、あなたは素敵なお兄さんだよ…!』
茉鈴…!
俺も泣きながら、ぎゅっと彼女にしがみつこうとした。けれど、俺の腕も身体も、茉鈴の身体をすり抜けていってしまう。
『うぅ…っ…、有一郎くん…会いたい…。会いたいよおぉ…っ!』
茉鈴!俺、ここにいるよ!泣かせてごめん。悲しませてごめん…!
苦しい。大好きな相手が目の前で泣いているのに、俺には何もできない。茉鈴を独りで泣かせてしまっているのが、堪らなく苦しい。
バサバサッ
『…ぁ……』
茉鈴をここまで案内してくれた鎹鴉と、茉鈴の鴉が彼女の肩に留まり、慰めるようにそっと顔を擦りつけた。
『………。ありがとう。優しいのね…』
茉鈴が2羽の頭を撫でる。
それから少し経ち、茉鈴はハンカチで涙を拭いて深呼吸をひとつした。
『…ふうぅ……』
ぐす…、と小さく鼻を啜り、真っ赤になった目元を再びハンカチで拭う。
『…こんなに泣かれたら心配するよね、有一郎くん。化けて出てきてくれたっていいんだけど。……もう大丈夫よ。私頑張る。有一郎くんの代わりに私が無一郎くんを守るから。だから安心して眠ってね 』
そして、1つにただ束ねただけの髪を、懐から取り出したあの向日葵の簪で纏め直した茉鈴。
『また来るね。無一郎くんのことは私に任せて。……有一郎くん、大好きよ』
言いながらまた涙が茉鈴の頬を伝う。
俺だって、茉鈴のことが大好きだよ…!
茉鈴はまた涙を拭って、ゆっくりと立ち上がり、3人の墓に深々と一礼して、2羽の鴉と共に鬼殺隊の本部へと戻っていった。
続く