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13 - 第13話*将来の夢と好きな人*

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2025年07月10日

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次の日、目を覚ますと聖夜さんの姿はなかった。



「あ、おはよう!」



聖夜さんの代わりにレイナさんがいて、床に座ってスマホを弄っていたレイナさんは、私が起きたのに気付いて、こちらを見るとそう言ってニッコリ笑った。


昨日のレイナさんとは違い、今日のレイナさんはニコニコしている。


それは私の嘘話を信じているからだ。


レイナさんを見ると胸が痛む。



「お、おはよう、ございます……」



今、何時なんだろう……。


時間が気になり、壁にかけてあった時計を見た。


9時30分。


いつも起きる時間より、かなりオーバーしてしまった。



「あの、せい……あ、いや、彼は……」



レイナさんにアキと名乗っている聖夜さん。


私もレイナさんも聖夜さんの本名は知らない。


だから彼女の前で聖夜さんの名前を言わないように気を付けないといけない。



「ん?アキ?」


「はい……」


「朝早く、出掛ける用事があるって連絡あってね」


「そうなんですね……」


「夕方には帰るみたいだけど、それまで雪乃ちゃんの側にいてやってくれって」


「そうですか……」



聖夜さん、どこに行ったんだろう……。


仕事?


聖夜さんと一緒に暮らし始めて数週間経つけど、聖夜さんの本名も仕事を何してるかも全く知らない。


謎めいた人。


私が知ってるのは、あの日公園であったことだけ。


彼は人を殺めた殺人者ってこと……。



「雪乃ちゃん、お腹空かない?」



レイナさんは持っていたスマホをテーブルに置いてそう聞いてきた。



「いらない、です……」



私はそう言って首を左右に振った。



「お腹、空いてないの?」



レイナさんは少し不思議そうな顔をして私を見る。



「…………はい」



昨日、ケーキを食べた以外は何も口にしていない。


だけどお腹は空いてなかった。


胸が苦しくて、食欲がない。



「少しだけでも食べた方がいいよ?コンビニでサンドイッチ買って来たから一緒に食べよ?飲み物もあるよ!」



レイナさんはそう言って、床に置いてあったコンビニの袋からサンドイッチとパックのカフェオレを出してテーブルに置いた。


レイナさんの優しさが苦しい……。


何も知らないレイナさん。



「はい、これ雪乃ちゃんの分ね」



レイナさんはサンドイッチとカフェオレを私の前に置き、自分のサンドイッチのフィルムを開けると、それを一口食べた。


私はベッドから出て、レイナさんの向かいに座る。


私のために買って来てくれたサンドイッチとカフェオレ。


サンドイッチを手に取って、フィルムを開ける。


タマゴサンドを手に持つと口に運んだ。


胸が苦しくて食べれなかった。


咀嚼しても喉が受け付けない。


私はそれをカフェオレで無理矢理、喉に流し込んだ。


何とかサンドイッチを全て食べ終えた。


吐き気が襲ってくる。


胃の中から流し込んだものが何度も込み上げてきていた。



「雪乃ちゃん?顔色悪いけど……」


「えっ?」


「大丈夫?調子悪い?サンドイッチ無理矢理食べさせたみたいで……ゴメンね……」



レイナさんは少し悲しそうな顔をして私を見た。



「い、いえ……大丈夫、です……。ちょっとトイレに行って来ますね……」


「うん……」



私は立ち上がりトイレに行く。


地に足が付いてないようなフラフラした感覚になり、すぐにでも倒れてしまいそうだった。



「雪乃ちゃん!大丈夫?」



クラクラしていた私の体をレイナさんは咄嗟に受け止めた。



「ゴメン、なさい……」


「ううん。トイレ、連れて行ってあげる」



レイナさんはそう言って私の体を支えながらトイレに連れて行ってくれた。


さっき食べたものを全て吐き出してしまった。


トイレで吐いてる時、レイナさんがずっと背中をさすってくれていた。



「大丈夫?」


「吐いたら少しスッキリしたので大丈夫です」


「ゴメンね……」


「レイナさん、謝らないで下さい。私の方こそ、せっかく買って来てくれたのに……ゴメンなさい……」


「気にしないで?ちょっとベッドで横になってた方がいいよ。歩ける?大丈夫?」


「はい、大丈夫です……」



私はトイレからベッドまでレイナさんに支えてもらいながら歩き、ベッドに横になった。


少し頭も痛い。



「風邪かなぁ……」



レイナさんはそう言って、私のおでこに手を乗せる。



「熱はないみたいだね」


「多分、いろいろあったんで……それで……」



私がそう言うと、レイナさんは“あぁ!”って顔をした。



「そっかぁ……そうだよね……。私、アキが帰って来るまでここに居るから安心してね」


「はい……」



レイナさんは私に笑顔を見せてくれたけど、私はレイナさんに対して申し訳ない気持ちがいっぱいで笑顔すら見せれなかった。



「あの、レイナさん……」


「ん?」



スマホに目を落としていたレイナさんは私を見た。



「さっきは、その……スミマセン、でした……」


「えっ?」


「トイレで……」


「あぁ!気にしないで?私、慣れてるから」



レイナさんはそう言ってクスッと笑った。


慣れてる?


どういうこと?



「私、キャバ嬢してるじゃん?」


「はい……」


「いろんな客が来るんだけど、中には上司に無理矢理連れて来られて、飲めない酒を無理矢理飲まされて、みたいな新人君もいたりね。だからトイレの介抱には慣れてるの」


「なるほど……そうなんですね……」


「私もさ、新人の時には慣れないお酒を飲んで、よくトイレで寝てたなぁ……。めっちゃ怒られたけど」



レイナさんはそう言ってケラケラと笑っていた。


私の中ではキャバ嬢はお酒飲んで、お客さんと話しして、バカ騒ぎしてみたいな勝手なイメージがあった。


でも見えないところで苦労してるんだな。


身なりもいつも綺麗にしとかないといけないし。


レイナさんは髪もメイクも爪もいつも綺麗だ。


私には絶対に出来ないだろうと思った。



「ねぇ、雪乃ちゃんって、将来の夢ってある?」


「えっ?」



さっきまで話していたことと全く違う話を振ってきたレイナさん。



「あ、いきなりゴメンね」



レイナさんはそう言ってクスリと笑った。



「いえ……」



将来の夢……。


小さい頃は、あれになりたいとか、これになりたいとか、いろいろあったけど……。


それは花屋だったりお菓子屋さんだったり。


あぁ、お姫様になりたいとか言ってた時もあったな。


今はどうだろう……。


目の前に迫っている大学受験で余裕もなく、ただ毎日学校に行って塾に行って、忙しくも平凡な日々が過ぎていくだけで……。


将来の夢なんて考えたことなかった。



「特にこれといって……大学に行って、就職して結婚して……みたいな感じですかね……」


「そうなんだぁ」


「レイナさんは将来の夢ってあるんですか?」



私は逆にレイナさんにそう聞いてみた。


私に将来の夢は何か聞いてきたくらいだから、何かあるんだろう……。



「雪乃ちゃんと似てるかな?好きな人と結婚して子供産んで、幸せな家庭を持つことかな……」



「えっ?」


「意外だった?」



レイナさんはそう言ってクスクス笑う。


違うと否定したかったけど、レイナさんが言うように意外な答えでビックリした。



「私って、幸せな家庭に恵まれなかったからさ……」



綺麗に塗られたネイルを弄りながらそう言ったレイナさん。


レイナさんは面倒見もいいし、結婚して子供を産んだらいい奥さん、ママになるんだろうなぁ……。



「雪乃ちゃんって、好きな人、いる?」


「えっ?」


「あ、なんか話をコロコロ変えてゴメンね」


「いえ……」



好きな人……。


そんなこと聞かれるなんて思ってなかった。


友達同士で集まれば自然と恋バナになるけど、私は話に参加することなく相槌を打つだけだった。


初恋がいつだったかなんてのも覚えてない。


でも、レイナさんに好きな人はいるかと聞かれ、頭に聖夜さんの顔が浮かんだ。


聖夜さんのことを思うと、胸がキューと苦しくなってドキドキする。


私は聖夜さんのこと……。


だけど……。



「好きな人は、いない、です……」



レイナさんにそう言ってしまった。



「えっ?そうなの?」



レイナさんは驚いた声を出す。



「私、雪乃ちゃんはアキが好きなんだと思ってた」



レイナさんの言葉に胸がドクンと跳ね上がる。



「えっ?あ、えっと……アキさんは、私を助けてくれた人ってだけで……」


「そっか……」


「はい……」



聖夜さんが好き……。


もう自分の気持ちに嘘はつけない。


たった数週間一緒にいただけなのに……。


でも聖夜さんは犯罪者で、私は被害者。


誰にも知られてはいけない恋。


それはレイナさんにも。



「レイナさんは、好きな人いるんですか?」


「うん。いるよ?」



レイナさんの言葉に胸がチクンと痛んだ。


レイナさんの好きな人って……。


もしかして……。



「レイナさんの好きな人って、もしかして……」


「あ、アキじゃないよ」



私の聞きたいことがわかったのか、レイナさんはそう答えた。


レイナさんの答えを聞いて、安心してる自分がいる。



「アキは、ただの友達。私の好きな人はお店に来てくれてるお客さんなんだけどね……」


「そうなんですか?」


「でもね、その人とは恋愛できないんだよね」



レイナさんはそう言って、少しだけ寂しそうに笑った。


恋愛できないって、どういうことなんだろう……。



「キャバ嬢とお客さんとの恋愛は禁止されてるのと……」



私には夜の世界の話は全くわからない。


レイナさんがそう言うんだから、そうなんだろう。


レイナさんはそこまで言うと言葉を切った。


何か続きがありそうな言い方。



「他に、何か理由があるんですか?」


「あぁ、その人ね、既婚者なの」


「そうなんですね……」


「その人とね、いい感じになったことあってね。もちろん店には内緒だけど……」



レイナさんはそう言ってクスリと笑った。


でも、いつもの元気なレイナさんじゃなく、その笑いもどことなく悲しそうで……。




「でもね、彼が奥さんと子供と一緒にいるところを見ちゃったんだよね。モデルみたいな綺麗な奥さんで、彼が小さい子供を抱っこして、3人で笑い合って……」



レイナさんの元気のない笑いはこれが原因だったのかな……。



「奥さんがいることなんて、わかってたけどさ。実際に見たら、ね……」


「そうですね……」



私は既婚者と付き合ったことがないので、何とも言えないけど。


でも、もし聖夜さんが違う女性と歩いてるのを見てしまったら……。


私もレイナさんと同じ気持ちになるかもしれない。



「あぁ、私の入る余地なんてないなと思って。奥さんと子供を悲しませることしたらダメだなって……。でもね、彼のことが好きな気持ちは変わらないんだ……。だから叶わない恋愛してるの」



叶わない恋愛。


その言葉に私の胸はキューと苦しくなった。


レイナさんの気持ちがわかるから。



「あ、ゴメンね。変な話して……」



レイナさんはそう言ってクスッと笑った。



「いえ……」


「体調、悪いのにね。少し眠ったら?私、まだここにいるし」


「はい……」



私はレイナさんの言葉に甘えるように、ゆっくり目を閉じた。


そのまま私の意識は遠のいていった。




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