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目を覚ますと、まだ聖夜さんの姿は見えず、レイナさんはスマホの画面に目を向けていた。
「レイナ、さん?」
私はレイナさんの名前を呼び、上半身を起こした。
吐き気は治まったみたいだけど、まだ少し頭が痛い。
「雪乃ちゃん、大丈夫?まだ寝てて大丈夫だよ?アキもまだ帰ってないし」
私の呼びかけに、レイナさんはスマホをテーブルに置くと、私を見てそう言った。
「はい、大丈夫です」
「良かった。お腹はどう?ご飯、食べられる?」
「いえ……お腹、空いてないので……」
サンドイッチもカフェオレも全て出してしまったのに、全くお腹は空いてなかった。
「喉は渇いてない?」
「少し……」
「飲み物、取って来るね」
レイナさんそう言って、立ち上がるとキッチンに行き、冷蔵庫から冷たいミネラルウォーターのペットボトルを持って戻って来た。
「はい」
笑顔でペットボトルを差し出すレイナさん。
「ありがとう、ございます」
ペットボトルを受け取り、蓋を開けるとミネラルウォーターを一気に喉に流し込んだ。
真冬とはいえ、部屋の中は暖かく、布団を被って寝ていたのもあって喉はカラカラだった。
カラカラだった喉がミネラルウォーターで潤っていく。
「そうだ、雪乃ちゃん?」
「はい」
「これ……」
レイナさんはそう言って、私に紙袋を差し出してきた。
これが何かなんて見ただけでわかる。
クリスマスプレゼントだ。
「レイナさん、これ……」
「雪乃ちゃんにクリスマスプレゼント」
「えっ?」
「昨日、雪乃ちゃんには迷惑かけたし、そのお詫びも兼ねてのね」
レイナさんが笑顔だけど、私は笑顔を見せることなんて出来なかった。
迷惑をかけたのは私の方なのに。
「嬉しくない?もしかして、迷惑だった?」
プレゼントをなかなか受け取らない私にレイナさんはそう聞いてきた。
私は首を左右に振る。
嬉しくないわけじゃない。
迷惑なんて思ってない。
だけど、レイナさんの気持ちを考えると胸が痛くなる。
苦しくなる。
「じゃあ、受け取って?ねっ?」
レイナさんはそう言って再び笑顔になった。
私は紙袋を受け取った。
「開けてみて?」
レイナさんの言葉に頷いて、紙袋の中からプレゼントを取り出す。
クリスマスプレゼント用に綺麗にラッピングされたプレゼント。
それを丁寧に開けていく。
中から出てきたのは服だった。
大人っぽい黒いワンピース。
「これ見た時に、絶対に雪乃ちゃんに似合うと思って」
ブランド物に興味のない私でも知ってるブランド物の紙袋に入っていたワンピース。
高校生のお小遣いじゃ絶対に買えない値段だとわかる。
本当にもらってもいいの?
「気に入らなかった?」
レイナさんの顔から笑顔が消えて、真顔で私を見た。
「違うんです」
「じゃあ、どうしたの?」
「こんな高価な物を本当にもらっていいのかと思って」
「なーんだ。そんなこと」
レイナさんは私の言葉を聞いて、安心したのか顔に笑顔が戻った。
「気にしないで?雪乃ちゃんにプレゼントしたいと思って買ったんだし、雪乃ちゃんに喜んでもらえたら私も嬉しいから」
「でも……」
凄く高価で凄く素敵なワンピース。
「私ね、嬉しいんだ〜」
「えっ?」
「雪乃ちゃんと仲良くなれて。親友を亡くしてから同性の友達っていなかったしさ」
「レイナさん……」
「だから昨日はさ、雪乃ちゃんに嘘つかれたんだと勝手に思って裏切られた気持ちになって、カーッとなっちゃって……」
レイナさんはそう言って恥ずかしそうに笑った。
「何も事情を知らないでゴメンね……」
私は何も言えずに首を左右に振った。
胸が苦しくて、痛くて……。
「これからも仲良くしてね」
レイナさんはそう言って、私の手を握ってきた。
とても温かい手。
こんなに優しい人を私は騙してるんだ。
聖夜さんを守るために……。
夕方、聖夜さんが帰って来た。
それと入れ替わるように、レイナさんは帰って行った。
「そのプレゼント、どうしたの?」
ベッドの上に置いてあったプレゼントの包みを見て、聖夜さんがそう聞いてきた。
「レイナさんが、クリスマスプレゼントにって……」
「そうなんだね。中身は何?」
「ワンピースです……」
「へぇ。ねぇ?着て見せてよ?」
聖夜さんはそう言ってクスッと笑った。
「えっ?」
目を見開き聖夜さんを見る私。
まさか着てみせてなんて言われるなんて思ってなかった。
「ダメ?」
ダメじゃないけど……。
私は首を左右に振った。
「じゃあ、見せてよ?」
そう言った聖夜さんに私の胸はドキドキしていた。
体が熱を帯びたみたいに熱くなっていく。
「わかりました……」
ベッドの上に置いてあったプレゼントを手に持つと、着替えるためにトイレに入った。
トイレでワンピースに着替えた。
黒のシンプルなプリンセスラインのワンピース。
鏡がないので似合ってるのかどうなのか全くわからないけど、サイズはピッタリだ。
私はトイレから出て、部屋に戻った。
部屋でパソコンを弄っていた聖夜さんは、キーボードを打つ手を止めて、私の方を見た。
少しだけ目を見開き驚いた顔をしている聖夜さん。
「凄く似合ってるよ」
それが例え、嘘だとしても、そう言ってもらえたことに顔が熱くなり胸が高鳴った。
「ありがとう、ございます……」
「ねぇ、こっち来て?」
「えっ?」
聖夜さんが手招きをする。
「こっちに来て、ここに座って?」
「あの、でも……」
聖夜さんが指示した場所は、ちょうど聖夜さんが座っている目の前。
もし聖夜さんが恋人なら喜んで、その指示した場所に行き座るだろう……。
でも、そんな近い距離に座るなんて今の私には出来ない。
それは、聖夜さんが犯罪者だからじゃなくて、聖夜さんのことが好きで恥ずかしいからだ。
「実はね、僕も雪乃にプレゼントがあるんだ」
聖夜さんはそう言ってクスリと笑った。
「えっ?」
プレゼント?
聖夜さんが私に?
なぜ?
そんな思いが頭の中をグルグル回る。
「今日はクリスマスだからね。だから、ねぇ、雪乃?こっちに来て座ってよ」
聖夜さんの言葉に、私は重たい足を一歩出した。
鉛のように重い足。
一歩、一歩、ゆっくり出して聖夜さんの前に立つ。
そして、指定された場所に座った。
聖夜さんの側にあった小さな紙袋。
その中から長方形の形をしたプレゼントを取り出す。
「はい。これ。雪乃にクリスマスプレゼント」
そのプレゼントを笑顔で差し出す聖夜さん。
本当に受け取っていいの?
「受け取って?」
なかなか受け取らない私に聖夜さんはそう言った。
私は少し震える手でそれを受け取る。
「開けてみて?」
聖夜さんの言葉通りに、プレゼント包装を丁寧にゆっくりと開けていった。
箱を開けると、紺色の箱が現れた。
これって……。
ジュエリーが入ってる箱だ。
長方形の箱ってことは、中身はネックレス?
私は長方形の紺色の箱の蓋を開けた。
プラチナのネックレス。
雪の結晶の形をしたチャーム。
そのチャームの中央には薄いブルーの宝石が埋め込まれていた。
「雪乃の名前にピッタリなネックレスでしょ?」
聖夜さんはそう言ってクスッと笑った。
「これ、見つけた時に雪乃にプレゼントしたいって思ったんだ。着けてあげるね」
聖夜さんはそう言って、箱からネックレスを出した。
留め具を外し、私の首に手を回す。
聖夜さんの体が私の体に密着して体が熱くなっていく。
時々、聖夜さんの手が私の首に当たり肩がビクンと揺れ、胸がドキドキと高鳴っていった。
「着けれたよ」
聖夜さんはそう言って私から離れる。
「凄く似合ってる。そのワンピースとも合ってるよ」
そう言った聖夜さんの顔は笑顔だった。
でも……。
私は聖夜さんに笑顔を見せることが出来なかった。
好きな人からもらったプレゼント。
だけど上手く笑顔が作れない。
その代わり、私の目に涙が溢れていく。
「雪乃?どうしたの?」
さっきまで笑顔だった聖夜さんの顔。
そう聞いてきた聖夜さんは不思議そうな顔をしていた。
「何で、泣くの?」
「ゴメン、なさい……」
「嬉しくなかった?」
私は首を左右に振った。
「じゃあ、どうしたの?犯罪者からもらったプレゼントは嫌?」
「ちがっ!」
私は顔を上げて聖夜さんを見た。
「違う!違います!」
私はそう必死に言って首を左右に振った。
「雪乃……」
「違うんです……」
聖夜さんが犯罪者とか関係ない。
最初は怖かった。
早くこの状況から解放されたかった。
あの公園で見た女性のようになりたくなくて必死だった。
でも今は……。
聖夜さんが好き……。
だから凄く苦しいの。
レイナさんを騙してることも、聖夜さんを好きになってしまったことも……。
全てが苦しくて、水の中でもがいてるように苦しくて……。
「聖夜、さん……」
「ん?」
「私、凄く苦しいんです……」
「えっ?」
聖夜さんは目を見開いて私を見た。
「苦しくて、苦しくて……。ねぇ、聖夜さん?」
この苦しみから解放されたら楽になれるのかな?
もし、苦しみから解放されて楽になれるのなら……。
全ての罪が消えるなら……。
いっその事、この私を…………。
「…………私を、殺して?」
アナタの手で私を殺めて欲しい……。
あれだけ死にたくなくて必死だったのに。
今はアナタに殺して欲しいとまで思っている。
もしこの苦しみから解放されるなら、罪が消えるなら死ぬことなんて怖くない。
アナタに殺されるなら幸せだとさえ思えてしまう。
「何言って……」
聖夜さんは目を見開いて私を見た。
「聖夜さん、お願い……私を、私を殺して……」
私はそう聖夜さんに悲願した。
「雪乃、そんなこと言わないでよ……」
「苦しいの!苦しくて、苦しくて……胸が押し潰されそうになるくらい苦しいの……だから、ねぇ、お願い……」
泣きながら悲願する私を聖夜さんは哀れみの目で私を見ていた。
「聖夜さん……」
私は聖夜さんの名前を呼び、聖夜さんの両手首を持った。
そのまま私の首に持っていく。
私の首の周りに聖夜さんの手がある。
聖夜さんの手首を持っていた手に力を入れた。
左右から首の方に向けて。
首がキューと苦しくなっていく。
私はそのまま、ゆっくり目を閉じた。
苦しくて顔が歪んでいくけど、もう少しで楽になるんだ。
そう思うと、聖夜さんの手首を持っている自分の手に余計に力が入る。
あと、少し……もう少し……。
「…………やめろっ!」
聖夜さんが声を荒げ、私の手を振りほどいた。
その反動で私の体は後ろに倒れ、ゲホゲホと咳き込んだ。
体を起こして、聖夜さんを見る。
聖夜さんは自分の両手をジッと見ていた。
その手は微かに震えていた。
「聖夜、さん?」
聖夜さんに声をかけるも、何も答えてくれない。
「ゴメン……ちょっと出て来る……」
聖夜さんはそう言って、立ち上がると、フラフラした足取りで部屋を出て行った。
ーーバタン
玄関の閉まる音が響く。
鍵もかけず、見張りを置かずに出て行った聖夜さん。
逃げるチャンスかもしれない。
だけど、私の体は固まったように動かなかった。
いや、動かないんじゃない。
逃げようとする気がないだけ。
あれだけ聖夜さんのことが怖かった。
早く逃げたい。
自由になりたいと思っていた。
なのに……。
今は、聖夜さんに対して怖いという感情はない。
私はフラフラしながら立ち上がり、窓の側に行った。
カーテンを少し開けて外を見る。
真っ暗な空から真っ白な雪がヒラヒラと舞い落ちていた。