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第76話 〚動かない影〛(恒一視点)
夜は、静かすぎた。
祭りもない。
誰かの笑い声もない。
ただ、街灯の下を人が通り過ぎていくだけ。
恒一は、ベンチに座ったまま動かなかった。
(……いない)
視線は、何度も同じ道をなぞる。
澪が通りそうな場所。
少し前までなら、自然と足が向いていた道。
でも――今日は、いない。
分かっていた。
今日は、いないと。
それでも、来てしまった。
(……なんで)
指先が、ぎゅっと握られる。
最近、うまくいかない。
計画も、タイミングも、全部。
花火の日。
あの時、確かに近づいたはずだった。
なのに。
(邪魔ばっかり入る)
脳裏に浮かぶのは、
海翔の顔。
仲間たちの輪。
澪が、その中心にいる光景。
恒一は、ゆっくり息を吐いた。
(前は、俺だけを見てた)
――そう思っていた。
でも、それが
「事実」なのか
「思い込み」なのか
分からなくなってきている。
立ち上がろうとして、やめた。
(……今日は、動かない)
動けば、何かが壊れる気がした。
もう、取り返しがつかなくなる気がした。
だから――
ただ、見ない。
近づかない。
声をかけない。
影のままでいる。
街灯の下、
恒一の影だけが、地面に長く伸びていた。
(まだだ)
心の奥で、
小さく、でも確かに何かが蠢く。
(今じゃない)
澪には、遭遇しなかった。
それでも――
恒一の視線は、
確実に“次”を見ていた。
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