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第77話 〚静かな監視〛(恒一・続き)
恒一は、距離を保っていた。
以前のように、
あとをつけることはしない。
声をかけることもない。
ただ、
「知る」ことだけを選んでいた。
(……最近、安心してる)
それが、気に食わなかった。
澪は、以前よりよく笑う。
仲間といる時も、
海翔の名前が出る時も。
――警戒が、薄れている。
(守られてるつもりなんだ)
校門の向こう。
少し離れた場所から、
恒一はそれを見ていた。
誰にも気づかれない位置。
誰の視界にも入らない角度。
「……変わったな」
小さく呟く。
澪の周りには、
輪ができている。
仲間。
海翔。
教師の目。
クラスの空気。
以前のように、
一人で下を向いていた“高嶺の花”はいない。
(だからこそ)
恒一の目が、細くなる。
(今は、動かない)
焦れば、また失敗する。
花火の日のように。
(見てるだけでいい)
そう、自分に言い聞かせる。
――だが。
澪がふと、振り返った。
何かを感じたように。
ほんの一瞬、不安そうな顔をして。
恒一は、反射的に身を引いた。
(……気づくな)
心臓が、少しだけ早く打つ。
澪は、すぐに前を向いた。
仲間の声に引き戻されていく。
それを見て、
恒一は初めて――
(ああ)
胸の奥に、
はっきりとした感情を見つけてしまう。
(取られたくない)
それは、
恋でも、独占欲でもない。
もっと歪で、
もっと静かで、
もっと危ういもの。
(まだ、終わってない)
恒一は、ゆっくりと踵を返した。
今日は、何もしない。
けれど――
“見ている者がいる”という事実だけが、
確かに残った。
この静けさが、
いつまで続くのか。
それは、
誰にも分からなかった。
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