テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
大大大遅刻クリスマスネタです!🎄🌌
1週間以内だったらまだクリスマス判定ありますよね?ということでめげずに投稿します✍️
恋人が自分の声が好きなのを知ってる🎤
×
声フェチ🙂
です!(↑は軽く要素程度です)
幸せいっぱい(当社比)を目指すも、なぜか空気感がじめっとしてしまうのをどうにかしたいです。クリスマスプレゼントは除湿機が欲しかった。
最後のシーンは、YouTubeで
『リラックス 音楽 星空』とかで検索して、
一番上に出てくる音楽をかけながら書きました。
ヒーリング音楽としても素晴らしいので、
みなさんもぜひ聴いてみてください。
めちゃくちゃ寝れます(笑)
書きたいシーンを全部詰め込んだせいで無駄に長文になってしまいましたが、
楽しんでいただけると嬉しいです!
‧₊❄︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧
「スマイル、今年のクリスマスはふたりきりで過ごさない?」
そう言って誘われたのが数日前。
俺たちは、クリスマスは毎年余程のことがない限りはメンバーと過ごしていた。
ある年はオンラインで、ある年は誰かの家に集まって。
イブの夜から日付が変わるまで。
いつもより豪華な食事とお高めのシャンパンなどを持ち寄って、どんちゃん騒ぎをするのが俺たちのクリスマスだった。
「……ふたりとも不参加だったらあいつらにバレねぇ?」
「うーん、バレちゃうかな?ずっと言ってるけど、俺は別にあいつらになら言ってもいいと思ってるけどね?……スマイルは嫌なんだもんね?」
「…………いや、まあ、うん。」
小さく呟いて俯く。
この話題になると、きんときは少し悲しそうな顔をするのが申し訳なくて、毎度目を逸らしてしまう。
きんときとは数ヶ月前から、恋人として付き合っている。メンバーには誰にも報告していない、秘密のお付き合いだった。
俺だって、できることならば恋人としての初めてのクリスマスはふたりきりで過ごしたい。
…それは心からそう思う。
告白してきたのはきんときからだった。
きんときのことはもちろん友人としては好きだった。ただ、恋人としてきんときのことを見られるかと言われれば、最初ははっきり言ってNOだったんだ。
『俺、スマイルに好きになってもらえるまで、頑張るから。』
その宣言通り、きんときの猛アピールを受けて、彼の一途さに絆された俺は、ついに首を縦に振らざるを得なくなった。
今でこそ、こいつを愛おしく思う感情が俺の心に根を下ろしてすくすくと育っているが、
『…正気か!?男同士だぞ、俺たち』
告白を受けた時に最初に放った自分の言葉が、今でも胸に一点の黒い染みのようにじわじわと広がり続けている。
あの時の、一瞬傷付いたような顔をして笑ったきんときの表情は今後ずっと忘れられないだろう。本当に馬鹿で考えなしだった。
…裏を返せば、自分ですらそう思ったのだ。
他の奴らが聞いたら?
そう簡単に受け入れられると思うか?
もし否定でもされたら?
俺たちは今のままでいられるのか?
最悪な結果を考えてしまって、今でも伝える勇気は出ていない。
まわりの目ばかり気にしてちっとも前に進めない自分が情けない。
「じゃあさ、ちょっとだけ参加して、時間ずらして抜けようよ。それだったらバレないだろ?俺もちょっとはあいつらとのクリスマス会も楽しみにしてるし。毎年やってっからな〜なかったらないで締まらねぇっつうかw
……だから、スマイルも無理に言おうとしなくていいよ。」
そう言って優しく微笑む。
…こういうところだ。
俺がこいつを好きになったのは。
友人だった頃から、言葉では辛辣なことを言っていても根は優しいことには気付いていた。
恋人になった今では、何よりも俺の気持ちを優先して、それをきんとき自身も望んでやってることだからと、気負わせないようにしてくれる。
とびきりに優しくて、俺にはもったいないくらいの最高の彼氏だ。
こいつ、ほんと俺なんかのどこがいいんだ?
きんときなら普通の恋愛だってできただろう。
むしろ引く手数多というか……
優しくて面倒見が良くて、ちょっと意地悪で。完璧かと思ったらそうでもなくて、できない時は素直に頼ってくれるところも、疲れた時は静かに甘えてくるところも、付き合って初めて知ったきんときの魅力だった。
おまけに面も良くて、なにより…声が良い。
そう、声がいいんだよ。
俺の名前を呼ぶ声も、少し高くなる笑い声も、怒った時に荒くなる語気でさえ耳に心地良くて。
……そういう雰囲気になった時の、耳元で甘く囁く声なんて、思い出すだけでドキドキと鼓動が速くなる。
自分がきんときの声にフェティシズムを感じている、だなんて気付きたくなかったし、絶対きんときにはバレたくなかった。
……いや、話が逸れたが、こんな優良物件、モテないはずがないんだ。
何度かきんときに本当に俺で良いのかと確認したことがあるが、
『へぇ…こんなに分かりやすく気持ち伝えてるつもりなのに……まだ分かってくれないんだ。』
とちょっと怖い顔で笑って前後不覚になるまで愛された。
こういう、普段の優しさとは真逆の荒々しい一面が癖になって、最近はわざと挑発してるだなんて死んでも言えないけど。
「ふふw…スマイル?…またいっぱい考えてるの?もう一度言うけど、ほんとにみんなに言おうだなんて考えなくていいよ?
二人だけの秘密って考えると、正直ちょっと燃えてこない?逆にいつまでバレないでいられるか、みたいな。」
「…なんだよそれw……でも、ありがとう。」
そう呟くように小さく感謝を述べると、ゆっくりと抱き寄せられる。
背中に回る腕に力が込められ、俺の顔がきんときの胸元に押しつけられる。
このまま顔を見られ続けると、お前のことずっと考えてたってのが透けてしまいそうだったから、かえって助かった。
深く息を吸うと、きんときの匂いが肺いっぱいに満たされていくようで、多幸感に包まれる。
「……じゃあ、イブの夜は途中で抜けるとして、……なんかしたいことでもあるんすか?」
きんときの胸元でモゴモゴと問いかけると、耳元で小さく笑う声が聞こえる。
その声にすらぴくりと反応してしまって恥ずかしい。
…こんなに密着してるけど、バレてないよな?
きんときは抱きしめる力を少し弱めて、さらに耳に口を近付けて囁いてくる。
「んふふ、それは内緒だけど。全部俺に任せてほしいかな。…当日のお楽しみってことで。」
イタズラっぽい少し掠れた声色が直接脳を揺らすようで、ぎゅっと目を瞑った。そのままきんときの手が後頭部に回ってよしよしと頭を撫でてくれる。
「楽しみだね……?」
「…………まあ。」
「そこは素直に頷いてくれよw」
俺は”秘密のクリスマス会”へ想いを馳せながら、きんときの背中に手を伸ばし、そっと抱きしめ返した。
言葉にできない想いを、
この手のひらに込めて。
‧₊❄︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧
12月24日、時刻は午後15時30分。
天気は晴れ時々曇りで夜には雪になりそうだ。
(今日雪降ったらホワイトクリスマスになんのか…)
なんとなくスマホの天気予報アプリを眺めながら、柄にもなくそんなことを考える。
『次は───。お降りのお客様は忘れ物のないよう………』
電車のアナウンスが駅名を告げる。あと3駅程で目的の駅に着くことを確認して、バッグの中に忍ばせた2つのプレゼントの包みを布地の上から確かめる。
ひとつはメンバーと交換予定の包みで、
もうひとつはきんときにこっそり用意したものだった。
恋人への、しかも同姓へのクリスマスプレゼントなんて、縁がなさすぎて選ぶのに随分と苦労したなぁと、流れ行く景色を眺めながらぼんやりとその時のことを思い出す。
𓂃◌𓈒𓐍𓂃◌𓈒𓐍𓂃◌𓈒𓐍𓂃
(他人からもらって、迷惑じゃない物ってなんだ…?)
まず、そもそも相手が恋人とか以前に、贈り物選び自体が苦手だった俺は、序盤で詰んでいた。
先達に教えを乞おうとネットの記事を読み漁る。まさか自分が『彼氏が喜ぶクリスマスプレゼント人気ランキング』なるリンクを踏むことになるとは思いもしなかった。
人生何があるか分かったもんじゃないな、なんて考えながらサイトに目を通すと、マフラー、財布、ボディバッグなどいかにもな商品が羅列されていた。
どれも彼がすでに持っていたり、(なんならボディバッグは企画で貰ってもいた)なんだかしっくりくるものがなくて、結局街に繰り出して自分の目で見て回った。
探せば探すほど、正解が分からなくなった俺は何を血迷ったのか通りかかったアクセサリーショップにふらふらと入店すると、店内の一角にあるシルバーのネックレスのコーナーに目が吸い寄せられた。
(付き合って初めてのプレゼントがアクセサリーは重いか…?)
昔どこかで、『恋人にアクセサリーを贈ることの意味』みたいな文章を読んだことがある気がする。ネックレスがどういう意味だったかまでは覚えていないが、どうせ知っても碌なことはないだろう。
売り場でうんうんと唸っていると、背後から声がかかる。
『それ、シンプルで良いですよね…!』
ハッと振り返るとにこやかな営業スマイルを湛えた女性店員が話しかけてきている。
『何か気になる商品がございましたら、ご試着もできますのでお申し付けくださいね!』
『…え、あ、いや、友人への贈り物で……』
店員の申し出に、反射的に言わなくても良いことを口走ってしまう。
その言葉を受けた彼女は、ぱぁっと目を輝かせて、
『プレゼント用ですね!?お任せください!何点かおすすめのものをご用意いたしますので…!ご友人さんの服装は……』
と矢継ぎ早に言葉を重ねる。
若干気圧されながらも、なんとかきんときを思い浮かべて特徴を教えると、店員はいくつか候補のネックレスを見繕ってくれた。
どれも小ぶりでシンプルなデザインのもので、きんときに似合いそうだと思った。
その中でも、スティック状の飾りがついた物が気になり、手に取って見てみる。シンプルだが、きんときの服装にもよく合いそうだ。角度によって少し見え方が違う意匠が施されているそれは、見ていて飽きない。
『そちら、お気に召されましたか?他のものよりデザインに一工夫あって綺麗ですよね!』
『……はい、きっと、似合うと思います。』
どうして見ず知らずの人間にこんな事を告げたのか、慌てて言い直そうと口を開きかけると、彼女は優しげな表情でこちらを見ていた。
目尻を下げて、
『……きっと、ご友人さんもお喜びになりますよ。』
とにっこり笑う。
本当にそうなると良いな。
彼女が話しかけてくれなかったら……
自分一人だと絶対にこれを選ぶことはなかっただろう。
『……ありがとう、ございます。』
素直に感謝を伝えると、彼女は嬉しそうに笑って会計の手続きを始めたのだった。
𓂃◌𓈒𓐍𓂃◌𓈒𓐍𓂃◌𓈒𓐍𓂃
ほぼあの店員に乗せられるまま勢いで購入したそれが、ずしりと鞄の中で存在を放っている。
どんな顔をして渡そうか、やっぱりアクセサリーは重かったか?などと考えているうちに目的の駅に到着してしまう。
今年のクリパ会場はシャークんの家が選ばれた。くじ引きで決まったそれは、もし俺やきんときが選ばれていたらどうしていただろうか。6分の2で詰むので、なかなか運が良かった方だろう。
駅から10分くらい歩いて、シャークんの住むマンションに到着する。
掃除が行き届いた綺麗なエントランスに入り、オートロックの端末に部屋番号を入力してインターホンを押す。
『…ああ〜スマイル?お前ら早いなww今手離せないからそのまま入ってきて!』
モニター越しに姿を確認したのだろう。
がしゃ、という音と共に奥へと続く扉がゆっくりと開いた。
部屋の前まで移動すると、扉をそっと開ける。
鍵はかかっておらず、足元には既に何足か靴が並べられていた。その中に見覚えのあるスニーカーを見つけて、それだけで胸が高鳴った。
リビングのドアを開けると、そこには忙しなく動くシャークんと、キッチンで何かを作っているきりやん、そしてテーブルをセットしているきんときがいた。
「スマイルももう来たんだ!俺ら気合い入りすぎじゃねww」
と言ってきんときが笑いながら、俺が脱いだコートを掛けてくれる。
「お前ら開始17時からっつってんのになんで揃いも揃って1時間前集合なんだよwwまあ準備手伝ってくれるのめっちゃ助かるけど」
「去年俺一人で準備して、大変さが身に染みて分かってるから来てやったんだよ!」
「そういやそうだったねwいや〜その節はw」
「あざーすwww」
きりやんも文句を言いながらも楽しみにしてたことが伝わってきて不参加にしなくて良かったな、と思った。
やっぱりこいつらとの時間も大切だ。
‧₊❄︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧
「あっはwスマイルのプレゼントのチョイスおもろ〜ww」
「これ当たったのがシャケじゃなかったらどうしたんだよww」
「いや、逆に俺も欲しかったかもしれんww」
クリスマス会も中盤に差し掛かかり、プレゼント交換を終えたんだが、俺が用意したプレゼントが物議を醸している。
サメの着れるブランケットと変な柄のタンブラー。
「…いやぁ、暖かい冬をね?提供しよう思ったんすよ」
奇跡的にシャークんに回った俺のプレゼントを開けながら、彼もちょっと笑っている。
「見た目のインパクトはあるけど、まあ普通に使えるなあwwありがとねw」
「ふざけても実用的な物選ぶあたりスマイルっぽいよなw」
どうやら俺の選んだ贈り物は、なんとか及第点を得たようだ。
そして、俺の手元にはきんときのプレゼントが回ってきていた。
ドキドキするのを悟られないように丁寧にラッピングを剥がしていく。
そこには月が描かれた小洒落た箱が入っていた。
「きんときさん、何ですか?これは」
メンバーも興味津々だ。
「これはですね…月の形のルームランプですね。なんとこれ、磁力で浮きます!」
「えぇ〜!見たい見たい!スマイル開けてみてよ!」
そっと蓋を開けて取り出すと、手のひらより少し大きい白い球体が出てきた。コードを繋いで土台にセットする。
パチンとスイッチを入れると淡く発光する小さな月があった。磁力で浮くと言った通り、土台からふわふわと浮いてゆっくりと動いている。
「………きれいだな。」
素直な言葉が漏れると、きんときと目が合う。
「スマイルもお気に召したってよ。よかったなきんとき。」
「…そうだね。気に入ってくれたなら頑張って選んでよかった」
びっくりするくらい優しい声色に、心臓が跳ねる。頬に熱が集まるのを誤魔化すように咳払いをすると、
彼は嬉しそうににっこりと笑っていた。
そんな、俺のために選んだみたいに言うんじゃねぇよ。
「てかこれめちゃくちゃ当たりじゃんね!ずりーよ!…スマイル、きりやんのLEGOと交換してくんね?」
「あ!失礼だな!いらねーんだったら俺もらうよ?」
「いや嘘嘘!いる!ほしい!」
と視界の端でなかむときりやんが暴れ始める。
今年も賑やかで楽しいクリスマスになってよかったなとしみじみと思った。
何より、きんときの選んだ物が他の誰でもない、自分に回ってきたことが嬉しかった。
時計の針が20時を過ぎた頃、そろそろ頃合いかときんときと目配せをする。
ぐだぐだとくだを巻くきりやんに、それを見て笑うぶるーく、ケーキを頬張るなかむ、机に突っ伏して潰れているシャークん。
「俺明日早いからそろそろお暇させてもらおうかな。」
きんときが思い切って切り出した。良い感じに酔いが回っている彼らは、これでもかというくらいに絡んでくる。
「えぇ〜!きんときもう帰っちゃうの?夜はこれからだぞ!?」
「しーッ!明日はクリスマスだぞ?デートかもしれないだろ!」
「え!あらやだ〜きんさん彼女できたの!?教えてよ〜!」
「いやいや、彼女なんていねぇからww普通に用事だよ。」
そう言って立ち上がるとコートを羽織る。
…いや、ちょっと待てよ、酔っ払いたちのこの絡み様……この機会を逃したら俺が抜けるタイミングが難しくなるんじゃ…?
打ち合わせではきんときが出た30分後くらいに俺も後を追う予定だったが、こいつらの反応見てると、絡まれることは明らかだった。
「……俺もそろそろ帰ろうかな。」
小さくそういうと、きんときが驚いたような顔でこちらを見ている。
「スマイルも帰っちゃうの〜?じゃあ僕も帰っちゃおうかなぁw」
と言って立ちあがろうとするぶるーくを慌てたようにきんときが座らせる。
「いや、ぶるーくはもうちょいきりやんの相手してあげてよwほら、まだ飲み足りねえって顔してるし。」
「あ?誰が酔っ払いだ!きんときが付き合ってくれてもいいんだぜ?」
「いやだから俺は予定あるんだって!」
「まだ20時なのに?早すぎね?あやしいなぁ〜」
ときりやんはジトっとした目で見ている。
俺はこっそりコートを羽織りながら内心ハラハラしつつその様子を眺める。
するとなかむがぶるーくときりやんの間に入って二人を止めた。
「もう!ぶるっくもやんも空気読めって!」
「………へ?………あ、あぁ〜〜え、そういうこと…?それは、悪かったわ。」
「…あーね?wwそういうことならしゃーないかな!ふたりとも楽しんで〜」
「メリ〜クリスマ〜ス!いい夜を!」
意味ありげな視線を送ってくる3人の生暖かい視線に居心地が悪くなった俺は、
「何言ってんのかわかんねぇけど、あんま飲みすぎるなよ」
と声をかけて足早にシャークんのマンションを後にする。きんときもその後をぴたりと付いてきていた。
「なぁスマイル、お前はこれでよかったの?なんかちょっと…気付かれてる気もしたけど」
駅までの道を歩きながら、きんときが聞いてくる。
「………いや、いい。てか、俺の方こそ勝手なことして、ごめん。」
「いや、全然?むしろ、そのおかげでちょっとでも長くいられるから嬉しいけどね。」
そう言ってそっと手を取られ、そのままきんときのポケットの中に迎え入れられる。
じんわりと手のひらからきんときの体温を感じる。
「……きんとき、これちょっと恥ずいかも」
「誰か来たらすぐに離すから、ちょっとだけ。」
そう言って緩く握る手に力を込められると、ぎゅっと心臓が締め付けられるように切なく軋んだ。
きんときの言う通り、最後のあいつらの発言には確かに引っかかるものがあった。
茶化す空気はあったが、拒絶されるような態度ではなかった。
もう少し、自分に気持ちの整理がついたら、そう遠くないうちに打ち明けられる日が来るのかもしれない。
駅に着く頃には通りに人も増え、とっくに手は離されていた。少し寂しさを覚えながらも俺たちは電車に乗り込む。
この後はきんときの家に招待されている。
程よく混み合っている電車に揺られながらこっそり車窓に映るきんときを盗み見る。
彼はどこか楽しげでほんのり口角が上がっていてかわいいな、と思った。
俺との時間を楽しみにしてくれてるんだっていうのが分かってなんだか照れ臭い。
家に着いたら何が待っているんだろう。
サプライズ系は相手の求める反応ができる気がしなくて正直苦手だが、ばっちりシミュレーションもしたし、驚くリアクションも練習して来た。今日の俺は一味違うぞ、と意気込んで窓越しのきんときを見つめていると、ぱちりと目が合う。
ニヤッと笑ったきんときは、窓に映った俺の目を見つめながら、耳元に顔を近付けてくる。
「……見すぎ。もうちょっと我慢して?」
咄嗟に耳を手で覆いきんときから半歩距離を取る。
なんだこいつ!いきなり耳はやめろよ!と文句のひとつも言ってやりたいところだったが、生憎満員電車の中で喚くわけにもいかず、キッと睨んで抗議してやるしかない。 自分でも今顔赤いんだろうなって分かるくらいに顔が熱くなっていて恥ずかしい。
きんときはそんな俺を愛おしそうに見つめてくるだけで、後は何も言わずぴたりと寄り添って降車駅までの時を待った。
きんときの家の最寄駅に立ち並ぶ銀杏並木は、色とりどりのイルミネーションで飾りつけられていて、光り輝いていた。
天気予報は外れることはなく、空からはちらちらと雪が舞い始めている。
駅前広場には大きめのクリスマスツリーなんかが飾られており、カップルが写真を撮ったり、ちょっとしたフォトスポットになっている。
「スマイルもああいうことしたいの?」
ぼうっとその様子を眺めていると、突然至近距離から声がかけられて飛び上がりそうになる。
「あぇ!?…ああいうのって…?写真のこと…?いや、別に、見てただけだけど…?」
「そっか。残念だな、俺はスマイルとの思い出残したいけどな〜。スマイルは恥ずかしいよね?……じゃあ、行こっか。」
と言うと肩を落として歩き始めようとする。
その後ろ姿を見て、自分でも何故そうしたのか、無意識にコートの裾を摘んで呼び止めてしまう。
知らないうちに、俺もだいぶ酔いが回っていたのかもしれない。
「あ、……えっと、…いや、これはその……今だったら、人全然いねーし……撮ってもいいけど……?」
我ながらどうしてこんなにぎこちない言い方しかできないんだと頭を抱えそうになるが、声に出してしまったものはしょうがない。
「撮ろう、きんとき。」
腹をくくってそう告げると、きんときはぱっと表情を輝かせる。大きな瞳に映ったイルミネーションの光がキラキラと満点の星空の様で綺麗だった。
「スマイル、視線こっち!そう、ポッケにちょっと手入れて!そうそう!撮るよ!……OK!うん、かっこいい!次は……」
どうしてこうなった。あの後何故かツリーの前に立たされた俺はピンで写真を撮られている。さっきから道行く人達の遠巻きにクスクス笑う声が聞こえてくるのが恥ずかしいことこの上ない。
「ちょっと、きんとき、いくら人少ねぇからって、撮りすぎ……」
「ええ〜今日のスマイルかっこいいからいっぱい残しときてぇんだけど!今日ずっと言いたかったんだけど、タートルネックめっちゃ似合ってる!」
「……っ!いやいやいや、そういうのいいから…ほら、きんときも来て…」
とちょいちょいと手招きすると大人しく近付いてくる。
「俺はもういいから。……一緒に撮らねぇの?」
と言ってサッとスマホを取り出してカメラを構える。驚くきんときそっちのけでシャッターを押すと、ほら行こう、ときんときの手を引いて歩き出す。
「…………え?あ、待てよスマイル!俺今絶対変な顔してた!」
後ろで喚いているきんときを無視してズンズン進んで行く。いつも俺が振り回されてばっかりだから、たまにはこういうのもいいんじゃないかと、勝手に口角が上がった。
見返したツーショットに写る彼は、驚いた顔もかっこよくてなんだか悔しかった。
‧₊❄︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧
部屋の前に到着すると、きんときに鍵を開けてもらう。合鍵も持っているが、今回は家主に任せることにした。
ドアが開くと、手を引いて中に招き入れられる。
背後でばたんと扉が閉まると、きんときが俺の身体に腕を回す様にして鍵をかけた。
すぐに退けばいいのに、その体制のまま見つめられる。
空気が甘く変化する。
(あれ、もしかしてこのまま……?)
なんてぐるぐる考えていると、きんときがふっと笑った。
「なに、スマイル。……期待した?」
意地悪そうな目でニヤリと笑われて、顔から火が出そうになる。
(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!)
顔を逸らすも、抱きつかれる様な姿勢では逃げ場なんてなくて。
「か…帰る!」
後ろ手にドアノブのレバーを探して手を動かすと、慌てたようにぎゅっと腕ごと抱きしめられて動けなくなった。
「ごめん、帰らないで!ちょっと意地悪しすぎた!…期待したのも、触れたいと思ったのも、俺の方。ほんとごめん!」
必死にぎゅうぎゅうと抱きしめてくるきんときがなんだかかわいくて、俺も絆されてんな〜なんて呑気に考えた。
片腕だけなんとか抜け出すことに成功した俺は、そのままきんときの頭を撫でてやる。
「わかった。許してやろう、きんとき。
……その代わり……いっぱい…甘やかせよ…」
最後の方は恥ずかしさで消えそうな声だったのに、この距離では全部聞こえてしまったみたいだ。
「……仰せのままに、女王様。」
「…じょっ!?いやwなんだよそれw
変な呼び方すんッ──」
言い切らないうちにそっと唇を塞がれる。
ちゅ、ちゅと音を立てて、何度も何度も啄む様にキスをされる。
ゆっくりと離れたと思ったら、睫毛が当たりそうな距離で青い瞳と目が合った。
きんときはにっこりと微笑んで、もう一度唇をぐっと押し当てる様にキスをする。
時折優しく食まれると、言いようのない愛おしさで胸がぎゅっと切なくなった。
まだやめてほしくなくて、彼の頬に手を伸ばして俺からもキスを返すと、ふふ、と笑われた。
きんときのキスと、漏れる吐息に、
頭がほわほわして幸せな気持ちになる。
幸せ過ぎて、鼻の奥がツンと沁みる。
あれ、なんでだ、俺泣きそうなのか。
何度も何度も角度を変え、降ってくるキスの雨に身を委ねて目を閉じると、瞳から温かい雫が零れ落ちた。
一瞬唇が離れて、ちゅっと音を立てて涙を吸われる。
「スマイル、どうして泣いてるの?」
「あえ、……なんでだろ。……いや、なんか、胸いっぱいで……」
「……幸せで泣いちゃったの?…かわいい。
…そんな顔されると、離れたくなくなるなぁ。」
そう呟くと、きんときはもう一度ぐーっと唇を押し当てて、名残惜しそうにゆっくりと離れていった。
「……ここ寒いし早く中入ろ?」
靴を脱ぐと、手を繋がれてリビングへと向かった。
‧₊❄︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧
リビングに入ると、部屋の時計が21時を過ぎていた。冷えた身体を温めるため、とりあえず先にシャワーなどを済ませた俺たちは、ゆったりとした時間を過ごしている。
「スマイル、腹どんな感じ?さっきだいぶ食ってたけど、ケーキとかいけそう?」
「まあ、ケーキくらいだったら…全然余裕かも。」
そう言うと、きんときは嬉しそうに「じゃーん!」なんて言いながら冷蔵庫から大きめの箱を取り出す。
いやいや、待ってくれ。あれホールじゃねえの?ふたりだぞ!?なんてツッコミが喉元まで出かかったがぐっと飲み込む。
「あ、今ホールは無理とか考えただろ!!いやぁ、大は小を兼ねるかなって。」
あははと笑うきんときにつられて俺も笑う。
ケーキはクリームやクリスマスっぽい飾りがのったチーズケーキだった。
「絶対そういう反応すると思ってチーズケーキにしてみました。食いきれんかったらまた明日食べよ?」
そう言って彼は少し首を傾けて聞いてくる。
あした。
当然のように呟かれた3文字に胸が温かくなる。
「チーズケーキと言えばさ、スフレとベイクドがあると思うんだけど、…きんときはどっち派?」
「え、いきなり何?そんな派閥あんだww
え〜どっちだろ。どっちも好きだけどねぇ…強いて言うならスフレかなぁ?なんか軽くていっぱい食えそうじゃんw」
「………へぇ。だからこっちにしたんだ。」
ひとりで納得した俺はひと口ケーキを口に運ぶ。甘すぎず、爽やかな味のケーキは少しだけレモンの香りがした。
「いや、今回はたまたま入ったケーキ屋のがスフレだっただけだよ……ってスマイル、ここ、クリームついてる。」
そう言って口の端を指先で拭われる。
こんな些細な行動ひとつで恋人なんだなぁ、と実感して、なんだか胸がむずむずした。
「……あ、ありがとう。」
真っ直ぐ目を見て伝えるには、俺にはまだ時間がいるらしかった。
ケーキは半分がなくなった時点で限界だった。
もうしばらくはチーズケーキの顔も見たくねえなと思ったが、明日になるときっと食いたくなってるはずだ。それくらい美味かった。
簡単に片付けを済ますと、二人掛けのソファに並んで腰掛ける。
どことなくそわそわした雰囲気で、お互い言葉を発さない。こういう時はどうすればいいんだ?
ちらりと真横を見ると、彼も同じ考えだったのか、伺うようにこちらを見ていた。
思わず吹き出しながら、きんときが切り出す。
「あのさ、なんか改まって言うのもなんだけど…スマイルさんにプレゼントを用意しています。」
「………えーと、実は俺も、準備してきました。」
「えっ!?まじ!?」
とガバッと顔を上げたきんときは力が抜けたように俺の肩にもたれかかってくる。
「はぁ〜〜〜よかった〜〜!てっきりないと思ってたから……実はさっきのみんなで交換した時のやつに懸けてたんだけど、しゃけに行っちゃって…こっそり落ち込んでたんだよねw」
「なにwそんなにサメのブランケットが欲しかったの?そんなん、言ってくれればいくらでも用意するけど…」
「わっかんねぇかな〜スマイルには。俺が欲しいのはサメでもブランケットでもなくて、お前からのプレゼントなんだよね。」
「……はぁ?よくもまあ、恥ずかしげもなくそんなこと言えるなぁ!
………まあ、俺もきんときのが回ってきた時、他のやつんとこ行かなくてよかったなってちょっと思ったから……ちょっとだけね?
……ちょっとだけ、思ったんすよ。だから、まあ、そういうことでしょ?」
「え゙っ……!?スマイルにもそういう感情あるの?ちょっと待って、やばい、かも。一旦抱きしめていい?」
「…別にいいですけど?w……それより早くプレゼント見なくていいの?」
「〜〜〜っ!先に見るわ!!お前が選んだプレゼントとか流石に気になりすぎるだろ!」
何故か自らハードルを上げてしまったようで内心焦る。だが、引き延ばせば延ばすほど渡しにくくなりそうだから、さっさと鞄から小ぶりの箱を取って差し出した。
「…開けていい?」
と聞いてくるきんときに無言で頷くと、丁寧に包みを解いていく。
「………え、これって……」
箱を開けて固まる彼の表情を、固唾を呑んで見守る。
そっとチェーンの部分を摘んで目線の高さまで持ち上げる。
「……これ、俺の見間違いじゃなければ、ネックレス、なんだけど……合ってるよな?」
「ふっwいや、合ってますよ?ww」
「さっき着ぐるみみてぇなプレゼントチョイスしてたのと同じ奴が選んだって誰が信じるんだよこれwwえ、すごい、これはめちゃくちゃ嬉しいわ!ありがとう!」
「まあまあまあ、頑張って選びましたからね。」
「うん、頑張ってくれたんだろうなってすげえ伝わってる。ありがとうスマイル。」
そのまま俺の手のひらにネックレスを押し付けたきんときが背を向ける。
「それ、スマイルが着けてよ。
……俺のこと、独り占めしていいよ。」
振り返って笑うきんときに、どきりと心臓が変な音を立てた。
(こいつ、知ってんのか…)
実は、このネックレスを買った後、どうにも気になってアクセサリーを贈る意味をこっそり調べてたんだけど、「束縛」とか「独占」とか、あまり穏やかじゃない単語が並んでいて頭を抱えた。まあこいつは知らないだろうと高を括っていたが、どうやらこいつの方が一枚上手だったらしい。
きんときの首元に手を回し、チェーンの先の小さな留め具を摘んでもう片方の穴に引っ掛ける。
細い首筋に掛かる鎖が外れてしまわないように、繋ぎ目を確かめるように、
上から指先でゆっくりとなぞる。
(なるほどね。そうか、これが…………)
胸の内に良くない感情が湧き上がりそうだったので、慌てて蓋をして、知らないフリをした。
「……きんとき、できた。正面も見せて。」
俺の声に応えて、くるりと向き直ると、胸元で銀色がきらりと揺れた。
「……………」
“似合ってる”とか”かっこいい”とか、言いたいことは幾つも浮かんだが、どんな言葉を並べても陳腐に聞こえそうだった。
だから、言葉の代わりに黙って頷いて、微笑んでみせた。
これだけで十分伝わったのだろう。
きんときもにっこり笑ってこれ以上言葉は重ねてこなかった。
「これの後で俺のちょっと出しにくいんだけどww一応考えて選んだから受け取ってくれる?」
そう言って次はきんときの包みが手渡される。手のひらサイズのラッピング包装で、重くはない。何が入っているんだろう。
破らないように慎重にテープを外していくと、中からは本革のブックカバーとアンティーク調の金属製のブックマーカーが出てきた。
ブックマーカーは、星月夜をモチーフにしたような透かし模様が入っていて美しい。
「……どう、でしょうか。本も考えたんだけど、内容の好みとかありそうだったから、どこでも持ち運べるようにカバーにしてみたんだけど…」
恐る恐る聞いてくるきんときを安心させるように革の表面をひと撫でして伝える。
「…めちゃくちゃ嬉しいよ。革ってずっと使ってると味出ててくるし、愛着湧くじゃん。手元に置いとけるのもポイント高いわ。最高のプレゼントですよこれ。さすがに俺を理解りすぎでしょ。いやあ、脱帽ですねこれは。」
言葉が勝手にスルスルと口から出てくる。自分で思っていたよりも、きんときの贈り物が自分好みで興奮していたらしい。
「…あとこれね。俺、栞って持ってなかったから、いつも文庫本買った時についてる紙のやつ使ってたんだよね。開くたびに出版社の宣伝文句目に飛び込んでくるのも情緒がないってもんじゃないですか。その点、さあ読むぞって本開いた時に一番に目に飛び込んでくるのがこれだったら、読書に彩りを添えてくれるってもんですよ。特にこの星空の青色が……」
……青色が、いつでも目に入るように。
そこまで言って、きんときの意図が分かってしまった俺は口を噤んだ。
「あはは、気付いちゃった…?」
きんときはイタズラがバレた子供のような表情をしていた。
「…めっちゃ感想言ってくれてありがとうね。……いっぱい使ってくれよ?」
「…………ん。こちらこそ。」
そう短く返すとそっと手を繋がれる。
指と指の間に絡ませるように優しく握り込まれて、どんな言葉よりも雄弁に気持ちが伝わってきた。
「もういっこ、用意してるのがあるんですけど……ちょっと付いて来てくれる?」
もう十分貰っているのに、
これ以上何があるんだろう。
俺の表情が揺らいだのに気付いたのか、
きんときは握った手にぎゅっと力を込めた。
「そう身構えないでよ。きっとスマイルにとっても”イイこと”だと思うからさ。」
小さくウインクなんてして、俺の手を引きながらきんときは寝室がある方まで足を進める。
扉の前で足を止めると、がちゃりとドアを開ける。
すると、何度も入ったこの部屋は様変わりしていた。普段使っているセミダブルのベッドは部屋の隅に追いやられ、真ん中に広く空間が作られていた。
そこの空間を埋めるように、所狭しと柔らかそうなマットや毛布、クッションで埋め尽くされている。
「ちょっと準備するからさ、好きなポジション見つけてくつろいでてよ。」
そう言われるがまま、柔らかなそこに座らせられる。
(なんだなんだ。いったい何が始まる?)
緊張したまま隅の方で固まって待っていると、程なくして両手に湯気が立ったマグカップを持ったきんときがドアの隙間から顔を出した。
「あれ、なんでそんな隅の方にいんのwwほら、こっちの方来なよ。俺的おすすめはこのあたりに寝そべって──」
ベッドと同じく隅の方に追いやられたローテーブルの上にマグカップを置きながらきんときが説明をしている。
ふんわりと漂うカカオの甘い香りに、中身はココアだということが分かった。
「これ、好きなタイミングで飲んでね。
それじゃあ、…ちょっと電気消すね?」
そう言ってパチンとスイッチを消した。
部屋は一ミリの光も見えなくて、深い闇に包まれる。きんときのいた方に目を凝らしても何も見えなくて。
「……きんとき?」
呼びかけると、ちょっと待っててと小さく笑う俺の大好きな声と、ゴソゴソと何かを探る音だけが聞こえた。
「…えっと、ここかな?」
という呟きと共に、パッと視界いっぱいに光が飛び込む。
眩しさに一瞬目が眩み、ぎゅっと閉じた瞼をもう一度ゆっくり開く。
すると、部屋一面に星空が広がっていた。
続けて、彼が操作していた端末から穏やかな音楽が流れ出す。静かなピアノと環境音が沁み渡ってくるような、心地の良い音だった。
「……どうかな、これがもうひとつの俺からのプレゼント。今日はいっぱい癒されてほしくて。
…スマイルはプラネタリウムとかあんま行かない?……素人ながら、一応一通り星座の解説もできるようにしたから…ご所望でしたらいつでも言ってもらえたら。」
きんときの静かで、透き通るような声が響いている。
「………きんとき、こっち来て?」
小さく呼ぶと、彼は膝をついて俺の左隣までやって来ると、腕が触れ合う距離で横になった。
「……スマイル、今日は一緒にいてくれてありがとう。俺の気持ちに応えてくれて、ありがとう。」
片手で俺の頬に触れられながら優しく囁くきんときは、星灯りに照らされてとても綺麗だった。
「………俺の方こそ、この気持ちに気付かせてくれて、ありがとう。」
光の少ない、星空の下だからか、
いつもより素直に呼吸ができる気がした。
夜空を見上げて、瞬く星を眺める。
満天の星々が俺たちを祝福するように見守っていた。
「きんとき、あの星はなんていうの。」
頭上に輝く一等明るい星を指差して聞いてみる。
「……お目が高いですね、スマイルさん。
それは、一等星『シリウス』です。
シリウスは、星座を作る星たちの中でいちばん明るい星なんだって。
実際の空でもはっきり見ることができるよ。」
「………へぇ。確かに、言われてみれば、これがいちばん明るいかも。」
「……スマイル、手借りるね?
シリウスからこうやって線で結んだ先にあるちょっと赤い星は───」
観客は俺ひとり。
俺だけのために開かれたささやかな上映会は、俺のテンポに合わせてゆったりと進行していくらしい。
きんときの心地の良い声が、呼吸が、
全身を包み込んで、意識が夜に溶けていく。
「スマイル、目、無理に開けなくていいから。
眠くなったら、そのまま寝ていいよ。」
少し声を落として、きんときが耳元で囁いた。
「……いや……起きてるよ。
……聞き逃したら…もったいないじゃん……」
「ふふ、無理しなくてもいつでもやってあげるのに。
……じゃあ、もうちょっとだけ続けるね?」
「もうひとつ、冬の空で大事な星があるんだ。……これはスマイルも知ってるんじゃない?
北極星。『ポラリス』って言うんだけど。」
名前は知っていたが、だんだん声を出すのも億劫になってきたので、代わりに小さく頷いた。
「この星は、ほとんど動かないんだ。
……他の星がぐるぐると回っていても、
ずっと、同じ場所にいる。」
「昔の人はね、夜に道に迷ったら、
この星を探したんだって。」
「……動かない星って、すごいよね。」
「派手じゃないけど、ちゃんと、役目がある。」
「自分がどこにいるか分からなくなっても、
ポラリスを見つけられたら…
帰る方向は分かるから。」
「……スマイルもさ。」
「……もし、道に迷ったら、」
「ポラリスを探してみてよ。」
「きっと道標になってくれるから。」
優しく毛布をかけ直される音がする。
…きんときが、いま、大事なはなしを
している気がするのに……
もう、めをあけていられなかった。
「……じゃあ、最後にもうひとつ。
さっき話したシリウスの次にね、
2番目に、もうひとつ明るい星があるんだ。」
「……『カノープス』っていう星。」
「冬の南の空、地平線すれすれに出る、
……すごく見つけにくい星。」
「日本からは、ほとんど見えないみたいなんだけど、」
「見られたら……すごく幸運なんだって。」
「逸話だけどね、どこかの国では
この星を見た人は寿命が延びるとか、
…そんな特別な星って、言われてたらしい。」
「……だからさ。」
「もし見られたら……
ひとりで見るより、
一緒のほうがいいなって。」
「……いつか、
ふたりで見に行こうよ。」
「迷わないように、
ずっと一緒にいられるように。
ちゃんと俺が手握ってるからさ。」
‧₊❄︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧𓂃٭𓂃 ‧₊❄︎︎₊ ‧
すうすうと安らかに寝息をたてているスマイルの顔を覗き込む。
どこまで聞けていたかは分からないが、
考え過ぎてしまうきらいがあるスマイルが、
少しでも心安らかでいれる場所になりたいと、
自分がそういう存在で在りたいと、
そう、強く思う。
「…好きだよ、スマイル。」
夢の国に旅立った寝顔に声をかけて、
「おやすみ、スマイル。
……良い夢を。」
静かに額へ口付けを落とした。
コメント
2件

なんて素敵なクリスマス、いいですね✨ 🙂さんが不意に見せる素直さと、🎤さんの優しさ溢れる愛情がたまりません。ありがとうございます😊