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その後、美容学校、美容院への就職、そして渡米。


俺を取り巻く世界は目まぐるしく変わり、優紀はまた遠い存在になっていった。



正直に言えば、専門学校時代やニューヨーク時代、女性との付き合いがまったくなかった訳ではない。


だが、日本に戻り、店を出すと決めた後、ステディな関係になった女性は一人もいない。


見合いの話は山のようにあったし、知人から紹介されることもあった。


だが、彼女たちはみな、香坂ホールディングスの御曹司としての財力や、〈リインカネーション〉の代表である地位や権力を通して、俺を見ている人ばかりだった。


その打算が透けて見えてしまい、付き合いを断ることを繰り返してきた。


でも、彼女たちと優紀は違う。


これまで告白しようとしたことが何度もあった。

だが、そのたびにプロジェクトの最中だと思いとどまった。


優紀のぐちゃぐちゃにもつれた心の糸を、早くこの手でほどいてやりたい。

そして、ひたすら甘やかして、心の傷を癒してやりたい。


ゆっくり時間をかけて、彼女の心を何重にも覆っている固い殻を一枚ずつ剥がしていくつもりだったのに。


そして、優紀が、俺が笹岡と付き合っていると思いこんでいることだが、これは完全な誤解だ。


とにかく、その誤解だけでも解きたい。


俺は1階まで降り、警備員に紀田さんが来たらスマホで知らせてくれと言づけて、高木書店に向かった。


だが、優紀は俺の話をまったく聞こうともせず、自室に籠ってしまった。


「ああ見えて、ものすごく意固地なところがあるからな、優紀は」

たまたまその場にいた浩太郎にそう言われた。


「ああいう精神状態のときは、何を言っても無駄なんだ」


さすがは兄だ、彼女のことをよく把握している。


浩太郎は真面目な顔になって、尋ねてきた。

「ひとつ確認しておきたい。お前、優紀をどう思ってるんだ」


俺は浩太郎の目を見て、きっぱり言った。

「この世で一番大切な女性だよ」


彼は、俺の目の奥を探るように見つめてきた。

それだけで、その言葉に嘘がないことを見抜いたらしい。


やはり、20年近くの友達付き合いはだてじゃない。


「お前が真剣なら、俺が口をはさむ道理はないな」

「いいのか」


「優紀も、もういい大人だ。遊びで|弄《もてあそ》ぼうとするなら、お前であろうと許しはしないが」

「そんな訳、ないだろう」


浩太郎は軽く頷き、俺の肩を叩いた。


スマホが鳴った。

紀田さんが来たようだ。


「今、ちょっと取り込み中で店に戻らないといけないんだ。また来るよ」

「ああ。またな」


優紀の様子は気がかりだが、藍子さんも浩太郎もいるから問題はないだろう。

もうひとつの気がかり、紀田さんの話を聞くために、俺は自分の店に戻った。

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