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“ガラッ”
帰りのHRが終わったと同時に、教室のドアが勢いよく開いた。
目もくれなくても、勢いと共に薔薇、星、フェロモンが視界に入ってくる。
「宏斗、帰ろうか」
律が今まで見せなかった、この柔らかい表情でクラスを騒然とさせる。
一方、皐月宏斗は考えた。
こんなに目立ってしまえば、少女漫画あるあるの
“私たちの如月くん取らないで!!”とか
“キャー!皐月くんにカッターで切られた!(自作自演)”とか!
そういう呼び出しイベント起こってもおかしくないのでは………?
机に置いたリュックをぎゅっと握りしめた。周りを見渡すと、なぜか女子の視線が痛々しく感じ“ヒュッ”と息を呑んだ。律はおかしそうに首を傾けて、宏斗と目が合うたびにわずかに微笑んだ。
「さっ………先帰るから!!」
光の速さでリュックを背負い、廊下を力強く踏みしめて教室を出た。しかし、いくら自分の運動神経に自信があるとはいえ、あの如月律から逃げきれないことは重々に承知していた。だとしたら……
_____隠れるのみ!!!
三階の空き教室に潜り、身をひそめた。廊下を走る音は聞こえるものの、その足音は徐々に遠のいていった。数十分、空き教室で時間を潰し、さすがに律も帰っただろうと廊下に出た。
昇降口へ向かいながら、宏斗は深くため息をついた。
少女漫画のヒロインって、こんなに命削ってたのか……。いやいやいや、他人事みたいに言ってる場合じゃねぇ。今まさに俺がそのポジションなんだよ。冷静さなんて、どっかに吹っ飛んでいた、その時だった。
「皐月宏斗くん」
そう、当事者の彼に休息なんてないのだ。
後ろから、4人組の女の子たちに名前を呼ばれ、宏斗はついに覚悟を決めた。
これ、完全に“アレ”ですわ_______
「ちょっと着いてきて」
「あ、はい…」
予想通りまんまと4人に屋上に連れていかれ、宏斗は強風にさらされる。
とりあえず、手持ちにカッターナイフがないか確認し、背後にバケツを持っていないかも確認した。
「単刀直入に聞くけど、如月くんと付き合ってるの?」
いかにも、リーダー的存在の子が腕を組んで尋問を始めた。
皐月宏斗の表情はまるで、全身の血を抜かれた死人のようだった。
「ツキアッテイマセン」
即答の早口で答えると、一気に風が強くなった。
「じゃあなんでキスしていたの?」
「あれは、不意打ちでされただけです」
宏斗の瞬殺レベルの即答はその場を静寂へといざなった。
しかし、リーダーの彼女は俯きながら握った拳が震えていた。
「嘘よ………そんなの絶対嘘」
ヤバい、これ、殴られる。そう思って彼女を止めようとした瞬間だった。
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「如月くんと皐月くんが付き合っていたら超絶萌えるのにっっっ!!!」
………………………は…………い???
「私たち、如月ファンクラブとして如月くんに不用意に近づく女はみんな排除してきたのっ!でもお相手様が男の子なんてむしろ本望ですわ!!」
完全に置いてけぼりをくらった宏斗は、口を開けたまま固まった。
「しかも、文化祭のライブも見たけれど、貴方もとても素敵だったわ!!如月くんに比べたら劣るけど」
一言余計だっつーの。
「でも待って!!羨ましい!如月くんに想いを寄せられるなんてっ!」
この感情ジェットコースターの彼女を白く、哀れな目で見つめた。
彼女たちは情熱的に律のことを語っている。だが、宏斗に吹きつける風はいつも以上に冷たかった。
すると突然、如月ファンクラブのメンバーである、ボブヘアの女の子が手を挙げて宏斗をじっと見た。
「私、軽音部の部長くんと席近くて話したことあるけど、皐月くんってすごく仲間思いで心が綺麗な人って言ってたよ」
部長が………。
ぎゅっと心が熱くなって、風も温かくなった気がした。ボブヘアの女の子はゆっくりと微笑み宏斗に視線を向ける。
「ぶ、部長が言ってたんですか?」
「うん、髪の毛も皐月くんの真似してセットしてるって言ってたよ」
そうだったんだ…。今度部長に会ったら感謝伝えよう。
暖かい風に吹かれながら、部長の顔を思い浮かべた。
「部長ってあの、前まで眼鏡かけてたジミ男だよね?最近垢抜けたって話題になってたよね~」
「皐月くんがきっかけらしいよ!皐月くんて部長とそんな仲いいんだ!」
気がつけば、話題の矛先は部長へと向いていた。まあ、律の話より気が楽だし話題から逃げきれたし宏斗にとっては好都合だった。
しかし、彼女たちのトークはヒートアップし質問攻めが徐々に止まらなくなっていく。
「部長くんってギター上手なの?!」
「家が和室って本当なの!?
「土手でよく練習しているってマジ!?」
一気に押し寄せる質問に身を引いた。落ち着いて!と自分が一番焦っていることにも気づかないで、壁に追いやられた瞬間だった____
“バンッ”
突然、屋上の扉が開き、如月ファンクラブの4人は口をパクパクとさせ、声を失っていた。
「あまり、宏斗に他の男のこと喋らせないで」
風になびく、銀色の髪とシトラスの香り。宏斗の腕を引き、自分の胸に閉じ込めた。
「俺、嫉妬深いから」
そう、4人をじっと見つめ、嫉妬心をむき出しにしているのは紛れもなく“如月律”だった。
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