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坪井の肩越しに、正面に座っていた小野原と目が合った。

徐々に赤くなっていく頬に怒りや羞恥を感じていると。


ガタン、と激しくパイプ椅子を倒して小野原は弾かれたように立ち上がった。


「あ! お、小野原さん!」


そのまま素早く歩き出した小野原は真衣香の横を通り過ぎる瞬間、刺すような視線でこちらを睨む。

そして早足で通り過ぎる、真衣香はその背中を追いかけた。


「小野原さん、ま、待ってください」


坪井に軽く会釈をし真衣香も早足で後ろに続くが、小野原は足を早めるばかりだ。


ずんずんと早足で営業課を出て廊下を歩く。


しつこく追いかけてくる真衣香に我慢ならなくなったのだろう。

立ち止まった小野原は振り返り、はぁ……。と耳を澄ませずともハッキリと聞こえる大きな溜息で語尾を強くして言った。


「何なの、あの場でもっと坪井くん味方につければよかったじゃん。こんなふうに私追いかけて、わざわざ彼氏に点数稼ぎなんてしなくてもさ」


「点数稼ぎなんて、そんな、そんなことしても意味ないです」


真衣香が答えると小野原は振り返った。

わなわなと肩を震わせて睨みつける。


「だから何いい子ぶってんの!?」


大きくキン、と響く声。

小野原に抱いていた美人で忙しない営業課でも頼られる美人で落ち着いた先輩事務員。


そんなイメージが、彼女のほんの一面だったことを知る。


「い、いい子って……、その、坪井くんは別に私の味方というわけではないんです」


真衣香が返すと更に苛立った様子で小野原が大きな声を出した。


「だから何!? いいかげんハッキリ言ったら? 嫌がらせ無駄でしたねって、馬鹿ですねって思ってること言えばいいじゃない」


大きく怒りを含んだ声に真衣香はわかりやすく身も心も萎縮してまい、つい視線を逸らす。

けれどそんな自分を戒めるように。

思い返される声や表情。


『情けない』と自嘲するように言った坪井の。

『言わせないようにするんだよ』と言った八木の。


その声は全て、真衣香自身や仕事への姿勢、それらに繋がっていて。

それぞれの言葉を生んだ。

ならば真衣香は今ここで何をしなければならないのか?

小野原の気迫に恐れをなして下を向くことなのだろうか?

坪井を頼ってしがみつくことだろうか?


(……だから何回も思ってるよ、違うって。思うだけじゃダメに決まってる)


ギュッと手を握りしめた。


(坪井くんと関わったほんの少しの間に、自信つけるための勇気たくさんもらったんだからしっかりしなきゃ)


その坪井の、マイナスになるだけの存在になんてなりたくない。


中指に食い込んだ親指の爪、その痛みがまるで背中を押してくれるみたいだ。


さあ、息を吸い込む。


相手の顔色を見て、相手の望む会話をすることは、もうやめたいから。


「私、小野原さんにとってパッと出の嫌な奴だって自覚ならあります!」


真衣香が突然大きな声を出したからだろうか。

「は?」と、小野原は未知の生物を見るような目で真衣香を凝視した。

いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました

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