【おはよう。酷くして悪かった。無理せず週末は休んでくれ。箱は妹にやるつもりだったが、予定が変わって行き先がなくなったから代わりにもらってくれ。誕生日だって言ってただろ? 要らなかったら売るなりなんなり、好きにしてくれ】
朱里にプレゼントを押しつけたいがばかりに、俺は妹を利用してしまった。すまん。
【こんな高価な物、いただけません。お返しします】
予想通りの返事があったが、俺はそっけなく返事をする。
【いらん。戻すな。寝るからもうメールするな】
我ながら冷たいと思うが、こうでもしないと朱里はジュエリーを返そうとするだろう。
確かに相場より少し高めの物だが、自分の物になったなら、諦めてもらってほしい。
……と思ってしまうのはエゴだと分かっていても、朱里に似合うと思って買った物だから、なんとか受け取ってほしかった。
コーヒーを飲み終えたあと、薬を飲んで寝ようとしたが、ベッドに横になると朱里の嬌態を思い出し、興奮して寝付くどころではなかった。
恥ずかしい話、思いだしただけで勃ってしまい、脳裏に刻まれた朱里の姿だけで何回も抜いてしまったぐらいだった。
**
月曜日になって出社すれば、〝いつも〟に戻ると思っていた。
窓際の部長室は透明なパーティションで囲われ、フロアが見渡せる。
朱里より先に出社した俺はモニターに視線をやりながらも、チラチラとフロアを窺っていた。
――来た。
出社した朱里は、平常心を装いながらも、まっさきにこちらを見た。
バチッと目が合った瞬間、ドキンッと胸が高鳴って顔が赤くなる。
――やべぇ。
こんな感覚、今まで味わった事がない。
目が合った途端、ドッドッドッドッ……と鼓動が速まり、体温が上がっていく。
経験した事はないが、知識で分かる。これは典型的な恋の反応だ。
しかし他の社員がいる場所で見つめ合うなんてできないので、すぐに視線を逸らした。
だが体勢はそのままなので、視界に彼女の姿は映る。
だから朱里が少しの間、俺を見つめているのが分かってしまった。
『…………っ』
それを知った瞬間、額に汗が浮かび、呼吸が乱れ、――――股間が芯を持ってくる。
脳裏に蘇るのは、長年見守り続けた女をようやく抱けたあの悦び。
朱里はただの女じゃない。俺が何よりも大切にし続けた存在だ。
その大切な女を欲棒で貫き、蹂躙した興奮を思いだし、いてもたってもいられなくなる。
――結果、俺は我慢できなくなって会議室で朱里にキスをするという暴挙に出てしまったのだったのだ。
『駄目! …………です……っ』
キスしてしまったあと、朱里は全力で俺の胸板を押し返す。
――なんだよ。あの夜は悦んでいたくせに。
俺は興奮した目で朱里を睨み、濡れた唇をペロリと舐める。
『……っ、な、何なんですか! 先日から! 起きたらいないし、高額なジュエリーはあるし、くれるっていうし、受け取れないし、……何なの!』
朱里は相当混乱しているらしく、思いついたままに言葉を口にしたあと、自分の声量の大きさを気にするように出入り口を振り向いた。
そんな彼女を見て少し気の毒になった俺は、抑えが効かなかった自分に溜め息をつく。
『……勘弁してくださいよ……。一晩だけの遊びなら、もう放っておいて』
泣く寸前のような、困り切った姿を見ると、さすがに後悔した。
――悪い。そんな顔をさせるつもりじゃなかった。
そう言いたかったが、実際に口にすれば『何を今さら』と言われるだろう。
だから別の事を口にした。
『……お前、大きい声出せるんだな』
会社ではいつもクールなキャラを貫いていたから、こんなに感情的になった朱里を見たのは初めてとも言える。
それより前に、あの橋で死ぬと騒いでいた彼女を知っているわけだが、中村さんからの報告動画、篠宮ホールディングスに入社したあとの朱里は、大人びて落ち着きのある女性という印象が強かった。
だから〝俺のせいで〟こんなにも感情を乱す様子を見て、歪んだ喜びを得てしまった。
『はぁ? ……何ですかいきなり……』
朱里は俺が何を言っているか分からないという表情をし、溜め息をつく。
『……とにかく、ヴァンクリは受け取れませんから、誰か仲のいい女性にでもあげてくださいよ』
俺から少し距離をとって椅子に座った朱里は、前髪を掻き上げて言う。
『女友達なんていねぇよ。……妹からも拒否られたから、お前にやるって言ってるんだ。誕生日なんだろ? 誕生日でクリスマスも近いのに、元彼は結婚するわでズタボロになってるって言ってたじゃねぇか』
頼むよ、受け取ってくれ。
コメント
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ハイスペ超絶イケメンでありながら、恋にはすごく不器用な尊さん....😂💕 朱里ちゃん、早く彼の深すぎる愛情に気づいてあげて~!💓💓💓
朱里ちゃん❤️気付いてあげて~🤗
全細胞が朱里ちゃんを求めてるね♥️早くその想いが上手く伝わるといいね〜!