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ねこむすび
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空いた皿がいくつか重ねられ、テーブルの端へ寄せられていた。
最初に二皿ずつ頼んだ唐揚げと枝豆はほとんど残っていない。酢モツの器には汁だけが残り、ししゃもの皿には食べ終えた頭と骨が寄せられている。
さっきまで料理で埋まっていた中央には隙間ができ、四人分のグラスと灰皿、注文用のタブレット端末が目立つようになっていた。取り皿の上には使い終えた串が何本か重なり、おしぼりの袋も端へ押しやられている。
大輝は三杯目の生ビールを手元へ引き寄せた。
半分ほどまで減ったビールを一口飲む。ジョッキの外側についた水滴が指を伝い、手首の方へ冷たさが残った。
隣では真希が三杯目のハイボールを持ち上げていた。
グラスの中では溶け始めた氷が寄り合い、傾けるたびに残ったハイボールの中を滑っていく。
「ここまで笑ったのなんて久しぶりかも」
真希は一口飲んでからグラスを置き、美帆へこぼした。
口元はまだ緩んだままだった。
美帆は三杯目のレゲエパンチを手に取る。
「いやいや、あたしと飲む時だいたいこんな感じだよ」
「美帆の前だとそうだけど、普段飲む時って基本宅飲みでしょ」
真希はハイボールのグラスへ指を掛けたまま返した。
「あーね。真希普段飲みに行かんもんね」
美帆はレゲエパンチへ口をつける。
ストローの中を茶色い液体が上がり、残った氷がグラスの内側で転がった。
「そうそう」
真希が頷く。
大輝は端へ寄せられた枝豆の皿から、残っていた鞘を一つ取った。指で押すと豆が二つ転がり出る。
向かいでは陽斗がししゃもの皿を自分の方へ少し寄せていた。骨の脇に残っていた身を箸先で拾い、口へ運ぶ。
「宅飲みの時は何飲んでるんです?」
陽斗が咀嚼を終えてから真希へ顔を上げた。
「ハイボールかな。ビールは職場の歓送迎会の時くらいしか飲んでないかも」
真希は自分の前のグラスを少し持ち上げてみせる。
そのまま一口飲むと、グラスをタブレット端末の脇へ戻した。氷が重なって鳴り、薄くなった中身がしばらく揺れている。
「なんかうちらの宅飲みとかとエラい違いよな」
陽斗は箸を皿へ置き、大輝へ話を振った。
「ストゼロとチューハイばっかりだよな」
大輝は枝豆を口へ放り込みながら答えた。
陽斗も頷き、コーラのグラスを持ち上げる。底の氷が少なくなったグラスを一口傾け、テーブルへ戻した。
美帆はレゲエパンチを手元へ置き、ストローを指先で軽く動かしている。
真希はハイボールをもう一口飲んだ。
飲み始めた時より明らかに中身は減っていた。グラスを置いてから空いた料理の皿へ視線を落とし、残っていた枝豆を一つ摘む。
通路を誰かが通り、足音が戸の前を横切っていった。
灰皿には吸い殻が何本か重なり、灰が底へ散っている。
美帆はレゲエパンチから口を離すと、真希と大輝を順に見た。
「連絡先聞いといた方がいいんじゃない?」
真希が摘んでいた枝豆を皿へ戻し、美帆へ目を向ける。
それから隣の大輝へ顔を向けた。
「LINEでいいかな」
「いいっすよ」
大輝はデニムのポケットからスマートフォンを取り出した。
真希もハイボールの横に置いていたスマートフォンを手に取り、画面を点けた。
二人の画面がテーブルの中央へ並ぶ。
向かいでは陽斗が残っていたししゃもを箸で摘み、美帆はレゲエパンチを飲みながら二人の手元を見ていた。
ほどなく、大輝のLINEに真希のアカウントが追加された。
「とりあえず」
真希は自分のスマートフォンを片手で持ったまま、親指で画面を何度かタップした。
大輝の端末が短く震える。
トーク画面には、クロミが「よろしくね」と喋るスタンプが一つ届いていた。
「あざっす。クロミちゃん好きなんすか?」
大輝はスマートフォンを持ったまま真希を見る。
「うん。子供の頃かな、マイメロちゃんのアニメ観ててさ。クロミちゃんの方がずっといい子で可愛くて好きなんだよね」
真希は話しながらスマートフォンを伏せ、ハイボールの横へ戻した。
そのままグラスへ手を伸ばし、氷を揺らしてから一口飲む。
「アニメ化してたのは知らなかったっすね」
大輝はスマートフォンをジョッキの脇へ置いた。
「結構真希の部屋、割とクロミちゃんグッズ多いんよ」
美帆がレゲエパンチのストローを指で弄りながら口にした。
真希はグラスを持ったまま美帆を見る。
「Girlがまたサンリオとコラボしたスケボーの板出したら、在庫多めに取っとくっすわ」
「え、私スケボー乗った事ないよ?」
真希がグラスを置き、大輝を見る。
「乗らなくても絵柄可愛いからって買ってく人多いっすよ」
大輝はそう言って、ビールを一口飲んだ。
美帆が身を乗り出して口を挟んだ。
「そだね。あたしも乗らないけど、『鬼滅の刃』の板売られてた時にインテリアで善逸のデッキ買ったよ」
美帆はレゲエパンチを一口飲み、ストローから口を離した。
「ごちそうさまでした」
陽斗は箸を置き、食べ終えた皿をテーブルの端へ寄せる。
真希が向かいの美帆へ顔を向けた。
「買ってたね、そういえば」
真希はそう言って、ハイボールのグラスを持ち上げる。
陽斗は美帆へ視線を向けた。
「善逸推しだっけ?」
「ホントは炭治郎推しなんだけど、目の前のバカがセールだからって5枚くらい買い占めやがったの」
美帆はそう言って、大輝へ視線を向けてくる。
「あの時は結構遠征とかで板必要だったんすよ」
大輝は笑いながら答えた。
「花巻行った時だっけ? お前だけダンボール抱えてて、岩手勢に『これなに?』って散々イジられてたよな」
陽斗も笑いながら大輝を見る。
「スケボーしに花巻まで?」
真希が大輝へ尋ねる。
「マルカンデパートって古いデパートの地下にDepartmentっていうスケボーショップあるんすよ。高校の頃にそのショップの店長から『新幹線代出すから花巻来なよ』ってインスタで俺と陽斗にDM来て、な」
最後だけ向かいの陽斗へ話を振る。
真希はハイボールのグラスを手にしたまま、大輝を見る。
「結構スケボー上手いの?」
「腹立つくらい」
美帆が先に答えた。
大輝はすぐに美帆へ顔を向ける。
「褒める時に使うセリフじゃないんすけど」
「板買い占めた恨みがあるから」
陽斗も口を挟む。
「それ言えてる」
真希が笑い出した。
大輝は美帆、陽斗、真希と順に視線を動かす。
「え、俺今四面楚歌じゃね?」
真希はハイボールのグラスを置き、顔を横へ背けた。肩が小刻みに揺れ、堪えきれなかった笑いが喉の奥から漏れ出す。
「四面楚歌って、自分で言う?」
笑いの合間にそれだけ返すと、真希は伏せていたスマートフォンを手に取った。親指で画面を何度か叩く。
ジョッキの脇で、大輝のスマートフォンが短く震えた。
トーク画面に、笑っているクロミのスタンプが一つ増えていた。
コメント
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ああああさん、第6話読みました!居酒屋での和やかな雰囲気、すごく伝わってきました〜🍺 真希のクロミ好き、可愛いですね!スタンプの使い方とか、普段の性格がにじみ出てる感じがしました。「四面楚歌」って大輝が自分で言っちゃうとこ、思わず笑っちゃいましたw 会話のテンポがすごく自然で、4人の関係性がほんわか伝わってくるのが好きです。スケボーの話から昔の思い出話になる流れとか、飲み会あるあるでグッときました🔥