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◻︎神崎と秘書の秘密
約束の時間ピッタリに、お店に着いた。
中に入ったら、お連れさまがお待ちですと店員さんに案内される。
「こんばんは」
「やぁ、よく来てくれたね、待ってたよ。さぁ、こちらへ」
案内された席は個室になっていた。
神崎の横にもう1人、若い男性が控えていた。
「あの…」
「あぁ、紹介するね、こちらは、俺の秘書、丸山省吾だ」
「はぁ、はじめまして」
ぺこりと頭を下げると、秘書というその人も頭を下げた。
「では、社長、私は外で…」
「そうか、じゃ」
「えっ、ちょっと待ってください、丸山さん、せっかくですから一緒に食べましょうよ」
「いえ、それは…」
「そうだね、綾菜さんがこう仰ってるから、いいだろう」
「はぁ、社長がそうおっしゃるなら」
よかった、2人きりだと話しにくいから。
丸山省吾。
身長180くらい?
細身で、栗色の柔らかそうな髪に、ゆるくウェーブがかかっている。
年齢は30才にはなってないだろう。
陶器のような肌に、綺麗に整えられた眉、細く長い指。
最近テレビでよくみる韓国のアイドルのようだった。
「クスッ」
神崎が笑った。
「え?なんですか?」
「いやいや、綾菜さんも普通の女性だなと思いまして」
「え?」
「省吾に見惚れていましたよね?今」
「!そ、それは、当然ですよ、こんなに綺麗な男性と初めてお会いしましたから。どこかのアイドルかと思いますよ」
丸山にマジマジと見惚れていたことを見抜かれて、恥ずかしくなった。
「いいんですよ、それが普通の女性の反応だと思うから」
「さっきから、普通、普通とおっしゃいますけど、私はホントに普通の女です。なので、神崎さんの意図がわかりません。からかってらっしゃるんでしょうか?」
「からかう?何の話?」
「付き合って欲しいと言ったじゃないですか?」
「あれは本気で言った、からかってなんかいないんだが」
コンコンとノックの音がして、先に注文してあったらしいお肉とビールが運ばれてきた。
「さぁ、とりあえず乾杯しようか」
「いえ、私は車なので」
「ご心配なく、全部ノンアルコールですから」
乾杯!と軽くグラスを合わせた。
「乾杯じゃなくて!神崎さんは、私のことを何も知らないですよね?」
「それは綾菜さんも同じでは?」
「私は少しは知ってます。ネットでわかる範囲なら」
神崎のプライベートは知らない。
知る必要がないからと言いたかったけど。
「じゃあ、これは?」
そう言うと、隣に座らせていた省吾を引き寄せると、右手で省吾の頭を抱き寄せ、おもむろにキスをした。
「ぶっ!!」
突然のことに、飲みかけていたノンアルビールを吹き出した。
「なっ!こんなところで何を?」
「こんなところ?じゃあ、場所が違えばいいのかな?」
「それはご自由にどうぞ。私には関係ないですから」
「ほらね?」
「何がですか?」
「綾菜さんは、俺がこういうことをしても否定しない」
「否定はしませんよ、突然でびっくりしただけです」
たった今、神崎とキスをしていた見目麗しい省吾は、なにもなかったかのように、お肉を焼き始めていた。
「ていうか、お二人がそういうご関係ならなおのこと、何故私に付き合って欲しいとかおっしゃるんですか?」
「そうだね、順を追って説明しないといけないね」
省吾は、焼けたお肉を丁寧に神崎と私の皿に乗せてくれる。
「せっかくなので、食べながら話そうか」
「はい、あ、その前にひとつ、確認しておきたいことがあるのですが」
私は思い付いた疑問を神崎にぶつける。
「なにかな?」
「あの、お二人は、その、相思相愛ということでいいんでしょうか?神崎さんがその立場を利用して、その…丸山さんを自由にしてるとか、そんなことは…」
「ない。ここはそういう場所ではないので、こんな感じだけど、プライベートだともっと。ね?省吾」
焼肉をひっくり返していた省吾の動きが、ピクッと止まって軽くうなづいた。
その瞬間、省吾の顔が赤くなったことを、私は見逃さなかった。
___つまり、本気のカップル?恋人同士ということか
「それならいいです。なんかそういうパワハラみたいなものだったら、許せないなと思ったので」
「そうか、なるほど。信じてもらえてよかった、そこを理解していただいたうえで、お付き合いを申し込んでいるんだけど。正確には、お付き合いをしているフリをして欲しいと言えばいいかな」
「それ、どういうことなんですか?もしかして、お二人の関係を公表することがはばかられるから、その隠れ蓑とかですか?」
話しながらも、お肉がどんどん焼けてくる。
省吾さんも食べてくださいねと、すすめる。
「俺は、省吾とは、プライベートでも仕事の上でもかけがえのないパートナーとして、公表している。まぁ、中には訝しがる人もいるが。だから、結婚しないのも、だいたいの人は理解してくれている、だいたいの人は、だ」
「ということは、そのだいたいの人、以外の人が問題だということですか?」
「さすが、綾菜さんは、頭がきれるな。その通りだ。どんなに説明しても理解してくれない人がいる」
自分で想像してみた。
「ご両親とか?会社経営をなさってると、後継問題とかありますし」
「それもあった、が、そこはだんだんと理解を示してくれるようになった。それよりも問題なのは、女性だ。許嫁だった遠縁のお嬢さんなんだが」
神崎は、ごくごくとノンアルビールを飲み干し、店員を呼んでおかわりを告げる。
「この女性には、どんなに説明してもわかってもらえなくてね。俺に好きな女がいて、許嫁の自分を断るために省吾のことをでっち上げてると思い込んでしまってるんだよ。で、聞いたんだ、もし本当にそうだったらどうする?と」
「こたえは?」
「自分よりも上の女だったら、諦めると言った。だから、俺は綾菜さんにその女性のフリをしてもらおうと思った」
私のことを好きで、付き合って欲しいと言われたわけじゃないとわかって、がっかりしたのとホッとしたのと半々だった。