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暗い。
でも、どこか温かい。
「――おい」
声がする。
「また焦がしてんのかよ」
軽い声。
笑ってる。
「……」
振り返ろうとする。
でも、うまく動けない。
「ったく」
近づいてくる気配。
「見てねぇとすぐこれだ」
呆れたような声。
でも――優しい。
「……お前」
口を開く。
「……誰だよ」
問いかける。
すると。
少しだけ、間があって。
「は?」
笑う気配。
「何言ってんだよ」
すぐ近くまで来る。
「俺だろ」
――その瞬間。
「……っ!」
顔を見ようとする。
輪郭はある。
でも。
ぼやけてる。
どうしても、はっきりしない。
「……待て」
手を伸ばす。
「名前……」
そこまで言って――
「――ッ!!」
目が覚める。
「……っ、は……っ」
荒い呼吸。
暗い部屋。
城の天井。
「……夢、か」
額に手を当てる。
汗。
心臓が、やけにうるさい。
「……くそ」
あと少しだった。
確実に、近づいてる。
「……っ」
そのとき。
違和感。
「……?」
手が――
何かを、掴んでいる。
「……」
ゆっくりと、視線を落とす。
そこにあったのは――
ノスフェラトゥの腕。
「……は?」
一瞬、理解が追いつかない。
「……おい」
掴んでる。
しっかりと。
まるで――
離したくないみたいに。
「……」
ノスフェラトゥは、動かない。
だが。
起きている。
赤い瞳が、こちらを見ている。
静かに。
「……いつから」
かすれた声で聞く。
「……少し前だ」
短い返答。
「うなされていた」
「……」
目を逸らす。
「……悪ぃ」
小さく言う。
「……別に」
だが。
腕は――まだ掴まれている。
「……」
気づく。
自分の手。
無意識だった。
夢の中で、誰かに伸ばした手。
それが、そのまま――
「……」
ゆっくりと、離そうとする。
だが。
一瞬、迷う。
「……」
そのわずかな躊躇を。
ノスフェラトゥは見逃さない。
「……」
逆に。
ほんの少しだけ。
指が動く。
掴まれている側なのに。
わずかに、触れ返す。
「……っ」
気づいて、止まる。
ほんの一瞬の接触。
だが――
確かに、あった。
「……」
沈黙。
さっきの夢の余韻。
この距離。
全部が混ざる。
「……誰だ」
不意に、ノスフェラトゥが言う。
「……あ?」
「さっきの」
視線が、わずかに鋭くなる。
「呼んでいた」
「……」
言葉が詰まる。
確かに、呼ぼうとした。
でも。
「……分かんねぇよ」
正直に言う。
「顔も、名前も」
拳を軽く握る。
「でも」
少しだけ、息を吐く。
「大事だったのは、確かだ」
はっきりと。
迷いなく。
「……」
その言葉で。
空気が、わずかに張る。
「……」
ノスフェラトゥは、何も言わない。
だが。
視線は逸らさない。
「……」
やがて。
ゆっくりと、腕を引く。
今度は、自然に離れる。
「……寝ろ」
短く言う。
「……あぁ」
小さく返す。
だが。
すぐには目を閉じない。
「……」
さっきの夢。
掴んだ手。
触れ返された感触。
全部が、頭に残っている。
「……」
横目で見る。
ノスフェラトゥは、いつもの位置に戻っている。
距離はある。
でも。
完全には遠くない。
「……」
静かに、目を閉じる。
今度は――
少しだけ、安心して。