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「あっ……あの、貴仁さん……」
うるさいくらいに早まる心音を聴かれてしまうのではと、振り返ることさえできないまま背後の彼へ声をかけると、
「うん? なんだ?」と、肩に顎が乗りそうなくらい目近に顔が寄せられ、低く抑えられた声とともに薄く吐息が吹きかかり、
それこそ心臓が破裂しそうにもなった。
「そ、その……そう、さっきの源治さんのお話だと、確か貿易商だったお祖父さまがよく海外へ行かれていたって。えーっと、だからそれで、洋書も多かったりするんですか?」
体温すら感じられる程の密着度に、高ぶる気持ちを少しでも落ち着かせられたらと、頭に浮かんだことをとりとめもなしに彼に問いかけた。
「ああ、それもあるかもしれないな。祖父は仕事の傍らよく船で諸外国へ渡航をしていたようだから。君へ贈った指輪もそうだったように、海外で買い付けた本も少なくはないと思う」
「やっぱり、そうですよね」と、頷いた後で、「だから、この家も洋風な雰囲気で……」と、初めて久我邸を見た時の感嘆を思い浮かべて話した。
「うん、ただ祖父が住んでいたのは、ここではないんだ。この邸は父が建てたんだが、父自身も祖父のお陰で外国への造詣も相当あっただろうし、その祖父も早くに海難事故で亡くなったそうだから、そういう意味でもこういう洋風建築にしたところはあったんだろう……」
「それで……」と、合点がいく。
「源じいも、自身が話していたように元々は祖父の家に雇われたんだが、父がここを建てた時に、気心の知れた者に、引き続き執事を依頼したと聞かされていたからな」
彼が感慨深いようにも口にして、
「きっと父にとっても、古くからそばにいる源じいは、やはり家族のようだったんだろうな」
ふわりと笑みを浮かべ、そう物柔らかに語ると、
「今は君も、私のかけがえのない家族だ」
そばにいる温もりを確かめるように、私に頬をふっと擦り寄せた。