「ちょっと開けて見て来る。こんなに押されたら、近所に不振がられる」
もう一度優人が玄関に向かった。
しばらくすると<ガンッ>っと音がした。
「ちょっと!あんた!桜のこと、どうしたの!」
この声――。遥さん!?
遥さんの大きな怒鳴り声が聞こえた。
どうして!?ここに遥さんが!?
遥さんがここに来た理由がわからなかった。
いや、そんなこと考えている場合じゃない。
助けて、遥さん!!
「んんんん゛ああ゛!」
必死に声を出す。
お願い、気付いて。
「カギ、開けなさいよ!」
内鍵がかかっているらしい。
遥さんは室内に入って来れない様子だった。
「足退けて下さいよ?ケガしますよ。桜はここにはいません。帰ってください」
優人が玄関先で対応をしている。
男性二人は私の近くにいて、声を出さない。
様子を伺っているみたいだった。
「嘘よ!私、見たの!あんたがタクシーに桜を乗せるところ。ここにいるんでしょ?」
遥さんの声は大きいため聞こえてきたが、優人がなんて返事をしているか、うっすらしか聞こえて来ない。
ここにはいないと伝えているようだった。
耳を澄ましていると、優人の息遣いが聞こえてきた。
「はぁ。あの女、なかなか諦めなくてドア壊れるかと思った。とりあえず、無理やりドア締めてここにはいないって追い返したけど……」
ドアを叩く音が聞こえて来なかった。
チャイムの音も。
「おい、やばいんじゃねーの?お前、この子連れて来るの見られてんじゃん。どうすんの?」
優人はふぅと息を吐き
「桜《こいつ》が自分の意思でここに来たって言わせる。おい桜、もしこのことバラしたら、家族とか会社に今回の動画送りつけるから。わかった?」
これから酷いことをされると予想できた。
家族とか会社になんて送りつけられたら――。
私が警察に通報すればいいんだよね?
そうしたら優人は捕まる。
でもその前に大切な人たちに映像が拡散されちゃう。
そんなのは嫌だ。蒼さんに見られたくない。
「おい、わかったかって聞いてるんだよ!」
首を縦に振らない私にしびれを切らしたのか、優人が声を大きくした。
絶対に返事なんてしないんだから。
私が態度を変えずにいると
「おい、早く済ませろ。とっとと脱がせて、動画撮っちゃおうぜ」
カメラを回している男が慌てていた。
「こんなはずじゃなかったのに!」
投げやりになりながらも、私に触れていた男がもう一度近付く。
ブラウスのボタンを外している。
「うう゛!」
左右に動いて抵抗するも、うまく動けない。
幸せな日が続き過ぎたんだ。罰が当たったんだ。
自分の愚かさに後悔をする。
蒼さん、遥さん、本当にごめんなさい。
こんな女、蒼さんだっていい加減愛想がつくよね。
正直に蒼さんに相談していれば良かった、嘘なんかつくから。
後悔しても、もう遅いよね。
私の下着が露になったその時――。
<ガシャン!!>
ガラスが割れる音がした。
優人と男二人が音のした後方を振り返った。
「桜から離れろ」
その声――。
蒼さん!?
「おいっ!不法侵入だぞ!ガラスだって割りやがって!」
優人が怒鳴るも驚きからか声は震えていた。
「お前らのやっていることの方が問題だろうが」
蒼さんが近づいてくると、男性二人は
「こいつが首謀者です。俺たちは関係ないんで」
そう言って逃げるように部屋から出て行き、玄関の扉が開く音がした。
「クソッ!!もうどうにでもなれ!!」
優人が蒼さんに殴り掛かろうとした。
が――。
蒼さんは優人の右腕を掴み、拳を止め、鳩尾に蹴りを入れた。
「あ゛あ゛……」
優人が膝から崩れ落ち、痛みに悶えている。
「桜!大丈夫か!?」
蒼さんは優人を止めた後、すぐさま私に駈け寄り、口を塞いでいたタオルと結束バンドを外してくれた。
「ケガしてない?痛いところは?」
蒼さんは私を抱き起こしながら心配してくれた。
「蒼さん!本当にごめんなさい!いつもいつも迷惑ばっかりっ!!」
蒼さんが来てくれた安心感からか感情が溢れ出す。
叫ぶようにして謝り、涙が止まらなかった。
「もう大丈夫だから。怖かったよな」
ギュッと抱きしめて、落ち着いてと肩をポンポンと優しく叩いてくれる。
「ごめんなさいっ!!ごめんなさい……」
私は謝るしか出来なかった。
しばらくしてパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「姉ちゃん、通報したのか」
そう蒼さんがポツリ呟いた。
「桜。事情、話せるか?」
「はい」
その後――。
優人は駆け付けた警察官により警察署に連れて行かれた。
最後は何も抵抗せず、脱力していた。
コメント
1件
蒼さんの、登場かっこいい!!✨