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15 - 第十五話「名前の意味」

2025年07月25日

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深層――


闇ないこが静かに“ないこの一部”へと戻った後。

空間はゆっくりと収束し、白と黒の霧がやさしく混ざり合っていく。


ないこは静かに目を閉じて、胸に手をあてる。


――全部が、繋がった。

過去の痛み、声を失った理由、そして闇として分かたれた自分。

それを受け入れた今、残された問いが一つだけあった。


ないこ: ……僕の名前って、なんだったんだろう。


冬心と累がそっと現れる。

二人とも、もう“過去の記憶”ではない。“今”のないこを見守る存在として、そこにいる。


冬心(静かに): 君がこの世界で“ないこ”と名乗ったのは、偶然だったんだよね。


ないこ(目を伏せながら): ……うん。


***


映像が広がる。


――まだ、活動も何もしていなかった頃。

初めての、たった一人の無名配信。

顔も出さず、名前もなく、ただ画面に表示される「名無しさん」の状態で、震える声でマイクをオンにした。


???(コメント): 誰?

???(コメント): 名前ないの?

???(コメント): 名前ない子ちゃんかwww


その時、画面に流れたコメント。


> 「名前ないこちゃんかw」




ないこ(回想の声): ……うん、それでいいや。

僕には、名前なんて……まだ、いらないから。


そうして、表示名を変えた――「ないこ」。


誰も知らない自分。

誰にも必要とされない自分。

それでも、誰かに呼ばれる“音”が欲しかった。


だから、“ない”から始まった。


***


現在の深層。


ないこ: あのとき、傷つかなかったって言えば、嘘になる。

でも、“誰かが僕を呼んだ”ことが嬉しかったんだ。

名前を持たない僕に、初めて誰かが気づいてくれたから。


累(やさしく): その時、君は自分を“定義”したんだね。

「ない」っていう仮の姿で、それでも“ここにいる”って。


冬心: でも今の君には、“ないこ”って名前が“空っぽ”じゃなくて、

“君そのもの”になってる。


ないこ(微笑む): うん。

「何もない」って名乗ってたけど、本当は……

僕の中には、いっぱい詰まってたんだ。

怖さも、希望も、痛みも、優しさも、全部。


累: そう。だから君はもう“名無し”なんかじゃない。


冬心: “ないこ”は、空白じゃなくて――

“無数の想い”が詰まった名前だよ。


ないこは、そっと目を閉じて、小さく呟いた。


ないこ: 「ないこ」って名前、好きになってもいいかな。


累: 僕はもう、大好きだよ。


冬心(微笑んで): そして――この名前で、君はまだこれから“誰か”に出会っていく。


***


現実世界。


配信ソフトの前で、ゆっくりと目を開けたないこ。

ふと、昔のアーカイブを再生する。

一番最初の、名前も何もなかった、たった数分の初配信。


スピーカーから、自分の震える声が流れる。


> 「あ……はじめまして……えっと、名前は……ないです……はい……」




> 「じゃあ……ないこ、で……」




ないこは小さく笑った。


ないこ(小声で): おかえり、“最初の僕”。


次回:「第十六話:再起動」へ続く

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