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深層――
光と影がやわらかく交わる空間に、穏やかな風が流れる。
“ないこ”は、自分の名前、自分の心、自分の傷。
すべてを見つめ直したその目で、前を見据えていた。
ないこ: ここから先は……僕の“選択”で進む。
冬心と累が静かに頷く。
冬心: 君は、“ここ”に来た時よりも強くなった。
もう、闇にのまれることはない。
累: でも、“外の世界”はまだ変わっていないよ。
君を必要とする声もあれば、君を壊そうとする声もある。
ないこ(真っ直ぐ見て): それでも……
もう“戻らない”選択をするほうが、怖いから。
ないこが手を伸ばすと、深層の空間に“もう一つの扉”が現れた。
それは今までの記憶とは違い、淡い金色に光っている。
累: それが“現実世界”との接続点。
ただし、完全に戻るには、もう一つだけ“鍵”が必要。
ないこ(小声で): 鍵……?
冬心: それは、“今も君を見てくれている誰か”の“心”。
ないこ: 僕を……見てる?
累: そう、君がいなかった“この間”にも、誰かは“君の存在”を忘れていない。
冬心: 君が声を閉じても、姿を消しても、
“忘れなかった”人間が、必ずいる。
その瞬間、深層に微かな“音”が響いた。
──ピコン。
小さな通知音のようなその音。
ないこ: ……なに?
冬心(静かに笑って): 君のことを、“探してる声”だよ。
*
現実世界――
とある部屋。
そこにいたのは、“いむ”。
モニターの前で、かすれた声を絞り出していた。
いむ(独り言のように): ……ないこくん、どこにいるの……。
ほんの一瞬でも……戻ってきてよ。
その声は、何気ないささやきだった。
だが、それが“ないこ”の深層に届く。
*
深層。
扉の鍵が、かすかに“光った”。
ないこ(はっとして): これって……
累(微笑んで): そう。
“君を待ってる声”が、確かに届いた。
冬心: 準備は、整ったみたいだね。
ないこはもう一度、深く息を吸い――
ないこ: 行くよ。今度は、“ちゃんと自分の声で”。
金の扉に手をかける。その瞬間、まばゆい光が世界を包んだ。
*
次にないこが目を開けたとき、
そこは――久しぶりの、現実世界だった。
けれど、まだ声は出ない。
身体も重い。
それでも、ないこは一歩を踏み出す。
ないこ(心の声): これはまだ“再起動”。
ゼロからじゃない。
今度こそ、“僕として”、歩いていく。
*
その頃。
いれいすメンバーの間にも、“何かが戻ってきた”感覚が走っていた。
初兎: ……今、ないこの声、聞こえた気がした。
りうら: ……気のせいじゃない。
俺も、何かが“動き始めた”気がする。
いふ、悠佑もまた、無言で頷いた。
彼らの心のどこかで、“大切な欠片”が震えていた。
次回:「第十七話:壊れた時間と、動き出す音」へ続く