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朝の静けさの中で、俺はふと目を覚ました。胸いっぱいに広がる、いつもとは違う匂い。――甘くて、落ち着く、それでいて胸の奥をざわつかせる匂いだった。
「……なんだ、これ」
自分から漂っていると気づいた瞬間、隣で寝返りを打ったまろが小さく息を呑む。
「……ないこ」
掠れた声。
まろはΩだ。普段なら俺の匂いにここまで反応することはない。なのに、今朝は違った。まろの視線が、無意識に俺を追っているのが分かる。
「ちょ、まろ? 大丈夫か」
「大丈夫ちゃう……」
まろは顔を背けようとしながらも、身体が言うことを聞かないようで、距離が縮まる。
「匂い……強すぎるんや。ないこ」
俺は息を整え、まろの肩にそっと手を置いた。
「落ち着け。深呼吸しろ。俺が抑える」
活動上、俺たちは“ただのメンバー”だ。
この関係は、誰にも知られていない。だからこそ、こんな不測の事態は致命的だった。
そのとき、ドアの向こうから声がした。
「おはよう、ないくん」
りうらの明るい声に、まろがびくりと肩を跳ねる。
「ないちゃん、今日ちょっと顔色悪くない?」
続いて、いむの心配そうな声。
「……なんか空気ちゃうな?」
初兎の関西弁が混じる。
俺は一歩前に出て、ドア越しに答えた。
「俺、体調悪い。今日は少し休む」
「無理すんなよ、ないこ」
あにきの低い声が、静かに釘を刺す。
足音が遠ざかったのを確認して、俺はまろを抱え込むようにしてソファへ座らせた。
「大丈夫だ。俺がいる」
まろは小さく頷き、俺の服を掴む。
「……頼むわ、ないこ」
匂いはまだ消えない。
けれど、互いを想う気持ちがある限り、理性はつなぎ止められる。
俺はそう信じて、まろの背中を静かに撫で続けた。
――この関係を、守るために。