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「水ですよ、水が~!!」
「落ち着け、これでいいんだ。この水とともに移動するんだからな」
「はぇっ?」
半信半疑ではあるが、属性魔法使用でテレポートが出来るなら安いものだ。どこにたどり着くかは不明だが水に関係する場所ならラクルかレザンスくらいだろう。
そう思っていたが……。
◇◇
「どこかに移動して来たなの!? で、でもでも……」
「あひゃあああぁぁ!? アック様、このままではずぶ濡れになってしまいますよ~!!」
「こ、こら、しがみつくな! おれが発動した水属性では濡れることがないから――」
「大変なのだ! 沈んでしまうのだ!! アック、海みたいに大きくて広いのだ!」
「……海?」
ルティのしがみつきとシーニャの慌てっぷりを落ち着かせようとした。だが、移動して来た先は水面の上にあった。属性魔法テレポートが使えるスキルが不完全なようで、おれたちは足がつきそうもない海に漂流している。
ルティにせよおれにせよ溺れることは無いが、こうも暴れられれば沈んでしまいかねない。
「ウニャニャ……!? 波が襲ってくるのだ!! 嫌なのだ嫌なのだ!!」
「シーニャ、波は敵じゃない。落ち着いておれに捕まっているんだ」
「フ、フニャ」
神の悪戯《わるさ》かどうか分からないが、素直に移動させてはくれなかった。彼女たちを落ち着かせつつ水面を見渡してみると、ボートのようなものが見える。
もしかすれば村が近くにあるかもしれない。そう思いながら、犬掻きでそこに向かうことにした。ルティとシーニャが大人しくなってくれたので、何とか岸にたどり着く。
「おや? こんな湖で泳ぐとは、珍しい」
ボートの持ち主らしき人が声をかけて来た。
返事を返そう、そう思っていたのに。
「はうぅぅ……アック様~」
「早く乾かしてどこかに行きたいのだ……」
ルティとシーニャが震えているので、何となく身構えることに。二人とも珍しく顔を赤らめてうつむいていて、フィーサだけが沈黙を保っているようだ。
「え~と、ここはどこですか?」
何事もなかったかのように振る舞っておく。ずぶ濡れ自体は魔法で何とか出来るが、まずは現状を知っておく必要があるからだ。
「……その前に、これをお使いなさい」
穏やかそうな初老の男が乾いた布をまとめて手渡してくれる。ルティたちに布をかぶせてやったものの、無言のままのルティたちは急に顔を隠しだす。
久しぶりの人間に恥ずかしくなったか?
「すみません。おれはラクルの人間で、アック・イスティと言います。ここはどこですか?」
「ラクル……ふむ。ここは南アファーデ湖村。ラクルからだとそう遠くも無い所だ」
「……どれくらいの距離ですか?」
「歩けば三日。馬なら……まぁ、馬は今出払っているんだがね。しかしラクルは今……」
「……え?」
何やら気になることを言おうとしているが。
ともかく、おれたちはどうやら孤島であるヘリアディオスの海向こうの村に漂着したらしい。神族の国からほど近い所のようだ。
「疲れ切った顔をされているようだし、村で休んで行きなされ」
「は、はぁ……」
「なに、何も無い村だが獣人もドワーフも気にはならんよ」
「助かります」
あまり気にしていなかったが、シーニャは獣人、ルティはドワーフだ。見知らぬ村や町で受け入れてくれるかを考えていなかった。ただ、この村はそんなに大きく無さそうだし気にしてもいないように思える。
そういう意味では助かった。
おれたちはそのまま小さな宿に案内された。彼女たちをひとまずそこで休ませ、おれとフィーサは村の人たちの話を聞くことにした。
「――なるほど。南と東にそれぞれ同じ名の湖村があるんですか」
「そうなんですよ。確かにここは天に近い湖村と言われてますが、神の国は本当にあるんですかねぇ」
あったけど決していい所では無かったな。
「あぁ、アックさん。何も無い湖村ではあるが、落ち着くまで一仕事を頼まれてみないかな?」
「仕事……ですか?」
「いやいや、難しいものではなく軽い依頼なんだがね」
「そういうことならやりますよ!」
闇の気配どころか何も危険な感じを受けない。どうやらここは普通の湖村のようだ。ルティたちが回復するまで、とりあえず依頼をこなしておくことにしよう。