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住吉は立ち上がって俺の母ちゃんに一礼し大声で叫んだ。
「分かりました! 任せといて下さい」
俺はそのすきに絹子のそばに寄り、思いっきりほっぺたをつねってやった。
「この野郎! あれほど言ったのに! 相手は幽霊で殺人鬼なんだぞ」
「痛い、痛いってば……ああん、ごめん、でも……あたしだけ何もしないで見てるわけにもいかないでしょ。だから、つい……」
「ああ、分かった。けど、住吉たちはともかく、おまえはこのまま家に帰れ。おまえじゃ助っ人にはならないし、それに危険すぎる。いいな!」
というわけで住吉の不良グループが隆平の家の周りを見張る事になり、絹子は家に帰らせた。ま、確かに純の幽霊がどの方角から現れるか分からないから、見張りの人数は多いに越した事はない。
やがて日が暮れて辺りが暗くなった。街灯とかがあるから真っ暗闇というわけではないが、幽霊の出現を待っている身には不気味な時間だ。その間する事もないので、美紅に双眼鏡で外を見張らせながら、俺は母ちゃんとこんな話をしていた。
「なあ、母さん。俺にはどうしても納得できない点があるんだけど」
「何? 今回の事で?」
「ああ。純の幽霊はなんで今頃になって復讐を始めたんだろう? あいつが死んだのは俺たちが小六の時だから、化けて出てくるなら、すぐに現れてもよかったはずなんじゃないか? そこんとこ専門家としてはどう思う?」
「それは……実はあたしも疑問だったのよ。純君が死んだのが小六の二学期だから、まあ三年近くよね。何か準備の時間がそれだけ必要だった……そうも考えられるけど、さすがに宗教民俗学でも死後の世界の事は分からないしね」
「あとさ、今回の件を純の両親はどう思ってるんだろう? もしかして親が説得したら復讐をやめて成仏してくれるって可能性はない?」
母ちゃんは少し言い淀んだが、意を決したように口を開いた。
「あんたは知らなかったのね。純君もうちと同じ母子家庭だったのよ。というより、シングルマザーね。お父さんは正式に結婚する前に、交通事故で亡くなっていたと聞いたわ。で、お母さんの方は純君のお葬式の直後に行方不明になってしまったの。一人息子の死がよほどショックだったんでしょうね」
「そうなの?……そうか、じゃあ純の親には連絡を取りようがないわけか」
また美紅がアッと小さく声を上げた。さっきの事があったから俺はあまり驚かず、今度は一体何だ?と思ったら……美紅がそのまま窓から飛び降りた!
「げっ! 美紅!」
そう叫んで俺と母ちゃんは窓に飛びつく。美紅はセーラー服のスカートをはためかせながら二階の窓からひらりと地面に着地し、街灯の下に座っている住吉の子分の一人に駆け寄る。そして俺たちを見上げて叫んだ。
「お母さん、ニーニ! 来て! 早く!」
今度はただ事じゃないのか? 俺と母ちゃんは美紅の靴を持って階段を駆け下り家の外へ飛び出した。美紅の所へ走り寄ると、住吉の子分の様子が変なのに俺たちも気づいた。意識がない。と言っても眠っているようなんだが、体を揺さぶっても頬をはたいても全く起きる気配がない。
俺は住吉に知らせようと隆平の家の周りにいる連中の所へ走った。だが、全員が同じように死んだように眠り込んでいる。住吉自身もそうだった。
ふと見ると、住吉の近くにある電柱に紙が貼り付けてありその上に奇妙な模様が墨で書かれていた。俺に呼ばれてそこへ来た母ちゃんが驚いた声を上げた。
「これは梵字じゃないの? まさか……結界?」
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