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ケッカイ? 何だ、そりゃ? とにかく隆平の家の周りだけが何か奇妙な空間に捉われているような感じがする。住吉と子分連中全員がその奇妙な力で眠り込まされているようだ。ユタの素質がある母ちゃんと美紅、それに美紅の霊的な力で守られている俺、この三人だけがその影響を受けずに済んでいるらしい。
まさか純の幽霊が既に現れているのか?だとしたら……
ガチャーンという派手な音が隆平の家の庭の方から聞こえてきた。ガラスが割れた音のようだ。俺たち三人はすぐに隆平の家の門をくぐって中に飛び込む。そこで俺たちはさらに奇妙な物を見た。
それは頭からつま先まですっぽり白い布をかぶった人影だった。どんな姿なのかは隠れて見えない。そして両腕で布にくるんだ何かを抱えている。それは……小さな子供の骸骨だった!
隆平の家のリビングの窓ガラスが一面割れていて、隆平が庭に倒れている。その人影は俺たちと隆平の間に立ちふさがるようにして俺たちに背を向け、布の中で右手が上に動いた。
そこで俺はまた信じられない光景を見た。地面に倒れている隆平の体がスーっと中に浮き上がり、両腕が体の真横にまっすぐに広げられる。そしてその体の全体に何かガラスのような光る物が張り付いて行く。やがてそれは隆平の全身をびっしりと覆い、十字架の形になった。隆平の体はその透明な物体の中に閉じ込められて、まるでキリストのように十字架に架けられた状態になった。しかもその十字架の底の部分はほんの十センチほどだが、中に浮かんでいる。
間違いない! 悟を殺したあの殺人鬼だ。じゃあ、これが純の幽霊になった姿なのか? 俺は母ちゃんや美紅が止まる暇もなく、その人影の横を突っ切って隆平の所へ走り寄った。そしてその透明な十字架に手を触れて初めて気付いた。
これは氷じゃないか! そんな馬鹿な! 今は七月、夏だぞ。人間一人をそのまま磔の格好で閉じ込めるほどの氷がなぜ存在できるんだ? 間違いない、こんな事は人間業じゃできない、できるはずがない!
俺は近くにガーデニング用の大型のスコップがあるのを見つけ、それを手にして隆平の体を覆っている氷の十字架を力任せにぶったたいた。隆平は意識があり、小さな声で「助けて……助けて……」とつぶやいている。唇が紫色になっていて顔にも血の気がない。凍死寸前みたいな様子だ。早くこの氷を割って出してやらないと。
だがその頑丈そうなスコップを何度叩きつけても、その氷の十字架にはひび一つすら入らなかった。俺は振り向き、例の人影とにらみ合っている美紅に向かって叫んだ。
「美紅! 火を出してくれ! これは氷なんだ。だから……」
俺が最後まで言う前に美紅は事態を理解したようだ。「ヒルカン!」と叫んで右手から火の玉を三つ連続して飛ばした。火の玉は隆平を閉じ込めている氷の十字架の底の辺りに一斉に激突する。
俺はそのあたりをめがけて力いっぱいスコップをたたきつけた。氷なら火で融けるはずだ。そのもろくなった部分を叩き続ければ……だが美紅の放った火でほんの少し融けかかった氷は見る見るうちに元に戻ってしまった。
悟の時と同じだ。水の中でも消えない炎。そして火に融けない氷。この世にあるはずがない物……だめだ! このままじゃ隆平が死んでしまう。くそう!どうすりゃいいんだ!
助けを求めて後ろを向くと、美紅が例の人影とすぐ近くで対峙していた。だが、美紅と純の幽霊は既に戦いを始めていた。俺を手助けするどころじゃなさそうだ。
まず美紅が例の火の玉を飛ばす。だが、今回は相手が片手を横に軽く振っただけで弾き飛ばされてしまう。美紅は両手の平を一旦合わせ「マジャバニ!」と叫んで光の羽のような物を相手に投げかける。よし、悟の時に相手が逃げ出した技だ。
だが、純の幽霊は十を超える光の羽が突き刺さるように自分に当たっても身動き一つしなかった。全身を白い大きな布で覆っているから様子が分からないが、今回は全然ダメージを受けていないように見える。
そして純の幽霊の手から、小さな紙切れが四枚飛び出して美紅を取り囲むように四方の宙に浮いた。その紙切れがボウっと青白い光を発して、その光が何かの形に変化していく。