テラーノベル
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橙×水
会議室の空気は、いつも通り少しだけ張り詰めていた。次のライブの演出について、メンバー全員が真剣な表情で資料を見つめている。
🐤「……だから、ここはやっぱり、ファンとの距離を縮めるために——」
りうらの言葉が、途中でぷつりと途切れた。
🐤「ん……?」
違和感があった。隣に座っていたほとけの様子がおかしい。
先ほどまで、あぐねたように自分の指先を弄んでいたはずの彼が、今はまるで糸が切れた操り人形のように、がくんと首を垂れている。
🐰「……いむくん?」
一番近くに座っていたしょうが、心配そうにその肩を叩いた。
返事はない。ただ、肩が不自然に大きく上下している。
🍣「いむ、聞こえてる? 気分でも悪いんか?」
リーダーのないこが声をかけ、会議が中断した。全員の視線がほとけに集まる。
次の瞬間、ゆっくりと、ほとけの顔が上がった。
その表情を見て、六人の息が止まった。
先ほどまでの、少し困ったような、愛嬌のあるほとけの顔ではない。
瞳の奥から温度が消え去り、射抜くような冷徹な視線が、部屋の中を鋭く見回した。彼は立ち上がり、椅子の背もたれを乱暴に掴む。
💎「……ここ、どこ。お前ら、誰?」
その声は、ほとけのものと酷似しているようで、決定的に違った。低く、冷たく、威圧的だ。
🐰「え……いむくん……?」
冗談だと思った。いつものドッキリ企画の一環だと。
だが、その場の全員が直感した。これは、違う。
部屋に流れる空気が、殺気立つほどの緊張感に支配される。
💎「あ……」
不意に、その冷徹な表情がほとけの顔へ戻った。
瞬きの間に、彼は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
💎「っ……あ、あれ……? みんな……?」
彼が顔を上げた時、その瞳は恐怖に揺れていた。
目の前に並ぶメンバーの顔を、まるで獲物を見るかのように怯えた目で追いかける。
💎「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……ちがう、ぼく、なにも……!」
過呼吸気味に荒い息を吐きながら、彼は後ずさりして壁に背を打ち付けた。
今まで自分の中にいた
「別の誰か」
が出てきてしまったこと。
そして、その秘密をメンバーに知られてしまったという事実が、彼をパニックのどん底へ突き落とす。
💎「ぼく、ぼくは……!」
取り繕う言葉も出てこない。
ほとけの視界が、メンバーの驚きに満ちた顔で埋め尽くされていく。
逃げ場のない会議室で、彼の震えは止まらなかった。
🍣「……いむ、落ち着け。何があったん?」
ないこが慎重に一歩踏み出す。
その問いかけすら、今のほとけには自分を責める刃のように響いているようだった。
ほとけは必死に、震える手で自分の頭を抱え込んだ。
恐怖で視界が歪む。心臓の音がうるさいほど耳元で鳴り響いている。
(隠さなきゃ、バレたら、ぼくは……)
💎「ち、ちがうの……今のは、ただの……ちょっと、疲れてて……!」
絞り出すような声で、彼は精一杯の笑顔を作ろうとした。だが、その口元は引きつり、瞳には隠しきれない絶望と恐怖が滲んでいる。
💎「疲れてただけ……。ちょっと意識が飛んだだけで、ほら、もう大丈夫だから。みんな、会議、続けよ……? ごめんね、びっくりさせちゃって……」
震える足で立ち上がり、何食わぬ顔で席に戻ろうとする。
しかし、その足取りはふらついていて、椅子に座ることもままならない。
メンバーの視線が突き刺さる。彼らが抱いているのは、怒りではなく困惑と、それ以上に重い「懸念」だった。
🍣「……いむ、座れ」
ないこが低く、しかし優しい声で制した。
🍣「今のは、疲れとるとか、そういうレベルじゃないやろ。俺らは……いや、俺はお前が何者かなんて関係なくて、いむのことが心配なんよ」
💎「ちがう! 違うよ!」
ほとけが叫ぶ。その声は、自分自身の言葉を否定するように裏返った。
💎「ぼくは普通だよ! ほとけだよ! みんなの知ってるほとけだよ……お願いだから、これ以上聞かないで。何もなかったことにしてよ……っ!」
彼は再び壁際にうずくまり、耳を塞いだ。
「別の誰か」
がまた出てきてしまうかもしれないという恐怖。
それを誰にも知られたくないという、切実なまでの防衛本能。
💎「お願い……普通にいさせて。みんなと一緒にいさせて……」
泣き言のように繰り返すほとけの背中は、いつもよりずっと小さく見えた。
メンバーの誰も、その先を責めることができない。
会議室には、重苦しい沈黙と、ほとけの消え入るような嗚咽だけが響き続けていた。
ほとけがうずくまり、懸命に現実へしがみつこうとしている、その時だった。
💎「……ッ、ははっ」
低く、乾いた笑い声が、冷たい空気の中に混じった。
耳を塞いでいたはずのほとけの手が、力が抜けたようにすとんと下へと落ちる。
先ほどまで、あんなにも怯え、震えていた背中が、まるで嘘のようにピンと伸びた。
ゆっくりと顔を上げたその瞳からは、先ほどまでの恐怖も、愛らしいほとけの面影も、完全に消え失せていた。
💎「……あーあ。さっきから『ぼく』がうるさいから、出てきちゃった」
悪戯っぽく口角を上げ、彼は無造作に乱れた髪をかき上げる。
その仕草ひとつ、視線の据わり方ひとつが、先ほどまでのほとけとは別人のものだった。
会議室の空気が、さらに張り詰める。
メンバーたちは息を呑み、言葉を失ったまま、その変化をただ見守るしかなかった。
彼――今この身体を操っている『それ』は、そんなメンバーの反応を愉快そうに眺め、あぐらをかいて椅子の背もたれに体重を預ける。
💎「そんなに固まるなよ。俺はただ、あいつの代わりに顔を出しただけだ。……ったく、大事な会議の途中にメソメソ泣きやがって。見ててイライラするんだよ」
その物言いがあまりに「ほとけ」からかけ離れていて、メンバーたちは混乱を隠せない。
りうらが震える声で名前を呼んだ。
🐤「……ほとけっち、……?」
呼ばれたその瞳が、りうらを冷たく射抜く。
💎「ほとけ? ああ、あの泣き虫のことか。悪いが、あいつは今、奥の方で寝てるよ。……さて、続きをやるんだろ? 効率悪い会議は嫌いなんだ。とっとと終わらせてくれ」
不敵な笑みを浮かべたまま、彼はメンバーを見回す。
その姿は、ほとけの皮を被った全くの他人。
誰一人として、次の一言を発することができなかった。
💎「……あ、れ……?」
会議室の空気が、再び歪んだ。
椅子にふんぞり返り、不敵な笑みを浮かべていたはずの瞳が、一瞬だけ大きく見開かれる。
頭を殴られたような強い衝撃に、その身体が激しく揺れた。
💎「うっ……あぁっ……!」
彼は苦悶の声を漏らし、先ほどまで
「別の誰か」
が座っていた姿勢のまま、頭を抱えて前屈みになる。
全身から冷や汗が吹き出し、指先がひどく震えている。
数秒の空白の後。
勢いよく顔を上げた彼の瞳には、先ほどまでの冷徹な光は微塵も残っていなかった。
💎「……みんな……?」
そこには、状況を全く理解できていない——いや、理解したくないというべきか。
いつもの、愛らしくて、少しだけ怯えたような、俺らが知る「ほとけ」が戻っていた。
彼は周囲を見回した。
りうらが強張った顔で立ち尽くし、ないこや他のメンバーたちが、言葉を飲み込んで固まっている。
そのただならぬ空気を察した瞬間、彼の表情に
「自分は何かをしてしまったのではないか」
という不安が走る。
💎「ご、ごめん……みんな、会議中なのに。ぼく、また……」
記憶が途切れているのか、あるいは断片的にでも何かが漏れ出しているのか。
彼は自分の手が震えていることに気づくと、隠すように袖の中へと深く押し込んだ。
その仕草には、これまで以上に深刻な拒絶と、必死の隠蔽が込められていた。
自分が何者かに「乗っ取られている」という事実は、彼にとって絶対に知られてはいけない、自分自身の根幹を揺るがす恐怖そのものだった。
💎「ごめんね、ほんとに……次は、ちゃんとするから。だから、今のことは……っ、忘れて……」
潤んだ瞳で必死に訴えかけるその姿を前に、メンバーたちは、先ほどの「冷徹な別人」の言葉を思い出し、どう声をかけていいのか分からずに立ち尽くしていた。
🐰「……いい加減にしてや、いむくん」
静寂を切り裂いたのは、普段は穏やかなはずのしょうの、震えるほど低い声だった。
メンバーの誰もが、今度こそ逃げられないと悟っていた。先ほどの「別人」の冷酷な台詞が、あまりにも鮮明に脳裏に焼き付いている。
🐰「さっきの……あれは、誰なん? いむくん中に、他の誰かおるん?」
ないこが、かつてないほど厳しい表情でほとけの前に立つ。
逃げ場はない。ほとけは壁を背に、追い詰められた小動物のように肩を震わせた。
💎「ちがう……っ、ちがうもん! ほとけだよ、ぼくはほとけだよぉ!」
🍣「いむ、隠さんでいい。俺ら全員、今の目撃したやん。隠し通せるわけないやろ」
💎「やだ、やだやだ……っ!」
パニックがほとけの限界を突破する。
脳内では、自分の中の
「誰か」
がまた顔を出そうと暴れ回り、目の前では大好きなメンバーが、自分を
「別人」
として問い詰めている。
恐怖と混乱、そして絶対にバレてはいけないという極限のプレッシャー。
ほとけの心は、張り詰めた糸が切れるように、音を立てて崩壊していった。
💎「うっ……あ、あぁ……っ!」
激しい眩暈に襲われ、彼はその場に崩れ落ちた。
喉の奥がせり上がる。こみ上げる吐き気を抑えようと口元を塞いだが、限界だった。
💎「……っ、げほっ、おえっ……」
床に膝をつき、ほとけはその場で力なく嘔吐した。
体内の水分をすべて絞り出すような、ひどく苦しい音。
何も食べていなかったはずの胃から、苦い胃液が混じる。
「ほとけ!?」
メンバー全員が駆け寄る。
しかし、ほとけは近づいてくる彼らの手を、拒絶するように乱暴に振り払った。
💎「こないで……っ、見ないで……ぼく、気持ち悪い……ほとけじゃない……っ、あぁ……!」
吐き気と嗚咽で顔をぐしゃぐしゃにしながら、彼は自分の体を抱きしめ、誰にも触れさせまいと壁際で身を小さくした。
過呼吸で酸素が回らない。視界が急速に暗転していく。
隠し通そうとした秘密が、最悪の形で露呈してしまったという絶望が、彼を深い闇へと引きずり込んでいった。
コメント
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待ってほんとにありがとうございます😭😭😭 なんでそんなかけるんですか😭❓ 橙×水で みんなに隠してる設定で 依存性パーソナリティ障がいもってるの行けますか😭❓
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