武蔵帝都軍は御堂総帥、國光の父が直轄する精鋭部隊であった。
そこに入隊できるのは、訓練学校で選ばれた優秀な人間だけ。
新兵たちは厳しい訓練プログラムをこなし、最新の知識と技術を常に習得することが求められていた。
しかし、このエリート軍隊の中で、メイの成績は常に最下位だった。
訓練学校など出ていない彼女は、実習も戦術も全てがダメで、講義室で居残りの復習を命じられていた。
「どうしよう、難しくて全然わからない…私、ただの女子高校生なのに、
こんなの無理だよ…」メイはため息をつきながら窓の外を見つめた。
「剣術だったらなんとか追いつけそうだけど…」彼女は剣の構えを取り、
空気を斬るように動かしてみた。その瞬間、講義室のドアが開いた。
「まったく、復習していると思えば…」と凌が部屋に入ってきた。彼の声に驚いたメイは
慌てて椅子に座り直し、勉強する振りをした。
「す、すみません…」メイは俯きながら小声で謝った。
凌は彼女をじっと見つめ、ため息をついた。
凌はメイに向かって問いかけた。「霜月、なぜ我々は知識と技術を習得することが求められると思う?」
メイは少し考え込んでから答えた。「えっと…魔獣を倒すため?」
その答えに、凌の眉がひそめられた。メイは内心で焦る。(あれ、違う?)
「えーっと。。。他国と戦争するとか?」と、さらに答えを探してみるが、
凌の表情はますます険しくなる。(やば..こわい顔になってる)
凌は深呼吸をしてから、再び質問を投げかけた。
「確かに、今は魔獣討伐のために我々も動いているし、
国を守るためなら戦争もするだろう。しかし、一番大切なのはなんだ?」
そう言って、凌は机の上に両手をつき、メイの目をじっと見つめた。
メイはその真剣な視線に心臓がドキドキした。(一番大切なこと...)
凌は無言でメイの答えを待っている。メイはその整った顔立ちに見とれてしまい、思わず息を呑んだ。
「聞いているのか?」凌の問いかけで、メイはハッと我に返った。「え、はい」
呆れた表情を浮かべた凌は、少し声を落として言った。
「我々の最優先事項は、国家と市民の安全を守ることだ。魔獣討伐や戦争がその一部に過ぎない。
災害や事故が発生した際には迅速に対応し、国民を守る。それが我々の使命だ。」
凌の言葉には、単なる知識や技術以上の重みがあった。彼女は初めて、
自分の役割と責任の重大さを真に理解した気がした。
凌はメイに向かって短く命じた。「霜月、プールに来い。」
メイは驚いた。「プールですか?」
しかし、凌は何も答えずにさっさと部屋を出て行った。メイはしばらくその場に立ち尽くし、
なぜプールなのかと考えた。彼女の頭の中では、夕方のプールで凌と楽しく遊ぶ姿が浮かんでいた。
二人が近づき、見つめ合うと、凌がメイにキスをする――そんな妄想が広がる。
「そんなわけないよね...」メイは自分に言い聞かせるように呟いた。
プールに着くと、凌はすでに待っていた。「遅いぞ、霜月!」
「すみません、水着を取りに行ってました。すぐに着替えます。」メイは急いで言い訳をした。
しかし、凌は冷静に言った。「泳ぎの練習ではない。そのままでいい。」そう言うと、
突然メイをプールに突き落とした。
「え?」
凌は上着を脱ぎ捨て、「今から溺れている人間を救助する方法を教える」と宣言し、
自分もプールに飛び込んだ。
「いいか、溺れている人間はパニックになっている。
その目の前に私が来たらどうなる?」凌はメイに問いかけた。
「助けてと言います。」メイは答えた。
「いや、違う。こうだ。」凌はそう言うと、メイの頭を水の中に押し付けた。
突然のことでびっくりしたメイは、ゴボゴボと水面に浮き上がろうとするが、
凌の手がしっかりと押さえつけている。(い、息が..できな...)
凌の手が離れると、メイは水面に飛び出してきた。「ぶはー」
「いいか、溺れている者は冷静さを失っている。前から助けようとすると、
パニックになっている相手にしがみつかれて危険だ。だから、
後ろから近づいて助けるように」凌は厳しい口調で言った。
メイは息を整えながら、「はぁ…はぁ…はい」と答えた。ふと気づくと、
メイは凌にしっかりしがみついていた。
「あ、すみません。」メイは慌てて手を離した。
凌は少し微笑んで、「いいんだ。これも訓練の一環だ。」と言った。
その言葉に、メイは少しだけ安堵したが、心の中はまだドキドキしていた
凌はメイに厳しい声で命じた。「では、溺れた人間を抱えて岸まで泳ぐ練習をする。私を岸まで抱えて泳ぐんだ。」
メイは元気よく「ハイ!」と応じ、すぐに凌の後ろに回り首をロックした。
しかし、凌は驚いた様子で「ぐ、おい、首が..」と言ったが、
メイは気にせず勢いよく彼を引っ張り始めた。
メイの目線はプールの水面に固定され、彼女は全力で凌を引っ張り続けた。
凌は突然の首ロックに苦しんでいたが、メイはその様子を演技だと勘違いしていた。
彼女は(副官が暴れている、これも演技なんだ、私が助けなきゃ)と使命感に燃え、さらに強く締め付けた。
ようやくプールの端にたどり着き、メイは凌を引き上げた。しかし、凌は意識を失いかけていた。
「副官?!」メイは驚きの声を上げた。(こ、これはもしかして、溺れたときのあれね!
でも..恥ずかしがってる場合じゃない、これは訓練なんだから)と自分に言い聞かせ、
凌の鼻をつまみ、首を上げた。
凌はかすれた声で「ま、まて」と言ったが、メイには聞こえていなかった。
彼女は人工呼吸を試みるために凌の口に自分の口を重ねた。
(ど、どうするんだっけ?これじゃあただのキス。。。舌を入れるんだっけ、
ち、ちがう。。。そうだ、息を入れるんだ)と思い直し、思いっきり息を吹き込んだ。
「ぶは!!」と凌は突然起き上がり、息を整えながら「息があるのに人工呼吸するな!!」と叫んだ。
メイは顔を真っ赤にして、「す、すみません」とうつむいた。
凌は息を整えながらも、どこか優しさのある目でメイを見つめていた。
「次からは、もっと冷静に対処するんだ。」凌はそう言って、メイの肩を軽く叩いた。
メイは恥ずかしさと共に、少しだけ自信を取り戻した気がした。
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