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あいたぴ♡苺もち
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#日常
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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ひまわり
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谷崎爽奈
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第297話 なかったことにする
【どこでもない層/深部】
二人を入れ替える実験は、一度止められていた。
被験体Cの身体にはDの意識。
被験体Dの身体にはCの意識。
さらに、それぞれへ身体の本来の持ち主の記憶と人格情報が流し込まれている。
結果。
両者とも、自分が誰なのかを正確には答えられなくなった。
名前を聞けば、身体側の名前を答える。
昔の家族を尋ねれば、書き込まれた記憶を自分のものとして話す。
それでも。
突然。
本来の自分の記憶が浮かび上がる。
知らないはずの名前を呼び。
会ったことがないはずの人を懐かしみ。
鏡を見ると、自分ではないと感じる。
表面は書き換わっても
奥には、元の人間が残っている。
Cの観測結果が空間上に表示される。
《人格転写・停止》
《被験体C基底自己反応・残存》
《被験体D基底自己反応・残存》
《自己同一性・不安定》
カシウスは、その表示をしばらく見ていた。
「追加するだけでは駄目か」
白峰律が顔を上げる。
「何を言っているんです」
「古いものが残るから混ざる」
カシウスは二人の被験体を見る。
「なら、先に消せばいい」
白峰の表情が変わった。
「何を?」
「邪魔な記憶だ」
オルガが理解する。
「元の人格を消してから、新しい情報を入れる?」
「それも後で試す」
「後で?」
カシウスは新しい観測領域を開かせた。
そこには
別の人間の記録が並んでいた。
《被験体E》
《肉体・生存》
《意識コア・正常》
《記憶異常・なし》
《人格安定》
白峰が眉を寄せる。
「今度は誰です」
「入れ替えない」
カシウスは答えた。
「一人で十分だ」
◆ ◆ ◆
被験体Eは
若い男だった。
身体も
意識も
記憶も
すべて本人のもの。
今までの実験と違い、別人のコアも入っていない。
目を覚ました男は周囲を見回し、緊張した様子で身体を起こそうとした。
「ここは……?」
カシウスが聞く。
「名前は?」
男は答える。
問題ない。
年齢。
出生地。
家族。
仕事。
すべて正常。
Cが確認する。
《自己認識・正常》
《記憶連続性・正常》
《人格情報・安定》
白峰が言った。
「この人間に何をするつもりです」
「一つ消す」
「何を」
「人生の一部だ」
空間に被験体Eの記憶構造が表示される。
無数の情報。
幼少期。
学校。
仕事。
友人。
家族。
さらに。
赤く示された一つの領域。
《十七歳》
《交通事故》
《同乗者死亡》
男の顔が変わった。
「やめろ」
初めて強い反応。
「それを見るな」
カシウスが男を見る。
「覚えているのか」
「当たり前だ」
男の呼吸が速くなる。
「忘れるわけないだろ」
白峰は画面を読む。
事故
十七歳
被験体Eが運転していた車
夜
雨
助手席には友人
衝突事故
本人は生存
友人は死亡
直接的な原因がどこにあったのか、記録だけでは完全には分からない。
だが、被験体Eは
自分の責任だと思い続けている。
その後
大学進学を取りやめ。
人間関係が変わり。
酒を避け。
車にも乗らなくなった。
生活の多くがあの一日を境に変わっていた。
カシウスが言う。
「これを消す」
男が目を見開く。
「何?」
「事故そのものを、お前の中から消す」
「やめろ」
即答だった。
「そんなことするな」
「なぜだ?」
「なぜって……」
男の声が震える。
「あいつが死んだことまで忘れるだろ」
「そうなる可能性はある」
「ふざけるな!」
固定具が音を立てる。
「忘れたいなんて言ってない!」
白峰がカシウスを見る。
「聞きましたか」
「ああ」
「本人は拒否している」
「それも記録した」
「なら止めろ」
カシウスの視線は男から外れない。
「拒否も、この記憶によって形成された反応かもしれない」
白峰の声が低くなる。
「だから?」
「その記憶を消したあとでも、同じ答えを出すか知りたい」
「答えを出す人間そのものが変わる」
「それを見たい」
白峰は
言葉を失った。
カシウスがCへ告げる。
「開始しろ」
Cの声が響いた。
『対象記憶領域を固定』
男が叫ぶ。
「待て!」
『周辺記憶との接続を確認』
「やめろ!」
『削除開始』
◆ ◆ ◆
最初。
男には何も起きていないように見えた。
目を開けたまま呼吸している。
だが。
数秒後、表情が変わった。
「……何だ」
眉を寄せる。
「何してる……」
Cの表示。
《事故当日・視覚記憶削除》
《聴覚記憶削除》
《事故直前記憶・処理中》
男の目から
恐怖が少しずつ薄れていく。
白峰がそれに気づいた。
「止めろ」
カシウスは動かない。
《友人死亡認識・削除開始》
男が、一瞬だけ
涙を流した。
本人もなぜ泣いているのか分からないようだった。
「……あれ」
頬へ流れた涙を見て。
首を傾げる。
「何で……」
《友人死亡認識・削除完了》
《事故後罪悪感・残存》
男の呼吸が荒くなる。
「嫌だ……」
白峰が男を見る。
「何が嫌なんです」
「分からない」
「何か思い出しますか」
「分からない……でも……」
胸を押さえる。
「何か、忘れたら駄目な気がする」
Cが記録する。
《対象出来事認識・消失》
《感情反応・残存》
オルガが表示を見る。
「出来事が消えても感情が残った」
カシウスが言う。
「なら感情側も消せ」
白峰が振り返る。
「そこまでやれば、人格が変わる」
「だから測る」
『罪悪感関連反応・削除開始』
男が息を呑む。
先ほどまで胸を押さえていた手が
少しずつ緩んだ。
顔から苦しみが消える。
《罪悪感反応・低下》
《恐怖反応・低下》
《特定対象喪失感・低下》
そして
完全に止まった。
男は天井を見た。
静かだった。
カシウスが尋ねる。
「名前は?」
答える。
同じ。
「家族は?」
同じ。
「仕事は?」
同じ。
「車は運転するか?」
男は不思議そうな顔をする。
「普通にしますけど」
白峰の目が動く。
事故以降、一度も運転していなかった。
「酒は?」
「飲みますよ」
「以前から?」
「……たぶん」
その答えには少し曖昧さがある。
Cが表示する。
《対象出来事・削除成功》
《事故後行動制限・根拠消失》
《人格変動・発生》
オルガが尋ねる。
「どの程度?」
『事故以降に形成された判断傾向の一部が変動しています』
空間へ比較結果が出る。
以前のE。
慎重。
他人の安全を過剰に確認。
車を避ける。
酒を避ける。
夜間外出を嫌う。
友人関係へ距離を取る。
現在。
その多くが薄れている。
白峰が表示を見つめた。
「記憶だけじゃない」
カシウスが答える。
「当然だ」
「一つの出来事を消しただけで、その後の判断まで変わっている」
「人間は過去から作られる」
「だったら」
白峰がカシウスを見る。
「過去を消せば、その人間の一部を殺したのと同じです」
カシウスは否定しない。
「そうかもしれない」
その答えが。
白峰にはさらに不気味だった。
◆ ◆ ◆
男へ。
事故前後の写真が見せられた。
一枚
十七歳の頃。
友人と並んで笑っている写真。
男はそれを見る。
「誰ですか、この人」
白峰の指が止まった。
死亡した友人。
何年も。
忘れたくても忘れられなかった人間。
それを今は知らない。
「友人です」
白峰が答えた。
男は写真をもう一度見る。
「俺の?」
「はい」
「名前は?」
白峰が教える。
男は繰り返す。
だが何も起きない。
懐かしさも。
悲しさも。
罪悪感も。
表情には出ない。
「覚えてないな……」
男が言う。
「本当に友達だったんですか?」
白峰は、答えるのに少し時間がかかった。
「……そう記録されています」
男は
写真を見たまま。
「そうですか」
それだけだった。
昨日までなら
その写真を見ただけで呼吸を乱していた人間が。
今は
知らない男の写真を見るような顔をしている。
白峰がカシウスを見る。
「これが成功だと?」
「削除実験としてはな」
「この人間はもう、実験前と同じじゃない」
「名前は同じだ」
「そういう話をしているんじゃない」
「身体も同じ」
「違う」
「意識コアも同じだ」
白峰の声が止まる。
そこだけなら確かに同じ。
身体。
コア。
名前。
それなのに人間は変わっている。
カシウスが尋ねた。
「なら、昨日の実験と何が違う?」
白峰が睨む。
「昨日は別人の情報を入れた」
「今日は何も入れていない」
「消した」
「それだけだ」
カシウスは男を見る。
「人間を別人にするのに、新しいものを入れる必要すらないのかもしれない」
白峰の表情が固まった。
◆ ◆ ◆
オルガは
削除前後の人格比較を続けていた。
「面白い」
白峰が見る。
「何がです」
「全部は変わっていない」
表示。
《好物・維持》
《技能・維持》
《言語能力・維持》
《家族認識・維持》
《職業知識・維持》
《一部価値判断・変化》
《危険回避傾向・変化》
《対人距離感・変化》
《自己評価・変化》
オルガが言う。
「出来事一つで変化する部分と、変わらない部分がある」
カシウスが尋ねる。
「なら、もっと古い記憶なら?」
白峰の目が細くなる。
「何をするつもりです」
「人格の土台に近いものを消す」
「やめろ」
カシウスは白峰を見る。
「なぜ?」
「ここから先は」
白峰は言葉を選ぶ。
「記憶を消す実験じゃない」
「では?」
「人間を削る実験です」
少しだけ沈黙。
カシウスはそれを否定しなかった。
むしろ静かに言う。
「同じことだ」
その言葉に。
白峰の顔から感情が消えた。
◆ ◆ ◆
少し離れた場所。
白色コアが、また小さく震えた。
ラストが壁にもたれたまま、その光を見る。
「またか」
白い光は今回も実験が進むにつれて反応している。
特に写真を見せられた時。
名前を聞いても何も思い出せなかった時。
強く揺れた。
Cが観測する。
『白色コア・変動増加』
カシウスが振り向く。
「記憶削除へ反応している?」
『関連性・判定不能』
白峰も白いコアを見る。
その瞬間。
頭の奥に、昔の光景が浮かんだ。
研究室。
モニターの前。
自分を信じていた女性。
そして。
まだはっきりとは思い出さない。
声だけ。
――白峰さんが大丈夫って言うなら。
白峰は無意識に目を逸らした。
カシウスはその小さな変化を見ていた。
だが。
何も言わなかった。
◆ ◆ ◆
被験体Eは最後にもう一度
自分の人生について質問された。
「一番後悔していることは?」
男は考えた。
長く。
だが答えが出ない。
「……特にないです」
白峰の指先が僅かに動く。
実験前。
同じ質問をすれば事故だと答えただろう。
友人を死なせたこと。
自分だけ生き残ったこと。
あの日をやり直したい。
そう答えたはずだった。
今は
その出来事が存在しない。
少なくともこの男の中では。
カシウスが聞く。
「では、今の自分に満足しているか」
男は少し考え。
「まあ……普通です」
と答えた。
Cが記録する。
《自己認識・安定》
《削除対象記憶・再生なし》
《人格変動・固定傾向》
《実験終了》
男の意識が再び落とされる。
静かになった部屋で
白峰は一枚の写真だけを見ていた。
二人の少年が並んで笑っている。
その片方は
もう死んでいる。
もう片方は
その事実さえ知らない。
「なかったことにはならない」
白峰が呟いた。
カシウスが振り向く。
「何?」
白峰は写真を見る。
「この男が忘れても」
事故は起きた。
一人は死んだ。
家族は泣いた。
周囲の人生も変わった。
「記憶から消しても、起きたことまで消えるわけじゃない」
カシウスは
わずかに首を傾けた。
「本人にとっては?」
白峰が見る。
「何です」
「本人の内部に記録がなく、本人の人格にも影響が残らず、誰かから聞かされなければ一生知ることもない」
カシウスは静かに問う。
「その人間にとって、その出来事は“起きた”と言えるのか?」
白峰は答えなかった。
カシウスはCへ新しい指示を送る。
「次の比較を準備しろ」
『条件は?』
「同じ出来事を」
カシウスは続けた。
「一人からは消す」
そして。
「もう一人には、起きていない出来事を起きたこととして書き込む」
白峰の目が細くなる。
消す。
加える。
入れ替える。
そして。
人間が信じる過去そのものを作る。
Cの観測領域へ。
新しい項目が表示された。
《記憶情報改変》
《虚偽経験生成》
《本人認識との整合試験》
カシウスは
それを見ながら言った。
「次は」
「過去そのものを作る」
コメント
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うわっ…読んでて寒気がしたわ。記憶を“なかったこと”にするだけじゃなくて、その人が形成してきた人格ごと変えてしまうって、SFとしてすごく面白いけど背筋が凍る展開だった。白峰が「人間を削る実験だ」って言ったところ、マジでグッときた。カシウスの冷徹さと、消された後に友人の写真を見ても無反応なEの姿が痛すぎる…。続きが気になる🔥