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そして、私の監禁生活は終わり、その頃にはもう私は廃人のようになっていました。どんなことを言われても、どんなことをされても、何も思わなくなってしまいました。すべてが灰色に見えて、おもしろくなかったのです。
あくる日、私の妻となる、いくという女性が私の家へやって来られました。丸い目をした可愛らしい女性でした。私の三歳年下でした。
「初めまして。本田いくです。幸太郎様、これから、どうぞよろしくお願いいたします」
笑うと目が細くなって、口元に二つのえくぼが見える、可愛らしい女性でした。明るい色の着物が好きで、可愛らしい小さなものが好きで、動物がとても好きで、なにより、大日本帝國の国花である菊の花が好きだと、彼女は言いました。そして、……いくは菊さんと同じ名字を持つ女性でした。
「菊は長生きしますもの。ぴんと背を張って、誰よりも気高く生きていますのよ。どんなことがあっても、けしてめげず、ずっと前を見続けている。そんな勇気のあるお花が好きなんです。……幸太郎様も、お好きなんですか?」
『太陽の方を、ずっと見続けているから、前向きなれる。苦しいことがあっても笑顔になれるのです。』
いつかの菊さんの言葉が脳内を飽和して、私はつい、泣いてしまいました。
「こ、幸太郎様? ど、どうされましたか? わたくし、何か失礼なことでも……!」
「いえ、違う、違うんです……ただ、大切な人に会いたくなってしまっただけで……」
菊さんとの思い出が鮮明によみがえってきました。灰色だった世界が瞬時に鮮やかに色がつき始めて……ああ、あなたに会いたい!
そう思った私はいくが帰った後、父の執務室へと向かいました。父の執務室で佇む雰囲気は、私の知っている厳格な父に戻っていました。
「……どんな用だ、幸太郎。」
「父様。この度は可愛らしい婚約者をご紹介くださりありがとうございます。つい、一目惚れをしてしまいましたから、早くに婚姻を交わしたく存じます!」
うやうやしく、なお道化師のようにおどけて言ってみると、父は目を見開いて、嬉しそうに鼻で笑いました。
「お前にはもったいない女だがな。……だが、こう素直なお前を見ていると、思わず笑えてくる。……よかろう。すぐに婚姻を交わそう。」
「ありがとうございます。……そこで、日本様に挨拶を申したいのです。日本様が守ってくださっているおかげで、不自由なく幸せに過ごせるのだと、伝えたいのです。」
私のこの言葉に、父は少し迷った様子を見せました。ですが、私の瞳に宿る鮮やかな恋心が見つからなかったためでしょう。父はにやりと笑い、
「お前も、そのような気遣いができるようになったのだな。よかろう。挨拶に行くことを許してやろう。」
と、菊さんの元へ行くことを許してくれました。
「だが、いくも連れて行け。二人で婚姻を交わしたのだと、日本様に伝えろ。」
「はい。もとより、そのつもりでございます。」