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「柊……。ちょっと話したい。今夜、時間ある?」
「ああ、いいよ。樹のマンションに行こうか」
「いや、久しぶりに和食に行こう」
「わかった。予約しとくよ」
「頼む」
俺は、柊を誘った。
全て、話そうと思う。
きっと、まだ柊の心の中には柚葉がいるだろう。
もう、忘れてもらいたかった。
ひどい弟だな……俺は。
最初は2人の結婚を祝福するつもりだった。
なのに今は、こんなにも柚葉を愛している。
引き返すことなんて絶対しない――
もうこれ以上、柊に隠しておくことが苦しかった。
いや、ただ自分がラクになりたいだけかも知れない。
柊の気持ちを考えると胸が痛む。
それでも、話さないといけないと思った。
仕事を終えたのは、19時だった。
予約の時間まであと少し、お互いの車で急いで店に向かった。
柚葉と初めて会った日に食事した、あの和食の店。
なぜか少し、緊張している。
「間に合ったな」
「良かったよ。お腹空いた」
柊は、そう言って笑った。
その笑顔見てたら、急に胸が苦しくなった。
さっきまでの決意が揺らぎそうになる。
柊……
お前が柚葉を悲しませたんだ。
だから、だから俺は……柚葉を守りたい。
愛しい人を、ただ守りたいんだ――
「今日の仕事、あんなに上手くいくと思わなかったよ。樹のおかげだね。僕だけじゃ厳しかったと思うよ」
「まさか。柊のあの最後の言葉が効いてる」
食事をしながら、ずっと仕事のことばかり話した。
柚葉のことをいつ切り出そうか、考えながら。
「樹、何か話があったんじゃないか?」
柊は、俺の心を察して言ったんだろう。
もしかして、挙動不審だったか……
「あ、ああ……」
「樹、もしかして好きな子ができたんだろ?」
「え? どうして……そう思う?」
「わかるよ。お前を見てたら。毎日、幸せそうだからな」
「俺、そんなニヤけてるのか?」
「ニヤけてるわけじゃないよ。ただ、何かを大事にしたい時って、仕事にも、周りへの態度にも出るだろ。お前、最近ずっと穏やかだし、優しいし、一生懸命だし。きっと、好きな子のために頑張ってるんだろうなって。うらやましいよ」
柊……
相手が柚葉だって知ったら、お前はいったいどうなるんだ?
そんなことを考えたら、どんどん胸の鼓動が早くなる。
「……俺さ、その子と将来的には結婚したいと思ってる。まだ先の話しだけど……」
「そっか。いいね、すごく。応援するよ。でも、ずっと人を愛せないって悩んでたのに。本当に良かったよ」
「あ、ああ。俺も不思議だ。一生、本気の恋愛は無理かと思ってた。初めてなんだ、こんなに人を好きになって、愛しいと感じるのは。側にいるだけで、ドキドキして幸せを感じる」
「すごいよ、樹。相手はどんな人? かなり興味がある」
ここでちゃんと言わないと……ダメだよな。