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その一方で加瀬は、鷹野というもうひとりの英雄を、内向的な人格者であり、鋼の意志を持ちながら硝子の心をした青年と捉えていた。こんな状況下でなければ、思う存分に酒を酌み交わしつつ、国防論などを語り合いたい人物ではあるが、その楽しみはいずれ、再び平和が訪れた折の希望として、今は心に留めておこうとも考えていた。
それにはまず、必ずや生き抜かねばならない。
ふたりとも。
「鷹野君、君のオススメの漫画は何かな?」
「鉄腕アトムと言いたいところですが…」
「うん」
「銀河英雄伝説をご存知ですか?」
「いや、申し訳ない。勉強不足だな」
加瀬は笑った。
鷹野も照れ臭そうに笑った。
お互い、生きてきた時間の流れが違うのだ。
世代間の隙間を埋める作業は、時として大いなる娯楽へと変化して、それが人を知り、己を省みる時間へと繋がる。
それこそがまさに人生なのだ。
加瀬の哲学である。
今度は鷹野が遠慮がちに、
「隊長のオススメの小説を聞かせてもらえませんか?」
「私かい?」
「はい」
「嵐が丘と言いたいところだが…」
「はい」
「ホテルニューハンプシャー。知らないだろ?」
「はい…勉強します!」
加瀬と鷹野は同じ気持ちになっていた。
極限の精神状況下で、幸福を噛みしめている。
その味は、甘酸っぱくて苦くもあった。
機関室に笑い声が響いている。
加瀬はふと、2014年に南スーダンで行動を共にした摂津真を思い返していた。
『殉職』と『マラリア』の文字が、加瀬の心をえぐり始めていく。