翌日、私はハヤテに留守番をしてもらい、出かけた。
昨日寝る前に思いついたことがあったのだ。
反対側の『現世』を分ける壁の向こうはどうなっているのかを、私は調べていなかった。
「そういえば、あの壁にあった脚立はハヤテが運んだのか?」と昨日聞いたところ、
「ううん。置いてあった。」と言っていた。つまり誰かが置いたということになる。
謎がどんどん増えていってしまっているな… とりあえず何かの発見を求め、この前の壁の真反対へ進んだ。
結構木々が広がっており、なかなか進みづらかった。
今思えば、この森は2つの壁を隠す役割だったのではないかと思った。
壁に着いた。反対側の壁とほとんど同じ見た目をしている。脚立をまた使い、壁に登った。
その向こう側は、深く真っ白な霧が広がっていた。壁から降りて、その霧の方へ歩いて行ってみた。
すると、霧から拒絶されるように電気のようなものが走った。やっぱりか…
この霧を抜けた先は現世…既に死んだ私のような人間は入ることができないのだろう。予想通りか…
「おい!お前ここでなにをしている!」 背後から男の声がした。
「ん?お前残留人だな?ここには立ち入り禁止だ。帰れ帰れ。」
―私に話しかけていたのは…キツネだった。
「え、キツネ?」
「そうだ!おれは神様の使いである神聖なる動物、キツネ様だ。崇め讃えよ人間!」
神の使い? 少し笑いそうになってしまった。
「お前はここで何をしているんだ…?」私はキツネに聞いた。
「見張っているのだ。貴様みたいな人間が生き返ることを防ぐために…ってそれを聞きたいのはこちらだ!答えろ人間!」
「私は…見に来たんだ。こっちの向こう側を。」
「こっち…?ということはお前反対側は見たのか?」
「ああ。」
キツネと会話している…笑
しかし待て、あっちにいたあの女は何だ?
「あっちに案内人って言ってる女がいたぞ。キツネだけじゃないのか?」
「…そいつ、人間か?」
「そうだ。」
「…そんな奴、仲間にはいないぞ。」
「…え?」
―キツネから色々な話を聞いたら、私の中で何かが繋がって行ったような気がした。
私は翌日、あの女へ会いに行った。まだ川のそばに座っていた。私は女に話しかけた。
「おい、久しぶりだな。」
「おお!久しぶり。どうだい?アンタの息子の手がかりは掴めたかい?」
「ああ少しな。今日はそれを話に来た。」
「へー。聞かせてよ。」 女は私に言った。
「ああ。まずは、お前が言っていた通り、家にあった小説を全部読んでみた。ヒントがあると思ってな。いろいろなジャンルがあったが、特に思い当たるものがなく、とりあえず保留した。次に…ここの反対側に行ってみた。」
そう言った瞬間、女の顔が少し曇ったような気がした。私は続けた。
「そしたらそこにはキツネがいて、俺は聞いた。『あっちにいたのは人間なのに、なんでお前はキツネ何だ?』ってな。そしたらキツネは答えたんだ。『そんな奴仲間にいない。』って。そして、その女の特徴を言ったら、
『その女、前にここに来て、俺にこの世界の仕組みを聞いてきて、答えたら成仏するっつって帰った奴だ。』と言ったんだ。」
女が少し不安そうに私の話を聞いている。
「その時、1つ仮説が思いついたんだ。それは、お前は俺達二人を現世で『事故に巻き込んだ張本人じゃないか』というものだ。」
「どうして…そう思ったの?」 女が私に聞いた。
「ハヤテがこの前思い出したんだ。現世で事故にあって、いつの間にかここに来ていたってことを。そして、お前はあの日帰り際に俺の事を『パパ』と言った。
きっとハヤテが息子だと思って言ったんだろうが、俺は『あの子』が『息子』とは一言も言ってないよな。最初はそこで違和感を感じた。で、この前のキツネの話を聞いて、少し考えたんだよ。
……ここからは俺の推理なんだが、きっとここには、お前の記憶を反映するものもあって、キツネから世界のルールを聞いたあと、お前も調べたんだろう。そして全て分かってしまった。自分が事故を起こし、小さい子供とお父さんを殺してしまったということが。自分で自分が許せなくなり、川を渡ろうとしていたが、元々起こそうと思って起こした事故でもないだろうし、踏ん切りがつかなかったんだろ? そうして迷いながら過ごしていたら、山小屋で暮らす俺たちを見つけた。自分が事故に巻き込んでしまった人達。きっと、真相を話すのが怖かったから、なんらかの方法でハヤテを壁に誘導して、脚立を置き、俺達を自然に真相が解明していくように仕向けていた…。と、長くなったがこんな感じだ。」
…全部話した。 それまで黙って聞いていた女は口を開けた。
「……アンタ…すごいね。まさか自力でそこまで行くとは思ってなかったよ。はぁ… バカな私なりにいろいろ考えてたんだけどなー。」
「え、じゃあ今の俺の推理は…」
「ほとんど当たってるよ…」
驚いた。自分でもそこまで合っていると思ってしゃべっていなかった。
「私はその事故の後病院で目を覚ましたんだ。そしてそこで事故の事を知った。親は死んで、息子は昏睡状態。なんで自分は、元気で生きているんだろうって思っちゃってさ。その日、夜に病院の窓から飛び降りた。自分が生きる事が罪に感じたから。でも、きっと…死にきれなかったんだと思う。現にわたしはここに居た。そこからはアンタの推理とほぼ同じさ。ハヤテ君にあの日、アンタにバレないように約束をして、脚立を置いておいた。きっと…思い出すんじゃないかと思って。」
「そうか…そんな事が…」
女は笑って言った。
「ははは…結局私、何がしたかったんだろう。自分から死のうとしたくせに、ここへ来た途端に迷っちゃってさー。早く死んじゃえばよかったのに…」
女の目に涙が溢れた。
「…きっとお前は…誰かに気づいて欲しかったんじゃないか?」と、私は言った。
「…え?」
「自分が生きる事が罪に感じた事。生きるか死ぬか迷った事。それを誰かに言いたかった。気づいて欲しかった。そして感じて欲しかった… だって…自分が責任を感じていても、本当は…誰も悪くないから… 『死ねばよかった』なんて言うなよ。お前がいなかったらきっとあのまま、何も気づかず中途半端に過ごしていたんだ。お前のおかげで今俺がここにいるんだぞ?」
「でも、私があの日事故を起こさなかったら、アンタ達は生と死の狭間になんて来てなかった!全部私がわるいんだよ!」
女は泣きながら大声で言った。
「違う!事故なんて突然起こる事なんだ!誰のせいでもない!お前だってやろうとしてやってないだろ!?」
「………」 女は黙り込んだ。
「だからお前が責任を感じる必要はない… お前は俺と違ってまだ生きる権利があるはずだろ? 生きろ。それが俺のためでもあるし、お前を大切に思っている人のためでもあるんだから。」
「…………本当に私…生きていいの?…」
女は泣きながら聞いてきた。
「いいんだよ…生きてさえいれば、なんだってできるんだから。」
「はぁ…マジで早く起きろよ…」
私の妹が先日、自殺未遂をした。きっとあいつ…自分が起こした事故に責任でも感じてるんだろうな…
あいつ…最近初心者免許から抜け出して、あんなに楽しそうにしてたな。で、私が車を買ってあげて… その車で事故起こして…
「おい…ナツミ…早く起きろって……」
こちとら心配してんのによ…
「おねえ…ちゃん……」
え?今しゃべっ……?
「おい!ナツミ!!しっかりしろ!!目ぇ開けろ!」
―今日、私の妹が目覚めた。
OVER 第四章 『私の事』 完
コメント
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読んで頂きありがとうございます😭 とりあえず物語は一つの山場ですかね笑 がんばれ私!