テラーノベル
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同じピッチに立ちたい。
一緒に最高の景色を見たいと本気で思える人に出会えた。
だから、もっと上手くなろうとがむしゃらになれたんだ。
羽を広げた翼
「はぁ。」
「純也、またため息。」
何度めになるか分からないため息を律儀にツッコミを入れる航に俺は目配せしながら深く座り込む。
「だって、またベンチだし。」
「まぁ、純也の気持ちは分かるよ。」
目の前でピッチを走る仲間を見て、俺は不貞腐れながら言葉を紡ぐ。
しかし、横に座る航はそんな俺を気にもしないで真剣にピッチを見つめている。
俺がもう一つため息を吐こうとした時
「純也はこのままでいいの?」
そう航が静かに真っ直ぐ聞いてきた。
ーーーこのままでいいの?
この問いに対する答えは数日前に出会った奴によって明確な答えを突きつけられたから決まってる。
そう、数日前に出会ったあいつ。
「将来の代表候補にあいつが来るらしいで。」
「将来の代表候補?」
「トレーニングパートナーをしてくれたりする子達だよ。監督がさっき話してただろ?」
ふーん。なんて気のない返事をする俺に、航は呆れ、話をふった拓実は気にせずに話を続ける。
「あの有名人が来るからか、なんやみんなピリついてるな。」
「有名人?」
「なんや、誰が来るのかも聞いてなかったんか?」
監督の話をなんとか引っ張り出そうとして諦めた俺に流石の拓実も航と一緒になって呆れていた。
「三笘薫が来るんですよ。」
「みとま?」
「ほんっっまにお前は人に興味がないな。」
「Jリーグで無双しまくってる左ウィングの三笘薫。将来、純也の逆サイドとして一緒にピッチに立ってる可能性が高い男だよ。」
「俺、ベンチ組なのに?」
富安が噂の人物の名前を教えてくれて、航が補足情報をくれたけど、俺は全然ピンとこなかった。
試合にしっかり絡んでる富安や拓実が注目している奴とベンチで試合を見てる俺が同じ試合に出るなんてことがあるわけない。
そんな事を考えていると、俺の中で警鐘が鳴る。
『あいつがくる!』
そして、数秒としない間にその警鐘を鳴らす人物が姿を現した。
「おうおう!調子はどうよ?」
「佑都君、今日も声が大きいて。」
「律、こんなもんで大きいなんて言ってたらピッチ場では声が聞こえないぞ!」
俺の警鐘の元である佑都君は、普段から元気で煩いくらいに声が大きいだけじゃなくテンションも高い。
そんな人間だからなのか、ピッチ場で対峙した時のあのしっっっっつこいマークは本当に苦手。
苦手を通り越してむしろ嫌い。
いや、味方だとかなり心強いんだけど。
とにかく、ここはピッチ場じゃないんだから別に声量落として大丈夫だろ。
なんて声に出さずに心の中でツッコミを入れつつ巻き込まれないように気配を消していたが、図体のでかい富安がただでさえ目立つのに、更に立ち上がり、事もあろうに手まであげて問題男に声をかけて呼びやがった。
「佑都君、麻也さん!」
「おっ、トミーここにいたんだな!航に拓実、純也も一緒か!」
ズカズカと歩いて来たかと思えば、空いてる富安の隣りに二人座りながら佑都君が声をかけてくる。
しっかりと挨拶をしながら軽く談笑してる拓実と航に会話を任せて黙って気配を消していると、ふいに麻也さんから名前を呼ばれた。
「はい。」
「今回、純也のトレーニングパートナーは三笘になると思うからよろしくな。」
「はあ!?」
「おっ!良かったな、純也!お前のスピードに対応できる奴がいなかったから、トレーニングに張り合いがなかったもんな!」
「いや、佑都君や富安がいてくれるだけでも十分練習にな」
「なんだー!?今日はやけに素直だなぁ、おい!」
事実とはいえ、言うんじゃなかった。
嬉しそうに肩をバンバン叩きながら言う佑都君に言ったことを本気で後悔していると、前の横扉が開いて監督と一緒に数人が会場に入ってきた。
ざわざわとした声は、明らかに1人の名前を呼んでいた。
「はい、静かに。今日から数日だが、みんなと一緒に過ごすメンバーを紹介する。」
そして、その人物が監督に呼ばれた時、俺はハッキリと実力を見せつけられた。
名前を呼ばれて一言挨拶するお決まりの流れの中で、一際落ち着いていて、周りに目を配る余裕もある。
そして何より、笑うと年相応で可愛い一面もあり、そのギャップに俺だけじゃなく周りも空気が和らいだ。
そんな中、急に監督に名前を呼ばれる。
俺は驚きながらも何とか返事をした。
「今日から薫はお前と同室になるからよろしくな。」
「えっ!?な」
「さっきの説明で以上だから。では、各自一度準備をしたらいつものトレーニングルームに集合するように!」
全く聞いていなかった俺の心情を読んだかのように説明を省き、さっさと号令をかけるとみんなは返事をして各々動き出した。
「話を聞いてなかった純也が悪い。」
「ちょ、わた」
「良かったな!期待の星とトレーニングできて♪」
「拓実!」
「じゃ、またトレーニングルームでな!」
そう言いながら去っていく佑都君達と入れ替わるように、富安に連れられて三笘薫が俺の所にやってきた。
「こちらが伊東純也君。右ウィングだから、薫と逆サイドになる選手だ。」
「どうも。」
「よろしくお願いします。」
「少し変わった所があるけど、とっても良い人だから。信用して大丈夫だよ。」
「こら、トミー! 」
事前情報ありがとな!という心の声は黙っておいたが、どうやら伝わったらしく富安は大きく頷いて、それじゃ。と去っていった。
「じゃあ、まぁ、部屋行くか。」
「はい。えっと、純也さん。」
「さんは止めて。」
「じゃあ、純也君。」
「それでよろしく。」
我ながらしっかり対応して良き先輩になれている事に満足しながら、自室という名の本日から数日だけ相部屋へとなる部屋に薫を案内した。
部屋の中に案内してすぐにトレーニングで使う物を用意していると、扉の前から動かない薫がいた。
「薫、こっち。」
「はいっ。」
薫が使うもう一つのベッドがある場所を指差して伝えると、薫は安心したように返事をした後に荷物を置く。
「純也君、荷物広げるけど」
「そっちは薫の好きに使っていいよ。」
「ありがとう。」
勝手にやるのではなく、一言声をかけてくれる律儀さに相部屋が薫で良かったと心から安心する。
最近の同室は航が多かったが、航はテキパキと場所を確保してくれるし、行動するときには声をかけてくれる。
何気ないことだけど、その気遣いが居心地良い。
そんな航と同じ雰囲気を感じ、俺は心の中でガッツポーズをとった。
「ここからトレーニングルームはどれくらいでつく距離なんですか?」
「敬語じゃなくてタメ口で。」
「え?あ、うん。」
「ここからトレーニングルームまでは、そんな遠くないから、もう少しゆっくりしてても大丈夫。」
「分かった。」
「トイレは?」
「じゃあ、行ってこようかな。」
トイレの場所とついでに風呂場も伝えておくと、薫はお礼を言いトイレに入っていった。
『居心地いいな~』
落ち着いた声のトーン。
無駄のない会話。
『もう少し緩くても怒らなそう。』
数日一緒にいる、トレーニングパートナーという名の将来有望な人物で、面倒をお願いされている立場だというのも俺の中で忘れつつあった。
あれから準備を整え、トレーニングルームへ向かい、軽く準備運動をする。
もちろん、パートナーは薫。
黙々と体を動かしつつ、二人ペアになった瞬間、俺は驚いた。
「同じ筋肉! 」
「じゅんや~、真面目にやれ~!」
「…すんません。」
今までのペアは筋肉質な奴が多く、ここまで似た筋肉量の人はいなかった。
「薫さ、もっと筋肉つけろとか言われない?」
「言われますけど、大概は無視してます。」
「な!そうだよな!」
「じゅんや~!薫と一緒にやれて嬉しいからってはしゃぐな!」
「気持ち分かってくれる奴が出来て嬉しいんす!」
「お前が感動する側になってどうする!」
ワッと笑いが起こるが、俺にはそんなの関係なかった。
なんで薫が俺のパートナーになったのか意味をしっかり理解した俺は
『監督、ありがとうございます!』
と今までこんなに人に感謝したことがあったか?と思うほど心の中で感謝を伝え、先輩後輩関係なく気になったことはバシバシ薫に声をかけるようになった。
「薫はこの時、こっちに軸をおくんだな。」
「純也君は右利きなのにこっちに軸をおくから抜けるのが速いんだね。」
部屋に戻ってきてからもお互いの分析が止まらず、感じたことを伝え合う。
そんな時、部屋の扉を誰かがノックした。
軽く返事をすると、麻也さんが扉を開ける。
「薫。これから代表で来た子達だけでミーティングするからちょっと来てくれ。」
「分かりました。」
「ミーティングの様子を見に来てもいいが、純也はどうする?」
「遠慮します。」
「だろうな。今日はこのまま解散だから、ゆっくり休めよ。」
「はーい。」
そう返事をして薫が部屋を出て行った後、1人残された俺はベッドに横になった。
「俺、はじめての奴とこんなに話してる。」
改めて今日の出来事を思い返し、今までの自分では考えられない行動ばかりだった事に驚く。
ポジションが同じなだけじゃなく、ポテンシャルも似てるからか、薫と話していると楽しいし、学べることも沢山ある。
ぶつかる壁も似ているし、それに対する考え方も全てじゃないけど一緒な部分がある。
「とりま、ゲームしよ。」
今まで1人時間の時は必ずスマホゲームをしていた事を思い出し、ゲームを起動した。
そういえば躓いてた所からだったかと、起動後に思い出してあれやこれやと思考しながらゲームを進めていると
「そこ、難しいよね。」
「どぅわぁ!!」
急に耳元で喋られた事に驚き、更に寝っ転がってゲームしてた俺の横に薫の顔があったのにも驚き、俺は変な声をあげた。
が、当の薫は不思議そうに俺を見てる。
「戻ってきたなら声かけろよ。」
「声かけたけど、純也君がゲームに集中してたから。」
苦笑しながら伝えられた言葉に、そんなに集中してたのか、と改めてスマホの画面に目を向けた。
すると、当たり前のように薫も横に来てスマホの画面へ目を向ける。
「俺もここ、苦戦したんだ。」
「薫もやってんの? 」
「うん。」
ふーん。と納得しかけた時、ある言葉が引っ掛かった。
「えっ、薫ってここクリアしてんの?」
「うん。ここの面難しいよね」
「絶対に言うなよ!!」
「言わないよ。でも、隣りで見ていい?」
「…絶対に言うなよ。」
「ヒントは?」
「それは…許す。」
「いいんだ。」
笑いながら隣りで俺のスマホを覗く薫と一緒になってゲームを進める。
真剣に悩む俺にすぐにヒントを与えるでもなく、薫も一緒になって悩んでいた。
「お前、ここクリアしたんじゃないの?」
「したけど、結構前だから忘れちゃったんだよね。」
「なんだそれ。」
「全部クリアしちゃって、アプリ消しちゃったから…って、純也君?」
「俺、もう寝る。」
薫の言葉に完全に拗ねた俺はスマホの画面を閉じてさっさと布団の中に潜り込もうと動く。
そんな俺に焦った薫は急いでベッドからおりつつ俺に声をかける。
「え?ゲームをクリアしなくて良いの?」
「誰かさんがマウントしてくるからいい。」
「え?純也君、拗ねてる?」
「別に拗ねてな」
「純也君、可愛いね。」
言い返そうとして振り向いた先にいる薫は、謎に満面の笑顔で俺を見つめている。
え?
俺、すっげぇ不機嫌なのに、何で笑顔なん?
「純也君は、すっごい可愛いって先輩達が言ってたけど、本当に可愛いね。」
「いや、いやいやいや。それ、本人前にして言うか?」
「あまりに可愛かったから、つい伝えたくなっちゃいました。」
すいません。なんて、まったく悪びれてない謝罪を受けて、本来なら腹が立つ筈なのに、薫の屈託のない空気に、言い返す言葉が見つからずふいっと視線を反らした。
「純也君、」
「可愛いとか、言うなよ。」
「努力します。」
「なんだよ!努力って!!」
「確約できない時は努力しか無理じゃないですか。」
「お前、真面目か!!」
不安気に声をかけてきた薫に、精一杯の反論を告げれば、薫は困ったような笑顔で反論する。
薫の独特な空気感に、俺は毒気を綺麗に抜かれ気づけば薫と一緒に笑いあっていた。
それから薫達が去るまでの2日間、みっちりサッカーの話をしたり、ミニゲームで敵対したりチームになったり、今までのサッカー人生の中で一番充実した時間を過ごしたといっても過言じゃない経験が出来た。
だから、部屋で荷物を片付けている薫を見るのが淋しい。
「実は、純也君と一緒にサッカーやりたいってずっと思ってたんだ。」
「え?」
荷物を全て入れ終わったキャリーバッグのファスナーを閉めながら伝える薫の言葉に驚き、俺は小さく言葉を発することしか出来ない。
「右ウィングで颯爽とボールをさらってゴールに向かう姿を見て、一緒にピッチで戦いたいってずっと思ってた。」
「薫が敵なのは嫌だな。」
「俺だって、純也君が敵なのは嫌だよ。」
二人で見つめ合うと、自然と笑みがこぼれた。
全部言わなくてもしっかりと伝わると、共に過ごした時間が伝えてくれる。
それでも、伝えたくなる気持ちがある。
「薫、一緒に戦おうな。」
「はい。すぐに追い付きます。」
そういって、薫はまとめられた荷物を持ち、俺も一緒にみんながいるエントランスへと向かう。
既に止まっているバスの前には、全員が俺たちの到着を待っていた。
「別れが惜しいんは分かるけど、待たせるんはあかんで。」
「ごめん。」
薫から離れてみんなの輪に入ると、隣りにいる拓実から茶化しながらダメ出しされる。
その言葉に、改めて薫との別れがつらいんだと思い知らされる。
そして、バスに荷物を預け終え、入り口が開いて1人目が乗り込みはじめた時、薫が振り向き俺を見つけた。
「純也君、楽しくて充実した時間を本当にありがとうございました。」
「俺も、薫が来てくれて本当に良かった。」
「約束、絶対に果たします!」
そういって、バスへと乗り込み窓越しに他の子達と一緒になって手を振って薫達は帰っていった。
その姿を、他の選手達と一緒に見送った後、一斉に質問攻めにあう。
「約束ってなんなん?」
「え?2人何があったの?」
「純也って実は積極的なタイプだったんだな。」
「あーもー鬱陶しいっす!」
あっ、こら!と騒ぐみんなを無視して俺は自室へと走って逃げた。
あれから、約束の内容について散々質問されたが、誰にも口を割らない。
だってこれは、俺が薫と交わした約束だから。
だから、このまま試合を観ているなんて出来ない。
すぐに追い付くって言った薫にこんな状態の俺のままでいるなんてーーー
「よくない。」
その答えに、俺はベンチに沈んでいた体をしっかりと起こす。
そんな俺に航は優しく微笑んだ
「うん、大丈夫。」
その言葉に、俺は1人じゃない事に深く感謝した。
もし、これで航までピッチに立っていたら心は折れてこの場にいられたかどうかも分からない。
「ありがとう、おとん。」
「拓実の入れ知恵かぁ。」
そう言いながら、今度は航がため息を吐く。
そんな航を見て一笑いしていた時、コーチがふいにこちらに視線を向けた。
「遠藤、伊東。アップしろ。」
「はいっ!」
その言葉に素早く反応して、アップするために準備をする。
その最中、航が小さく拳を作り俺の側に出した。
それに答えるように、俺も拳を作り、航と小さくタッチする。
薫と過ごした数日の間に話した事が脳裏を過り、そして今の自分を奮い立たせる。
『薫と一緒に試合に出るために。』
自分と薫がいる未来を想定しながら、その日までここの場所にいることを1人小さく誓った。
Fin
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