ホグワーツ魔法魔術学校の夜。
昼間は生徒が賑やかに歩く廊下も静まり返っている。
暗い廊下の窓からは月明かりが入っている。
その廊下に一人の男子生徒が立っている。
生徒は22時には就寝しなければならない規則があるが、その男子生徒はそれを気にしないかのように外の月を見ている。
廊下にいるのは男子生徒は銀髪で赤い目をしているスリザリン生の葛葉だ。
月明かりに照らされて葛葉の銀髪は少しだけキラキラと光っている。
すると、廊下の置くから近づいてくる人影が見えた。
巡回している教師かと思い、身構える葛葉。
しかし、人影の正体は教師ではなく知っている人物だった。
「あれ、ズハくんじゃないすか~。」
いつも剣持の隣についている伏見ガクだった。
狐のようなオレンジ色のような髪色をしている
伏見は一部の生徒にしか見えていない存在であり、葛葉は見える一部生徒の一人であった。
「ガっさん?ちわーす。」
何故ここにいるのかと疑問に思うが、とりあえず挨拶は欠かさずに行う葛葉。
「珍しいっすね、ズハくんが夜中に歩いてるんなんて。」
伏見は少しの睡眠で平気であり、剣持が寝ている間は暇なのだ。
そこで姿が見えないのをいいことに校舎を歩き回ったり、つまみ食いしたりなどをしている事が多い。
夜中出歩くことは規則違反なので、生徒には会うことはめったになかった。
なので、葛葉がいるのは珍しかったのだ。
「いやぁ~、寝れなくて。そういえば今日満月だったんで気晴らしに見ようと思ったんすよ。」
廊下の窓から見える月を親指で指す。
「あー、なるほどっす。」
伏見が返事したあとに少しの沈黙が流れた。
「……………………………………………。」
「……………………………………………………。」
少ししてから沈黙を葛葉が破った。
「ガっさんは……、もちさんの隣にいることにしたんすね。」
もちさんとは剣持の事である。
葛葉の言葉に伏見は困ったように答えた。
「そう……っすね。俺がこの世界に入れる限りは刀也さんの事見守っていたいっすからねぇ。」
葛葉が伏見の方を向くが、伏見の顔は月明かりに照らされてはっきりとは見えなかった。
「生徒として入学しなくてよかったんすか?」
葛葉は再び月を見上げ聞く。
「俺はそこまで出来る力は持ってないすよ!」
少し悔しそうに伏見は答える。
「そういうズハくんも叶くんを探してここまで来たでしょ。」
伏見の言葉に葛葉は答えなかった。
「………ま、どうしたいかを決めるのはズハくん自身だし、俺は口出ししないっすよ~。」
伏見は再び歩きはじめ、廊下の奥へ消えた行った。
「………………。」
葛葉も自分の寮へ戻るために歩き出した。
ここホグワーツには”昔の仲間”がたくさんいる。
しかし仲間だった事を覚えている者はほとんどいない。
姿形、名前が一緒でも自分が知っている彼らではないと受け入れなければならない。
それがどれだけ辛く、苦しいかは”残された者”だけが知っている。