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それでは
どうぞっ。
ーーー
💛「桜花。」
名前を呼ぶだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。
私の声に反応しない、その寝顔さえも美しくて、そっと指先で彼女の頬に触れた。
たまたまホテルの部屋割りが一緒になっただけの夜。
桜花はソファに横たわったまま、疲れ果てたように眠っている。誰にも見せない悔しさの泣き顔を、さっき楽屋の隅で見てしまった。
涙の跡が残る頬。乱れた髪。
あんな顔、ファンにも、誰にも見せないのに。私だけが知ってる。
それだけで、どうしようもなく嬉しかった。
💛「桜花。」
💛「私のこと、嫌い?」
答えはない。眠っているから。
けど、もし目を覚ましたら、いつもみたいに優しく笑って『そんな訳なじゃん』って言うんだ。
そうやって誰にでも、同じ顔で。
ずるいよね。
ずるい、ずるい、ずるい。
私だけのものになって欲しい。
他の誰にも触れさせたくない。ステージの上でも、ファンの前でも、カメラの前でも。
私にだけ笑って、私だけを見て、私だけの名前を呼んで。
そうじゃなきゃ、もうダメなの。
そっと唇を寄せた。
寝息を感じる距離で、囁くように名前を呼ぶ。
💛「桜花…、。」
柔らかい唇が触れる寸前で、桜花は微かに眉を動かした。
一瞬、胸が跳ねる。
目を覚ましたらどうしよう。嫌われるかもしれない。拒絶されるかもしれない。
けど、それでもいい。
傷つけられても、突き放されても、私の心から貴女が消えるわけじゃない。
なら、いっそ。
奪ってしまえばいい。
どうせ、他の誰かに渡るくらいなら、私だけの檻の中で、私の言う事だけを聞いて、私だけを愛してくれたらいい。
私のものになって。
壊れてもいいから。
💛「好きだよ。桜花。」
唇が触れた。
それはひどく甘くて、どろどろに溶けた感情の味がした。唇を重ねた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
___綺羅。
微かに、夢の中で名前を呼ばれたような気がして、咄嗟に私の手は自然と桜花の首元へと伸びた。繊細な鎖骨の上を撫で、薄く汗ばんだ肌の温度に、どうしようもなく満たされる。
このまま目を覚さないでほしい。
このまま私だけのものになって。
そしたら、どんな風にでも可愛がってあげる。
逃がさないし、許さないし、誰にも渡さない。
もうずっと前から、貴女は私のものなんだよ。
本人が気づいてなくても。
💛「ねえ、桜花。」
💛「もう、……私だけのものに、なってよ。」
重ねた唇に、もう一度囁いた。
返事なんかいらない。ただ、私の知らない誰かの元へ行くくらいなら、このまま閉じ込めてしまいたい。
目を閉じたままの桜花の唇が、微かに動いた。
💜「…、綺羅………。」
それが夢でも幻でも、もうどうでも良かった。
だって今、この瞬間は、貴女の全てを独り占めできたから。
この歪んだ夜の、暗い部屋の中だけは、私だけの桜花だった。
end…