ガチャで引いた町召喚で火山渓谷の町、ロキュンテを呼び出した。砦を含めた一帯に町を呼んだことで何かしら影響はありそうだが、なるようになるだろう。
「アック様、アック様~! 何度来ても故郷の空気は美味しいものですよね~」
「どんな味なんだ?」
「も~う!! そうじゃなくてですね~!」
「……冗談だ」
相変わらず元気なドワーフ娘だ。それに引き換え、シーニャとフィーサは静かな寝息を立てている。当初はラクルに戻るつもりだったが、眠る彼女たちをそのままにしておくわけにもいかず仕方なしにロキュンテに来るしか無かった。
「そういえば、アック様の故郷はラクルでしたっけ?」
やはり聞いて来ると思っていた。ドワーフ娘とはいえ人間の部分が強い彼女のことだ。知りたいことはとことん聞きたいに違いない。故郷のことはあまり思い出したくないのだが、ここはしらばっくれておくことにする。
「あそこは倉庫しかないからな。故郷みたいな場所であってそうじゃない」
「どこなんですか~?」
「……そのうちな」
「はいっ! 楽しみです~!」
楽しみにされてもおれの故郷に行けるかどうかは別問題だ。
「あ~!? また町を呼び出したんですか、アックさん!!」
呑気にルティと話をしていたら、早くもルシナさんに見つけられてしまった。彼女はルティの母親ではあるが、会うたびに見惚れそうになる。そんな彼女に転送士のことを助言されていたが、上手く行かなかったので素直に謝らなければ。
「心配しなくてももう呼べませんよ。寄り道と言いますか、そんな程度でして……」
「そんな程度で済むとお思いですか!! 寄り道なんかで呼び出されたらたまったものじゃないんですよ?」
よく分からないが相当お怒りのようだ。
「いいですか! 人はともかく、町を動かすと負担が大きくて色々大変なことが起こるんです! ルティシアと一緒にいるからって、お気楽に考えられても困ります!」
町召喚は色んな意味で危険だった。もう呼ぶことは無いだろうが、説教されるとは思わなかった。
「母さま、アック様はわたしの為にですね~」
「ルティシアは黙っていなさい!」
ひたすら頭を下げていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「これを工房に運べばいいんすか?」
「早くしてくれ」
「へ、へい」
声のする方に顔を上げると、ルティのミルクで眠らせた戦士の男たちの姿があり、懸命に何かを運んでいた。しかもよくよく見ると、見慣れない冒険者までもがドワーフに従ってるように見える。
「ようやく気付きましたね、アックさん」
「もしかして巻き添えの……?」
「そういうことです。分かりましたか? 町だけを呼び出したつもりでも、そこに巻き込まれる人だっているんです。もっとも、あの冒険者たちは居着いてしまいましたけど……」
町召喚の範囲外だと思っていたが、丁度良く巻き添えになってしまったようだ。考えようによってはここへ来たことで彼らはザーム共和国からのお咎めを受けないことになる。
しかし、やはり素直に謝っておこう。
「次から気を付けます」
「――とまぁ、厳しいことを言いましたけど、アックさんにまた会えて嬉しいです!」
ルシナさんに怒られてしまったが、信用されているからこそのお叱りだ。しかしこれ以上信用を失うような行動は避けねばならない。
「ところで、ルシナさん。薬師について何か知りませんか?」
「薬師ですか? もちろん存じてますけど、何か困りごとでも?」
「えっと、実は……」
「その前に、背中にぶら下がっている女の子と剣の女の子をきちんと休ませましょうか」
「あ、そうですね」
相変わらずしっかりしている女性だ。
ルティも将来しっかりしてくれるんだろうか?
「ルティシア、あなたはあの人のお手伝いに行きなさい」
「はい、母さま!」
「後でアックさんも行かせるから、いい子にしてなさいね」
「はいっっ!」
当然といえば当然だろうが、母親のしつけは完璧だ。おれはそんなルシナさんについて歩き、ルティの家にやって来た。
「ここはルティシアのお部屋ですけれど、女の子たちをそこのベッドに。そうすればきっと……」
「何か?」
「獣人の子は途中で回復系の魔力を覚醒させたはずです。少なからず、魔力消耗の影響がありますよ」
「――! そこまで分かるんですね……」
「ミスリルの子は魔石の影響を受けています。そして同じく何かの力を使ったのではないかと」
ルシナさんは占術士だと聞いていた。先のことが見えるのだとしても、そこまで分かるものなのだろうか。
「なるほど……」
「さて、アックさん。薬師のことについて何をお知りになりたいのですか?」
かいつまんでだが、ルシナさんに砦で出会った薬師イルジナのことを話した。
「黒い気配を持つ者ですか? ……それは妙なことです」
「妙なこと?」
「薬師は魔法よりも調合に長けたスキルを備えています。回復魔道士よりも、回復に長けているとも言われています。それだけに薬師が悪い流れに乗るのは考えられないのです」
砦で出会ったイルジナのことをそこまで掘り下げるつもりは無い。だが、地下洞での顛末は気になる。レイウルムを狙っているのも爆発から逃げて来た辺りの気配で気付いた。
そうなると心配なのは今後だ。盗賊たちの地下都市に何事も無ければいいのだが。
「なるほど。何となく分かったかもです」
「それは何よりです! それでも薬師のことが知りたいのでしたら……、薬師の村に行かれてはいかがでしょうか?」
「そんな村があるのですか?」
「ええ、割と近くに。でもドワーフじゃないと行けないんですけどね~」
行けないと知りながら話すのはどうなんだ。
「でもルティシアがいれば多分行けると思いますよ。用事が済んだら行ってみるのもいいかもしれませんね」
ルシナさんは思わせぶりすぎる。
「ところでルティは?」
「あ! そう言えば、アックさんは魔石が必要ですよね?」
「まぁ、必要というか何というか……」
何かを誤魔化されたような気がするが、魔石のことで何か知っていそうだし聞いてみるか。
「ぜひぜひ鉱石ギルドの依頼を受けてください~」
「それが魔石と関係が?」
「はい、それはもう~! 今ならルティシアもいますから。きっとお役に立てますよ」
「……そういうことなら」
なまじ町を呼んで悪影響を及ぼしているだけに逆らえない。それにルティの母だけあって押しが強すぎる。何にしても、薬師の村の前にギルド依頼でも受けてみるとしよう。